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最後の仕事①

「…グリキ?」

「…おい、前に言わなかったか?わたしの名前は」

「怒った…?クリス」

「まぁぁ、美しい…女の子ですわねぇ?」

「え、キアラって女なの?!」

「…キアラはオス。メスじゃない」

「まぁぁ…美しい男の子でしたのねぇ…!」


また音も気配もなく背後からかけられた呼び声に、すかさずツッコミを入れる私と、目を輝かせるソフィアナ様。

これ、王宮での一幕かと思いきやなんと、城下で蚤の市が開かれている広場での出来事である。




そもそもの始まりは、私があることを決意したことだった。

そのあることとは図らずも、ゲームのシナリオに沿っている。

『貴方が王様になるまで』は乙女ゲーではあるのだけど、それ以外に攻略対象と共に国を守るというミッションがあるゲームだ。国を守りきれなければたとえ攻略対象との好感度がマックスでもトゥルーエンドにはならない…考えてみると結構忙しいゲームだね。上げるパラメータや狙う攻略対象によってその方法は変わってくるが、どのルートでも絶対に必要になるのが、クリスの魔石だった。


クリスは死ぬ前に4つ、巨大な魔石に魔力を込めた。クリスがルドルフ王子の離宮でどのような心境にいたったのかは語られていないが、人の拳よりは少し小さいくらいの大きさの魔石に彼のもつ最大量の魔力を込めていたらしい。しかもルドルフ王子に渡すノルマの魔石とは別に、である。いったいどうやってそんなにたくさんの魔力を供給していたのか…まぁ、ゲームの中ではそんなことは些細なことで、追求されることも無かったようだ。


とにかくその4つの魔石は、クリスの手で攻略対象たちに渡されることになる。彼の死ぬことになるテンの村襲撃前の事だったらしい。そう考えるとクリスは何か予感でもあったのかな。


クリフォードさんがゲームの中で主人公に、『この魔石をクリスが持ったままでいれば、あいつは確実に助かっていただろうな』と自分を責めているかのように言う場面があったけれど、同じ立場の私からすれば、その魔石はきっとクリスからの最大の好意だったと思う。彼らを守りたい、そう強く思った結果だったはずだ。


しかしながらその4つの魔石、実は4人の攻略対象に全部渡ったわけではない。その一つはこの、ソフィアナ・エイベル侯爵令嬢に渡ることになる。


クリスとソフィアナ様は、ゲームの中ではおそらく全く接点は無かったはずだった。どの攻略対象も知らないだけで、実は会っていたのかもしれないんだけど…当のソフィアナ様が『わたくしが我がままを言って譲らせたものです。これはわたくしの…罪の証ですわ』としか言わないので真相は闇の中である。っていうか、主人公のシナリオ攻略に関してこの辺は全く関係の無いことなんでガッツリ省かれた感があります。ゲームってそんなもんだよね。


結果、ムウファにクリフォードさん、ソフィアナ様、さらにキアラが魔石を持っていて、その好感度が高ければ魔石を譲ってくれたり、時にはミニゲームで勝たなければくれなかったり…色々だったな。やっぱりこのゲーム結構忙しry。



そしてこの時の私も、巨大な魔石制作を思いついていた。しかもゲームの中とは違って、新たな防御魔法も一緒に。

その防御魔法については後にするが、この目標のためにまず私がぶち当たったのが魔石の確保だった。


ルドルフ王子陣営は今が正念場なのだとなんとなく分かっていたし、何やら私は表舞台には立たせてもらえない。そんな中で魔石が欲しい、実験してみたい、などと王子に言い出す時間も余裕も無いように見えた。なので王子ルートでの確保はアウトだ。そもそも大きな純度の高い魔石なんて値段を考えたらとても頼めない。いつも貰っているのもかなり値の張るものっぽいし…。私って金のかかる女だったんだな。あ、今言っていてゾッとした!


次にソフィアナ様だが、天下の侯爵令嬢でもそこまでの魔石は用意できないと言っていた。前に貴族の懐事情をあけすけに語ってくれた事があったんだけど、大きい魔石は装飾品としても希少なものみたいで、それこそ王族くらいしか複数の所持はしていないだろうって仰っていた。


これだけ聞いても大きな魔石の希少性が窺い知れますね。テンの村でも見たことが無かったし。自分で探しに行くのも現実味が薄かった。買うなんてことも貧乏平民の小娘には逆立ちしてもムリです。


そこで何とか考え付いたのが、城下に流れてくる掘り出し物を探す…というものだった。

ソフィアナ様曰く、王宮でいらなくなったものや、老舗の商家や貴族たちが使い古したもの、腕利きの冒険者が持て余したものなどが城下の蚤の市に集まるらしい。中にはかなりの掘り出し物もあるとか。


アランが売りに出している道具の収益を少し私にも渡してくれているので、それで何とか掘り出し物の魔石を探そう!と思った次第だ。


そしてほんの少しの外出許可を求めてソフィアナ様の所へ行った私に返ってきたのは、


「あら…殿下は外出は控えるよう言ってましたけれど、少しなら良いですわねぇ?では行きましょうか!」


だった。


侯爵令嬢が何を言ってるんですかとか、え?行くつもり?なぜ?とか散々言ってはみたのだけれど、分かっているでしょうとばかりに笑顔で黙殺されました。この行動力、王子と似たものをひしひしと感じますね。


もちろんソフィアナ様を一人歩きなんてさせられない!という人はたくさんいるのだが、その点を考慮してコッソリ出かけましょう!と声高らかにソフィアナ様本人が仰ったので、もう私は諦めた。幸い城下の蚤の市は人も多くてとても人さらいなんか出来る場所では無いし、衛兵も監視に来る大規模なものなので危険は少ない。王子とムウファに見つかる前に必ず帰って来ようと腹をくくったのだ。


そして早朝、掘り出し物が売れてしまう前に見つけるべく、使用人風の恰好で私とソフィアナ様は城を出た。そこからのソフィアナ様のはしゃぎっぷりはここでは割愛させていただこう。



「クリスこれは何かしら?!」

「ああ、きっと髪飾りですね。似合いますねソフィ」

「まぁそう?じゃあこれいただくわ!」

「まいどっ!お嬢ちゃんベッピンさんだからサービスしとくよっ!」

「まぁ!!ありがとうおじさま!!」


これはもう何度目か分からないやりとりだった。ソフィアナ様は行く先々で何かを買っている。はしゃぎすぎです、お嬢様!


頬を染めお礼を言うソフィアナ様に、出店していたおっちゃんは驚いた顔をしている。今までオジサマなんて言われたこと無いんだろうな…という何ともしょっぱい気持ちになりながらそのやり取りを見守っていた私にかけられたのが、トラウマになってしまった野菜の名前だったのだ。



間が空いてしまいました。そもそもこのお話、何なら短編くらいに思っていたのに、なんでこんなに長くなってしまったんだろう。

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