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アランの野望①

ここはなんだ、地獄か。煉獄の地獄なのか?



正座させられた私の目の前には極上の笑顔を纏った王子が顔を近づけてきていて、横から尋常ではない高温を放つムウファの腕が私をつかんでいる。


「…あ、暑いです」

「ん?何か言ったかな?」

「あ、あつ」

「僕たちの言うことを何も聞かない悪ぅい子が、何か言ったかな?」

「…なんでもありません」


みんなで何とか王都に帰り着いた頃、ちょうどルドルフ王子とムウファも王都に戻ってきていたようだった。

私の知らせを聞き、離宮にも帰らずそのまま側近を数名連れてこちらに向かおうとしてくれていた二人と私は、幸いなことに?門の所でばったり会ったのだ。

その時からムウファからは魔力が漏れ出していて、あたりは夏のようにあつくなっていた。

顔を見てすぐ、ムウファが切れてるなと察した私はそのまま仲間と別れ、王子の離宮にやってきたのだが…



「ムウファ…」


ごめんと言って済ませてしまうには、ムウファはあまりにも悲壮な顔をしていた。


「一歩間違えたら死んでた」

「…うん」

「お前はなにも分かってない」

「…う、ん」

「クリス、僕の渡したペンダントは見てくれたの?」

「…見て、ない」


二人は大きなため息を吐いた。


「…ダメだ。これはもうどこかに閉じ込めるしかねぇ…」

「ムウファ、怖い怖い。…ん~クリス?あんまり自由にしすぎると、僕にも考えがあるからね?」


王子は笑顔で諭すように私にそう言ってきたけれど、私から言わせてもらえるならば二人とも怖いです。

でも分かっているのだ、私が軽率だった。現に私だってアラン達を追いかけたし、怒っていた。同じ気持ちをムウファやルドルフ王子に背負わせてしまったと思うと、申し訳なくて心臓がキュッと音を立てて縮まった気がした。



「あーあ、よってたかって女に何してンだか。かっこわりぃ~」



この時この雰囲気をぶち壊す一言か、もしくは油を注ぐ一言が放たれたのは、アランからだ。

あの時、私と共に行くと言って譲らなかったアランを、王子は離宮まで連れてきていた。


「…あ?」

「自分の手に余るじゃじゃ馬だからって閉じ込めるとか、そういう発想がキモイっつーんだよ」

「テメェ…」

「ンだよ?やんのかァ?」


ムウファの殺気がアランに一心に向けられて、なのにアランは全く動じていなかった。アラン、お前はなんて命知らずな…!

二人が一触即発の状態なのを見て、王子はまたため息をつき、そして私の方を振り返って笑った。


「っふふ、そうだね、ムウファ…僕らもちょっと冷静になった方が良いみたいだ。一応クリスは無事だったんだしね」

「ッチ…」

さすがは王子ともいうべきか、ルドルフ王子はすぐに怒りを収めて、ムウファを諌めてくれた。ムウファはまだ全く納得していないようだったけれど、とりあえず部屋の温度は下がった。私は心からホッとした。



「ったくよー。だからクリスには言わなかったっつーのに…」

「あ!そうだよアラン、お前なんでわたしをのけものにしたんだ!」

「あのなぁ…ちょっと見てればお前にヤバそうなバックが付いてるっつーことくらい分かンの。現にこうなってんだろ」

「えっ、知ってたのか?」

「知らないと思ってンのはオマエだけ~」


まぁここまで大物とは思わなかったけどなとつぶやくアランと言い合いをしていると、またガシッと頭をつかまれた。そしてまた室温が上がってきている。ムウファ、魔力漏れ出してますよ…あ、わざとですよね。ごめんなさい笑うの止めてください!


「紹介して、くれるよなぁ?ク・リ・ス・ちゃん?」

「っはい!スラムで友達になったアランです!アラン、こちらはわたしの幼馴染にして烈火の魔術師のムウファです!!よろしくね!!」

「…ヨユーねぇな~」

「うるせぇ消えろ」

「はァァ?てめぇが消えろや」

「あ?」

「あァ?」


私の頭を鷲づかみにしたまま両脇でムウファとアランがにらみ合う。ルドルフ王子が止めてくれるまで、永遠とこの地獄のループは続いた。私は自分の行いを本っ当に心から反省していた。



「で、アランと言ったね。君はここへただのクリスの付き添いで来たわけじゃないんだろう?」

「…あー、さすがっすね。まぁ俺みたいな怪しいガキを身体検査もなしに目通りさせる変態王子なら、こんくらい簡単に想像つくか?」

「っアラン!」

「てんめ…」

「…すごい、僕面と向かって変態って言われたのも初めて…!」


飄々と悪態をつくアランに、私は焦り、ムウファは額に青筋を立て、王子は驚愕に頬を染めていた。カオスだ。ルドルフ王子の名代で夜会に赴いているらしいクリフォードさんが、今日この場にいなくて本当に良かったと思った。



「あー、話続けンぞ。」


しばらくもグダグダと言い合いをしていたのを咳払いで黙らせたアランが次に口にしたのは、目立つことを嫌うはずのアランの性格にはそぐわない、壮大な計画だった。


「俺ァ今回の事で骨身に染みたね。スラムのヤツらの命はゴミみてぇに捨てられんだってこと。こういっちゃ何だけど、スラムにほんのちっぽけな金を気まぐれに落としてく第二王子派の貴族様?何様?が俺らをネズミかなんかだと思ってンのは知ってたけどよ、ここまで簡単に魔獣の餌にされっとはね。今日も俺の知り合いさぁ、数えきれないくらい無駄に殺されたよ。おそらくは人間の過失で怒らせた魔獣にな」


だからこれ以上捨てられる命を増やさないためにスラムを変えたいのだとアランは言った。そのために金を作りたいとも。


私は場違いにも、そうかスラムの管轄は第二王子派の貴族だったかと漠然と思っていた。


「ここ最近ずっと孤児院のヤツらと色々試してたンだよ。で、結構いいセンいけそうだっつーものがあるから、商売にしてもらえねぇかってね」


ちょっと見てみて貰えますかね、と、アランは不思議な形の道具を出した。




一つはおそらく、玩具。素材は木だけのコマのようなものだ。アラン曰く、一つ一つに私と同じ体質の子たちの魔力を入れたクズ魔石を付ける。それも風の属性を付けたものだ。そしてそれをぶつけ合って勝負させるようなゲームを流行らせる。それに加え、一つ一つのコマに付属させる風の強度はさまざまにする。くじ引きのような感覚で、買って使ってみないと強度が分からないようにしておくのだ。


「ここに二つ用意したから試してみてほしい」


アランは箱を持ってきて、その上にコマのような丸い物体を置いた。そしてそれぞれに、「風を纏い、ぶつかれ」と声をかけた。

そうするとその物体は、風を纏って高速で回り出し、お互いにその体をぶつけ合った。キン、キィンと音を立ててぶつかり合うその物体は、最初は拮抗していたが、だんだんと片方の勢いが無くなり、最終的にそちらが箱の外へ弾き飛ばされた。


「おぉー!」

「これは斬新な遊びだ。戦略もいらないようだし面白いね…!」

「この上に残ってる方が当然勝ちってことか」


私たちの反応に少し安心した様子のアランは、その他も色々と説明をした。この箱には決して自分たちの魔法を仕掛けないこと、というルールを作る。そしてこのコマ自体にも自分たちの魔力は入れられない。純粋にコマの持つ力だけで戦うのだ。


「ちなみにコイツらの中の魔力の大きさだけじゃねぇ。外見はもちろん風の纏い方、まわり方なんかも変えられるように今うちのヤツらは毎日研究中。風の纏い方によっちゃ魔力少なくたって勝てるかんな」

これは子供にウケると思う、そんで貴族のコレクターとかにもウケたら儲けもんかなと、アランは締めくくった。



「次に、こっち」



二つ目は、こちらも木でできた、何やら杖に見えるものだった。棒の先端が細く尖っており、その反対側にはまた魔石が付いている。こちらはクズ魔石より少しだけ大きいものだった。それが二本。


「これは地面に刺して使う。ちっと移動すンぜ」


そして以前私とクリフォードさんが決闘を行った中庭へと移動し、アランは片方を私に持たせ、片方を持って相当な距離を取った。実際に私たちの距離が中庭の端と端になったくらいで立ち止まったアランはそのまま、尖ったその杖の先端を地面に突き刺すと私に向かって叫ぶ。


「クリス!お前のも地面に突き刺せ!」


私は言われた通りに地面に杖の先端を突き刺した。それを見届けたアランは次に「大地よ、我が声を通せ」と唱える。

私の持つ杖の先端の魔石が一瞬輝いた。


『聞こえてっか?』

「「「っ!!!」」」


アランは何も大声を出していない。相当な距離を取っているので、こんなに鮮明に聞こえるわけがないアランの声が、常識に反してその杖を介して聞こえたのだ。私たち三人の驚愕は想像を絶するものだった。


『これもクリス、お前みてェな魔力持ちがいてこその道具だよ。対になった双方向に、使用者の声を大地に溶けるアイツらの魔力に乗せるイメージで作った。まぁ今の魔石じゃこれがゲンカイだ。でもこっちの魔力の大きさ次第で、きっとどこまでも声が届く。大地はつながってるからな』


おそらくは国の中枢、もしくは軍に売りつけることになるかもなと、その杖から聞こえるアランの声は言った。


『コレらは全部、お前が俺らにもたらしてくれた魔力操作と魔石があってこそ出来上がったんだ。クリスよぉ、ホントはこんなトップシークレット、俺らなんかに話しちゃいけなかったンだろ?…だから俺らはお前に付いていく。クリスの保護者さんよ、どうだ?』



迷いのないその声に私はまず、アランはどんな顔をしてこのようなセリフを言ってるんだ?と思った。人に警戒心を抱かせない可愛い顔をしたアランは、その出生のためか客観的だし冷めているのだ。こそのままアランの方を見やった私たちは…王子は頭に手を当てて「はは…!」と笑い、ムウファは「最っ高にムカつくドヤ顔してやがる…燃やしてぇ」と言っていた。


でも私にはそのアランの自信に満ちたドヤ顔が、最高にカッコよく見えたのだ。



この場を借りまして、ブクマや評価をくださった方々、読みに来てくださる方々、本当に本当に励みになっています。いつもありがとうございます。今後もお暇な際にはまた見に来てやってくださいませ。

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