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師匠2人目



「…阿呆か、貴様」


私を凍てつく視線で見据えながら、氷のような冷たい声で吐き出されるその言葉は、ゲームでも現実でも変わらないクリフォードさんの口癖だ。




クリフォードさんはあの後かなり長いこと魂が抜けていたが、彼の師匠に一喝されたのだと言って何とか生気を取り戻した。私の役まわりだとか魔力の特異性についても王子から説明があったようで、彼の中でも折り合いがついたように見えた。しかも私が謝りに行った際なんかには本っ当にしぶしぶながら、あの時の暴言ともいえる発言を謝罪してくれさえした。



「私の鍛錬が足らなかったとは思わん。だが少々視野が狭くなっていたのは認める。私が貴様の魔力についてもう少しでも知ることがかなったならば、二度と貴様に負けることもないだろう」


というようなことを、ものすごく葛藤を込めた表情で、相当時間をかけて話してくださったのだ。

対して私はというと、この苦虫を噛んだようなクリフォードさんの顔を見ながら、彼しかいない、と思った。そしてその日から毎日彼の周りに纏わりつき続けるようになるのだ。



「クリフォードさん、いや、師匠。私に武の道を教えてください!!」



そうして頭を下げた私に、一瞬呆気にとられたクリフォードさんの次の言葉が「阿呆か貴様」である。





________________________




『クリフォード・ジェレマイア』は、その凍てついた美貌と辛らつな口調とは裏腹に、ゲームの中で一番のまともな人物であると前世の私の記憶は言っている。彼は『クリス』の、唯一にして最大の理解者であったのだ。


ムウファと王子によってほぼ強引に連れられてきたクリスに対し、当然のように周囲は冷たかった。もちろん魔石のことを話してしまうわけにいかなかった事もあり、クリスは表向きムウファのお荷物のような扱いであったのだから仕方のないことではあったのだが…その中で唯一、クリスを己の目で見て認めてくれるのがこのクリフォードである。


魔法以外でも周りや自分を守り切れるよう武芸を少しでも磨くために、クリスは常に一人で鍛錬を行っていた。そこに偶々通りがかったクリフォードは、クリスの鍛錬方法を見て言うのだ。



『阿呆か貴様…無駄な動きが多すぎる』



そして驚き固まっているクリスに、無能めと呆れながらも稽古をつけてくれるようになる。魔力も、筋力さえも多くないクリスが人並に戦えるように、誰かを守れるように、より効率的な動きを叩き込んでくれるのだ。


王子の傍に無能な男は必要ないからと言ってはクリスを扱いていたクリフォードであったが、彼はなかなかに面倒見が良い男だった。さらに他人にも厳しいが自分にも厳しい彼の姿を見て、クリスは次第に彼に懐いていくのである。

クリフォードの方も、意外にも根性がありどのような訓練にも喰らい付いてくるクリスに、凝り固まった考えを改め、優しいまなざしでクリスの成長を見守るようになるのだ。短い間だったが、濃い時間を過ごした二人はどこか兄弟のような絆を結んだのだと、クリフォードは主人公に語りながら過去を回想する。


『私は奴の本当の望みを知っていたのに、その手助けは何もできなかった』

『奴の本音を知っていたのは私だけだったというのに』



そのような事を言って自嘲じみた顔をするクリフォードさんのスチルが、何を隠そう前世の私は一番に好きだったのである。



もちろん、そのようなゲームの強制力など何も知らない当時の私だったが、クリフォードさんの事は信頼できると感じていた。だって得体の知れない小娘に恥をかかされたというのに、一度吹っ切れてからというものクリフォードさんはそのことについて私をなじることは二度と無かったのだ。言葉は高圧的だが、私を無視するようなこともしない。

高潔な人だと思ったし…それにもう一つ、男性なのだがかなり華奢な体型であるクリフォードさんが操る武道、剣術にも心惹かれるものがあった。つまるところ打算なのだが…この人の武道はきっと私に合っていると、私の女のカンがそう訴えていた。


「なぜ私が貴様のような信用にも足らん小娘の相手をせねばならんのだ」

「お願いします!!」

「バカらしい」

「そこを何とか!!」



「私は女に手をあげる趣味は無い!」

「この前は思いっきり切りかかってきてたじゃないですか!!」

「ぐっ……それは……私は忙しいのだ!」

「何でもお手伝いします!下働きもします!なんでもします!!」


私は体の小ささを生かして、クリフォードさんのまわりをチョロチョロし続けた。私が出入りできる離宮の範囲は限られていたけれど、クリフォードさんに会ったらいつもチョロチョロし続けた。



「ううううるさい!だいたい何故私なのだ!烈火のに頼めば良いだろう!」

「ムウファの戦い方はあのパワーあってのものなんです!わたしには無理です!」

「……確かにあのバカ力ではな…」

「お願いします!女が嫌なら男の恰好してきます!お願いします!」

「…」

「わたしの魔力もお見せします。なんでもお話しします!」

「なっ…なんだと?!本気か!」

「はい!師匠!」

「む…む…しかし…いや…」



これはもうひと押しだと思って更に押しまくった結果、私はこの後無事にクリフォード師匠を獲得することができたのであった。

しかもクリフォードさんはやっぱり思った通り面倒見が良い人で、私はここから急速に武道を極めていくようになる。女の身でも十分に御すことのできる武道は思った以上に体に馴染んだし、鍛練が楽しくてしょうがない私は(きっと前世のひいき目もあったのだろうが)どんどんとクリフォード師匠に懐いていくことになるのだ。



「な……貴様、本当に男の(なり)をしてきたのか?!」

「はい!髪の毛も邪魔かと思って切ってきました」

「………何もそこまでせずとも…」

「え?何かおっしゃいました?」

「何でもない。私は暇ではない。無能な者はすぐに切り捨てるからそのつもりで来い」

「はい!よろしくお願いします!」



余談ではあるが、この頃から私はまた男子の恰好をするようになっていた。王子の傍に女がいるということも良くないことだとまわりの噂話で予想ができていたし、それにスカートや長い髪はジャマだった。私にはおしゃれよりも力が必要だと思ったのだ。

その後は少し背も伸びて男のしぐさも板について、私が刺され倒れるまでずっと男の姿でいることになるのだが、そのことについて私はまったく後悔していなかった。まぁ王子には嘆かれて、ムウファには憤怒の目で見られ続けたけれど、すっかり開き直ってフェミニストの道を歩んでいくようになるのだった。




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