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幕間③


ザシュッ



鋭い牙と巨大な体躯に魔力さえもを持った獣、魔獣と呼ばれるそれらの首を刎ねて、その少年はため息を吐いた。


「っはぁぁ~!やっと終わったぁ!」


その声に反応し、魔獣の毛皮や牙を刈り取っていた少女が顔を上げる。


「ちょっとエド!さぼってないで手伝ってよね!」

「わぁかってるよモリー!あ~~さっさと依頼達成証明もらって王都に戻りたいぜ~…」

「それは同意だね。もう数か月帰ってないからな~…」


モリーと呼ばれた少女は少し苛立たしげに二人の少年に呼びかける。それにエド、と呼ばれた少年ともう1人が反応して頷いた。王都より南西に下ったところにある谷に3人はいた。ここは冒険者の谷と呼ばれており、中級冒険者が己の腕を磨くために入るような場所だ。


未だ幼く見える3人の少年少女は、その外見からは想像もつかないほどの手練れのパーティとしてその名を知られ始めた、駆け出しの冒険者たちだった。


「しっかし今回の依頼、ちょっとしんどくねぇか?」

「…だよね。この雷虎だってこの谷にそうそう何匹もいるもんじゃないのに。これで3匹目」

「っていうか、この依頼まだ私たちには早かったんじゃないの?そりゃ報酬は大きいけどぉ…」

「またモリーはすぐそういう事を…俺たちのレベルから言ったらこれくらいが正当だってアラン兄も言ってたでしょう」

「だって最後に宿取ってから何日経ったの?!エドとショーンは良いかもしれないけど!私は女の子なのよ!」


お風呂!と騒ぐ少女を後目に、少年2人は顔を寄せ合って話す。


「よくもまぁ風呂とか言ってられるよな。贅沢モノめ」

「あはは、ちょっと前の俺らだったら考えもつかないよね、お風呂」

「まだこれでもスラムの人間全部を食わせられてねぇんだからな!モリー!」

「知ってるけど!お風呂を失った乙女心というのもがねぇ!」


場所を忘れたかのようにその場で言い争い始めた少年と少女に、残った一人は笑顔でスパーンと二人の頭を叩いた。


「それは今は良いから。雷虎の繁殖の可能性含めて早く報告に帰ろうよ…喧嘩は後で、ね」

「「は、はぁ~い…」」


頭を抱えた二人はお互いに、ショーンの前では喧嘩禁止だったの忘れてたな(ね)!!と囁きあう。そして家族のような気安さでお互いの装備やケガの有無を確認し合い、早々にその場を後にする。


アウシュグスト王国の王都に存在するスラムには今、緩やかに変化が起きていた。貴族のような中枢部には決して悟られないように緩やかに、それでも確実に、スラムの在り方が変わってきていたのだ。

その最たる存在が今のこの3人の冒険者だった。彼らが突然にギルドの扉をたたいた時、学も無く、人との縁も持たず、市民権すらも無いことから周りの嘲笑を買ったが、彼らはその実力でもって周りを黙らせた。

今までスラムとはゴミの掃き溜めの場である、と大勢が考えていた節があった。それを覆し、スラムは人材発掘の場であると認識させたのは、この3人およびその血のつながらない兄弟たちの功績だったのである。


「そういえばモリー、今日の防御魔法ちょっといつもと違わなかった?」

「さっすがショーン!気付いた?クリスに教わったのと少しやり方を変えてみたんだ~」

「マジかよ?!さすが…魔法バカ」

「え?何か言った?え?切ることと穴を掘ることしか能がない誰かさんが?えぇ?」

「ぐっ…」

「やめなさいモリー。エド、君はそのままで十分強いんだからね?クリスもそう言ってたでしょ」

「うぅ…所詮俺なんてこの剣と罠作ることしかできない落ちこぼれなんだ…」

「ハァ…アラン兄さんとクリスにあれだけ可愛がられておきながらこの気の弱さ…もっとしっかりしなさいよねエド!」

「モリー…君のその気の強さをエドに分けたいよ俺は」


幼いながらに中級冒険者と肩を並べる彼らの名を知らしめたのは、ひとえにその戦い方であった。力の強いものが勝つ、単純な腕力や揚力、魔力の多いものが強いとされてきた冒険者の世界で、子供でありさらに一人は女でありながら、彼ら3人は大の大男にも負けなかった。少女が放つ魔法は初級の物でも上級魔法に負けない威力を持っていたし、少年達はその身軽さを利用した、相手の力を利用するような戦い方をする。そしてその手には今まで誰もが見たことの無いような武器を持っており、これがまたどんなものでもたちどころに切り捨てるような強力な切れ味を発揮した。その武器はどこかのダンジョンで出た特級のモノであるとか、名のある鍛冶師が打ったものであるとか様々な憶測が流れていたが、その真相はいまだ語られていない。


「今回の報酬でとりあえず孤児院のやつらは皆あそこ出られんな」

「あぁ早くみんなに会いた~い!」

「アラン兄にこの剣の問題点とか色々報告もしなきゃいけないし、やることはまだまだ多いけどね」


そう言いながら3人の少年少女達は谷から一番近いギルドまで戻ってきていた。


「採取した薬草と討伐対象の魔獣の確認お願いしまーす!」


そう言って少女は受付でギルドカードを出す。それに倣って少年達も自分のギルドカードを出そうと懐を探っていた。


『おい、聞いたか?』

『また隣国とのトラブルだってな~。しかも今回はかなり大きな武力衝突があったって言うぜ!』

『そろそろ戦争かもな~』

『この国そろそろ出るか?巻き込まれちゃたまんねぇよ』

『まぁ戦争になったとしてもこっちにゃ烈火の魔術師と第3王子がいるんだ。あいつらぁ国の上級騎士ですら束になってもかなわねぇ魔力持ってんだ、こっちに負けはねぇよ』

『おいおい殿下に不敬だぜぇ~。まぁ烈火のはな~、あいつぁ化けモンだ』

『ちげぇねぇ!』


ギルドの端にあるテーブルに座って、昼間から酒を飲んでいるような冒険者たちが大きな声でがなっている。


「…化け物、ね」

「烈火の、ってアレだよな。クリスの…」

「…クリスに会いたいなぁ」

「アイツ最近、全然外に出てこねぇからな…」

「アラン兄も何も話してくれないけどさ。たぶんクリス、国の中枢に取り込まれちゃってるよね?」

「クリスなぁ、隠し事ヘタだからな~…」

「噂レベルだけど、烈火の魔術師と第3王子が大事に隠してる少年がいるとか聞いたよ」

「…少年じゃねぇけど、間違いなくソレだよなぁ?」

「…ばかクリス。なんでそんな危険なトコにいるのよぉ…」


ギルドカードを提出し受付係の女性の対応を待つ間、彼らは顔を寄せ合って酔っ払いの冒険者たちの声に隠れるように会話していた。


「…戦争になったときに第3王子ってさ、クリスをどう使おうとすると思う?」

「…こ、怖いこと言うなよショーン…」

「それよ…たぶんアラン兄は、いつかの時のために手を広げてるんだよね?何かあったらみんなでどこか外国に逃げられるようにって…」

「シッ…めったなコトを言うなモリー。…でも多分、俺らはもっともっと強くなって上級のレベルに上がって、色んな国とコネを作っておくべきなんだよ。何があっても、今度は俺らがクリスやみんなを守れるようにね」


彼らは何かを思い出すかのような遠い目をして、そして目を閉じた。


「げぇ…責任重てぇ~…」

「エド…あんた…」

「エド…?てめぇどつくぞクソが」

「し、ショーン!口調戻ってる戻ってる!!」

「じ、冗談だよ!ごめんってばショーン!」


受付嬢が依頼達成の報酬を手に受付へ戻り、彼らの名前を呼んだためそこで会話は途切れた。彼らはその言葉通りこれから急速に上級の冒険者へと駆け上っていくことになるのだが、それはまた別の話である。





エド:土魔法に長けている。剣士を目指しているが罠を張ったりする地味な作業が一番うまい。

モリー:魔力制御がうまいため、防御役としてパーティの要を守る。女子力を上げることが目標

ショーン:アランに何やら色々仕込まれている。人当りのいいキャラクターを模索中。


次回もまた幕間になるかもです。カメの歩みになって申し訳ありません。

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