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アランの野望②

私が最初にアランや仲間たちと会ったあのスラムの孤児院で、私と同じように空中や大地に魔力を垂れ流しにしている子供たちを見つけた時の衝撃と歓喜は今でも鮮明に覚えている。

子供たちが魔力を外に垂れ流している見覚えのある光景に、この子達は私と同じ魔力質なんだってすぐに分かった。

彼らは割合から言えば少数だけれど確かにいて、ああ…私だけじゃなかったんだって、本当に安心したのを覚えている。ゲームの『クリス』はもっと酷かったのだろうとは思うのだけれど、『今までに類を見ない』能力を持っているということは、私にとっては孤独でしかなかった。もちろん私には母さんやムウファがいてくれたんだから正確には孤独とは言わないけど…なんとも言い表せない感情をずっと持っていたのだと思う。


だからこそ彼らに魔石という手段を教えたし、その他の子達も含めて魔力操作の手ほどきをしたりもしたのだ。まぁ、半分は遊びの一環だったんだけどね。

このことは勿論私の独断でやってしまったことだったけれど、後悔は無かった。私と同じように存在を軽んじられてきた彼らに、生きる選択肢を増やすことができて満足感すら感じていた。

今は自分勝手だったなぁと苦笑いしてしまうんだけど、あの時は彼らを見つけた喜びに突っ走ってしまって、あとからサーッと青くなった。王子に何の断りもなくやらかしてしまったと気付いたからだ。しかもその頃には私はもう、ムウファや王子と同じくらい、孤児院の仲間たちを絶対失くしたくないと思ってしまっていたのだ。

その全てをあの誓いの丘で懺悔するまで、私はしばらくモンモンとした気持ちを抱える日々を過ごしたのである。いやはや、なんて考えなしで鬱々とした人間なんだろう、私。



「おぉい、どうしたのクリス?なんで落ち込んでるのさ?」


自分の身勝手さを思い出してズーンとしていた私の顔をしたから覗き込んだルドルフ王子が心配そうな顔でそう訪ねてくる。


「いや、久しぶりに自分のバカさ加減を思い出して…」


「おぉ、やっと自覚したか」

「ムウファ、ちょっと思いっきり殴ってくれよ…」

「ばぁか、あとでたっぷり話聞いてやっから大人しくしてろ」


私とムウファがごちゃごちゃとじゃれあっている間に、元気じゃないかと苦笑した王子はアランの方に歩み寄り、話し合いは進んだ。


「これァなかなか量産するのが難しんだ。クリスみてぇな魔力質のヤツぁそんなに数がいねェからな。しかもできれば、作り方や製作者が分からないように売り出したい」

「もちろんそうだね。クリスのような魔力を持った人間の存在は今まで確認されていない。各方面から恰好の餌になってしまうだろう」

「ま、あいつ曰く確認されてなかっただけで、確かに存在はしてたって事みてェだけどな」

「…その点も含めて今は秘匿しておきたいところだね。でも君のアイディアは確かに…金になる」

「お?言うじゃねーの、王子様よォ!」


キラっと瞳が煌めいた王子に、アンタなんか普通と違うな!とか言って嬉しそうにアランが乗っかった。おいアラン、その人王族だからな!王子も何をいたずらっ子のような顔している!



「製作者さえハッキリさせないまま商品価値を付けるとなると…大きな商会を通すのが一番だな…」

「商会なァ~、信用できんの?」

「…実はそれが一番難しい。できれば中立派か、もしくは王太子派の商会でないと…でも僕が直々に頼んでしまっては後々スラムの事が表に出たときに具合が悪いんだよね…」

「それ。そういうのがめんどくせんだよなァ…」


王子とアランが悩み始めてしまった。こういう時私とムウファはまったく役に立たないんだよな。田舎モンだから商会なんてまったく当てがない。


「そうだ、クリス。王都に来た時の話聞かせろよ!父さんは元気だったんだよな?」


ムウファも早々に考えることを放棄して私に話しかけてきた。そういえばまだ、王都に来るまでの道のりについて詳しく話して無かったな。私は、いかに村長が格好いい大人であるかを切々と語った。


「…もういーよ…父さん以外の話しろよ…」

「なんでだ!ムウファ、お前にもあの渋くて強くてそれでいて落ち着いた村長の血が流れてるんだぞ?良いなぁ!」

「いや、父さんはお前が言う程落ち着いてねーよ。夢見すぎだろクリス」

「なっ、そんなことない!私と母さんが不安に思わないようにってずいぶんと世話をしてくれたんだぞ!それに途中で盗賊に襲われたときも…」

「あん?!盗賊?!おま、その話聞いてねーよ!」

「だから、盗賊に襲われてた商人の一家を村長が颯爽と助けたんだよ!あの人さすがだな、ムウファと同じで炎系の魔法がうまいのなんのって!」

「父さんのことはいーから!とりあえず無事だったんだな?!」

「うん、全員無事だったよ。襲われてた馬車にお嫁さんと赤ちゃんも乗っててさ~。その2人がまた可愛くって…あ、そういえばその時これ貰ったんだよ。いつか挨拶に行かなきゃな~」


ムウファに話しながら、私はあの時に商人のおじさんから貰った紙のことを思い出していた。そういえばこの鞄に入れっぱなしになっていたのだ。私はその紙をゴソゴソと取り出して、地図と共に書いてある店の名前を読み上げた。


「えぇと、モンタナ商会…」

「えぇぇっ?!」


私とムウファは同時に肩をビクッと震わせた。王子があまりにも大きな声を出したからだ。ちょっと、普段あんまり取り乱さない人の大声は怖いです王子…。


「モンタナ?!商会?!」


王子が私の肩をガシッと掴んで、グラグラと揺さぶってくる。


「そ、そう書いてありますぅ~!」


昔と比べて相当に逞しくなった王子は力も強くなっていて、その力でもって思いっきり肩を揺さぶってくる。ぎ、ぎぼじわるい…!!!!


「ルディ落ち着け!モンタナ商会がどうした!」

「なんだなんだ、またクリスがやらかしたってェ?」


ムウファが王子を諌めてくれるが、アランは相変わらず私に対しての扱いがひどい。我に返った王子は少し頬を染めながら、ごめんと私に謝った。そして、また瞳を煌めかせて言ったのだ。


「モンタナ商会は、我が国の商会の中で諸外国を渡り歩く唯一のところなんだよ。普通の商人は危険性を重視して国内での商いを中心にしているんだけど、モンタナ商会だけは別だ。かの商会を仕切るグレイキット・モンタナ男爵が持つ人脈は我が王族を凌ぐのではないかとまで言われるほどだ」


思わぬ貴族の名前が出て、ギョっとした。あの時見た馬車は、多少豪華だったけれど貴族が乗るほどのものでは無いと思っていたのに、まさかあの人たち貴族様だったのか。


「しかもモンタナ商会は中立派だ。王位継承者にとって無視できない力を持ちながら、完全なる中立派なんだよ。未だ僕たちを見極めている最中なのだろうね?」


つまりどういうことか分かるかなクリスティーナ?と、興奮した王子は私に詰め寄った。


「クリス…忘れてんなよそういうことをさ…当て、あるじゃねーかよ」


ムウファはまた呆れている。


「さっすがァ~、ハズさねぇなクリス」


対するアランはピュウと口笛を吹いていた。


そして私は、最近の自分の迂闊っぷりを反省すると共に、何かに導かれるかのようなこの偶然にうすら寒いものさえ感じていた。




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