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幕間④



「ご報告いたします。北西、ドウラン港にて烈火の魔術師がクラーケン討伐成功。一時港は高温のため立ち入り禁止になったようです。どのような魔法を使ったのかは精査中であります。現在王都に帰還中とのこと」

「第3王子に関しましては、負傷者の治癒のためトラヴァンス砦に向かったとのことです」

「トラヴァンス砦への魔獣の進行率はどうだ?」

「現在40%ほどかと」



「…ルドルフは相変わらずの忙しさねぇ…。接触する機会がなくて困ってしまうわね?シード?」

「は。烈火の魔術師に関しては何度か刺客を放っておりますが、全てが消息を絶っております…」


窓の無い、しかし豪華絢爛な部屋には、白にも近い銀色の長い髪を一つにまとめ、薄い夜着一枚だけを着たいかにも妖艶と言う言葉の似合う女性が、幾重にもベールのかかったベッドに寝そべっていた。その傍らには、一目で死線をくぐりぬけてきたと分かるような屈強な体の壮年の兵士が立っている。片目はつぶれているようで、顔の右側に走る傷跡が痛々しく見えるが、本人は塵ほども気にしていないようだ。そしてその2人に向かって、部屋に入ってすぐの所に立っている黒ずくめの男が2人.それなりに抑えた声で報告を上げ、それが終わると音もなく姿を消した。


「…なんという情けの無いこと。たかがドブネズミ一匹、仕留められなくて将軍と言えて…?」

「…面目ございません。しかし件の魔術師は一瞬にしてあたり一帯を焦土に変える魔法を撃つようなバケモノです。並大抵の刺客では…」


口を開いた傷のある兵士が話を終える前に、女性が彼に向かって腕を振り上げた。


「言い訳を聞いたのではない!どのように仕留めるつもりだと聞いている!…もしくは、こちらに付かずにはいられないような理由を作るのでも良いのよ…?できるわねぇ、それくらい?」


突然激高したかと思えば一転し猫なで声を出した女性は、傷のある兵士の頬に手を当て、甘えるような仕草を見せる。それに眉ひとつ動かさず、傷のある兵士は女性に向かって跪いた。


「…申し訳ございません。今しばらくお待ちください。必ずや御前に首を持ってまいりますゆえ」

「そうね?ルドルフの力などたかが知れているけれど、あの忌々しい魔術師は目障りだわ…本当にどこで拾ってきたのかしらねぇ…」

「今全力で探らせていますが…あちらもなるべく隠しておきたいのでしょう」

「あのような化け物、そうそう出てくるものでは無いのでしょうけれど…なるべくなら出地から潰しておきたいものねぇ…?ああそれとも、弱みを握ってやるのも捨てがたいかしら…?」

「…ヤツは周りとほとんど接触をしません。気を許しているのは第3王子殿下のみ。親族を見つけられれば…」

「あのような化け物に親などいるのかしらね…あの魔獣を使うのはどう?」

「魔獣…キアラには現在新たな仕事を与えております。奴には細かい指示ができませぬゆえ…」

「教養のない獣はこれだから…まぁ良いわ、飼い主は貴方ですものねぇ。わたくしが口を出すことではないわね…?」


妖艶ではあるが、女性の仕草はどこか幼い子供を連想させるものであった。


「ルイネイルにはあまり時間が無いわ。まだ力が足りないの…どのようにするのも貴方に任せているのだから…早くしてちょうだい。もう長くは待てないわ…」

「必ずや…!なれば、どうぞお嬢様…隣国との話を進めるのはもうしばらくお待ちください、何卒…」

「ふふ…シード、それは貴方の仕事次第ねぇ?お願いよ?…ああ、力を削がれて絶望するルパンドを見るのが本当に楽しみ……待ちきれないわぁ」



そうして女性はそのまま、その傷のある兵士を抱き込んだ。もはや正気には見えない女性に、しかし兵士は何も問うことはなかった。誰も近づくことの無いように言い含めてあるこの部屋には、今や熱を帯びた男女しか存在していない。


「…お嬢様…」

「…無礼な。王妃様とお呼びなさい」


荒い息遣いだけが響く中、お嬢様と呼ばれるこの妖艶な女性の顔には、快感によるものだけではない笑みが浮かんでいた。




だいぶ話を広げている感じになっておりますが、もう少しでクリスの走馬灯は終わりになると思います。そこでいったんの区切りにする予定です。

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