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変わった所、変わらない所

ゲームでのムウファについて話したいが…こいつの場合、特筆すべきは『クリス』への執着だ。


主人公が学園に入るころ、ムウファは魔術師としてかなり名を上げていたにも関わらず、周りに人を寄せ付けずいつも一人でいた。熱くなるのは戦いの時だけで、相手を焼き尽くす炎の中で笑うような切れた人間になっているのだ。


早くからルドルフ王子に引き抜かれ、相手の裏を見るような人々とばかりやりあって来たため、ムウファには腹を割って話せる友達というものが異常に少なかった。

そこへきてクリスがポンと王宮に入ることになったこともあり、ムウファは必然的にいつもクリスと共にいるようになる。クリスの前でだけは、ただの『テンの村のムウファ』になることができるからだ。

クリスもそれをよく分かっていたので、幼馴染を拒絶するようなことは無かった。ムウファの一言で王宮に来ることになってしまったのだと知った時でさえ、責めることをしなかったのである。


さらに、ムウファは彼のできる限りの権限をもって幼馴染を危険から遠ざけたため、クリスはほぼ内勤のような事をして過ごす。魔石生成が主な仕事だとクリス本人も理解しているように見え、不満も何も言わなかったので、ムウファはいつしかすっかり油断してしまっていた。クリスはこの王宮から、自分から離れることはないだろうと。

しかしそれを見計らったかのように、テンの村の襲撃事件が起きる。



クリスがいなくなった後のムウファは、ルドルフ王子以外に心を開かなくなっていく。まるで生き急ぐかのように戦いに没頭するようになっていくのだ。



これはだいたいがゲームの中でムウファの語りや回想によって明らかになることだ。『クリス』については情報が少ないと言ったが、ムウファのルートでは本当にクリスがよく出てくる。何せ最初の出会いで、主人公が『ムウファの友達のことを褒める』という選択肢から始めなければ、攻略ルートにすら入れないのだ。さらにクリスとの過去をムウファに語らせることができなければ、こいつのルートはバッドエンドにまっしぐらに進んでいく。


主人公はムウファの頑なな心をほぐし、クリスのことをきちんと思い出にしようと語りかけ、それをムウファが受け入れてくれるとやっと、トゥルーエンドのルートに入ることになるのだが…。



正直くそ面倒くさい男である。ゲームであれば頑張れるかもしれないが、現実となるととてもじゃないがゴメンだ。重すぎる。




「おまえ、そんな面倒くさい男だったか?」



なので私が現実でそう言ったのも、まったく無理はないのではないかと思う。



ルドルフ王子の帰還を迎えたあと、私は孤児院に帰らずそのまま宿に向かっていた。すぐにムウファに連絡を取らなければと思ったからだ。あいつがあれだけ怒るんだから、相当な事があったはずだと思った。

しかして私はなるべく急いで帰ったつもりだったのだが、なんとそこにはすでに王宮から使いが来ていたという…。

もちろん周りに気付かれないようにこっそりと来ていた使いの人は、母に簡単に事情を説明すると私をかつぎ、一目散に王宮に連れて行った。そしてそのままルドルフ王子の住む離宮へ引っ張り込まれ、王子とムウファと感動の再開と相成ったのである。


なのにもかかわらず、意気込んで挨拶をしようとした私の目の前に、腕を組んだムウファが般若のような顔で立ちはだかった。そうかあの顔は私に対しての怒りだったのか…!と私はその時にやっと理解した。今は変な笑顔ではなく、怒りを素直に表しているので怖くないのだが、とてつもなく面倒な予感がした。


「いつから王都にいる?」

「なぜ連絡しなかった?」

「何をしていた?」

「隣にいたヤツはだれだ?」


予感は的中し、とにかく質問攻めにあった。お前は私の母なのか、と思うくらいだ。最初は私も悪かったなと思い律儀に答えていたのだが…だんだん面倒になってくるのも仕方のないことだと思う。私はもともと沸点が低いのだ。



そしてとうとう先ほどのセリフを我慢できなくなり、さらに「ウザい」も付け足してやった。



私がそう言った途端、ムウファは茫然とした顔をして、ルドルフ王子は爆笑していた。


「っっ…あーっはっはっはははは!!!ウザ、ウザいってムウファ!」

「………」

「ひっ…く、クリス、それは言い過ぎだと思うなっ!ぶっ…ムウファは君のことをずっと心配してたんだから…くく」


初めて知ったのだが王子は笑い上戸だったようだ。もう、久しぶりの再会だっていうのに訳がわからない事ばかりだった。感動の再会はどこへいった?と呆れてしまいそうになったが、これはこれで私達らしいのかもしれない。ならば私は私の言いたいことだけを言ってしまおうと思い直し、口を開いた。



「…なかなか便りを出せなくてごめん」

「…ゆるさねぇし」

「言っとくけど、ずっと忘れたこと無かったよお前との約束」

「嘘つけ…」


ムウファは顔を背け、子供のように唇を尖らせた。


「ばかだな~、わたしお前に嘘ついたことないだろ?」

「…だけど全部話してるわけでもねぇだろ」


思わずため息をついてしまった。どうして今日のムウファはこんなに面倒臭い子になっているのだ?

私はカリンさんがやってくれたように、ムウファの顔を両手で挟んでこちらに向けさせた。コイツ背が伸びたな…差が開いている。イラっとしたので顔を思いっきり引き寄せてやった。せいぜい苦しい体制でいたまえよ。


「手紙はいやだった。全部直接話したかったんだ。会いたかったよムウファ」


本心だった。心から、この友人に会えて嬉しかったのだ。そのことが伝わると良いなと思いながら、目を見て話した。


「わぁぁ~………オトコマエぇ………」


王子が何か言っているが無視だ。

しばらくそのまま見つめあっていたのだが、折れてくれたのはムウファの方だった。


「……んなの、全部こっちのセリフだっつーの…」

ムウファはまた顔を背けてしまったが、今度は怒りからでは無いように見えた。やっと機嫌を直してくれたようだ。くそっ!最悪だ…とか言っているが、よく分からないので無視した。


「色々あってね、ムウファに聞いてほしいことはたくさんあるよ」

「…俺だってある」

「村長のこととか、村のことも話したいし」

「…しょうがねぇから聞いてやる」


ルドルフ王子はまた笑いをこらえているようだが、見ないふりをした。つつくとまた面倒臭そうだ。そうしてムウファとしばらくコミュニケーションを取っていると、王子は今度こそ落ち着いたようでコホンと咳払いをした。そして、少し低くなりかすれているが、昔と変わらない鈴の鳴るような声で私に話しかけてくださったのだ。


「クリス、君、本名は?」

「…改めまして、テンの村出身のクリスティーナと申します。お目にかかれて光栄至極に存じます、ルドルフ殿下」


この時やっと、出会ってから初めて王子に自己紹介をすることができた私なのであった。


「女の子だったんだね………!!あぁぁ納得したぁ…!」


ムウファはそっちのタイプなのかと思ってしまったよと、ルドルフ王子はさらに威力を増した輝く笑みで、割りと俗物的なことを仰ったのだった。




意外とノリのいい王子と、伊達男クリス。そしてチョロインと化すムウファの回。

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