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久しぶりの再会


太陽は今日も輝く。絶好の凱旋日和ってやつである。


うわ~王都ってこんなに人が住んでいるんだ…!



普段どこにいるんだって位の人が、中心の大通りに集まってきていた。ここはもう30分もすれば、ルドルフ王子ご一行が通ると通達のあった大通りである。

初めて会話を交わしたあの時、人気があるってはにかんでいたのは本当だったのだなぁと感心してしまう程の人の多さだ。


そう、私は今、第3王子の帰還パレード??に紛れ込んでいるところだった。





アランがルドルフ王子の帰還を知らせてくれた時、私よりも乗り気になったのが、孤児院の女の子たちである。


「おうじさま?!おうじさまがかえってくるの?!」

「わぁ~みたい!」

「きっととってもかっこいいんだろうなぁ!!」

「あらん!!!わたしもみたいよう!!」

きゃあきゃあと盛り上がっている女の子を見て、王子様ってのはやっぱり万人の憧れなんだなぁと思った。


「え~だっせぇよ!おうじさまだって!」

「おまえらなんかいってもいみねーよ!」

「まちにでてもわらわれるだけだって、やめとけ!」

それに反対するのが男の子たちである。と、言っても大半は王子様への小さな嫉妬心と、仲間である女子たちを心配する声だ。本当にここの子たちは可愛いやつらだなぁと微笑ましく見ていた所、


「で?何笑ってンだよクリス。俺ぁお前にどうすっか聞いてんだけどー?」


アランに耳を引っ張られた。そうだったな、ごめんごめんと言いながら少し思案する。



「………うん、端っこの方でちょっとだけ見るくらいなら、町の人の邪魔にもならないし良いんじゃない?行こうか!」



アランはまた「コイツら連れてくの前提にしてんじゃねーよ…」と呆れていたけれど、私は夢見る女の子たちに王子様というものを見せてあげたいのだ。いいじゃないか少しくらい。


後日ムウファにはきちんと連絡を取ろうと決めていた私は、今はまったくの野次馬根性を出していた。



「わぁーいやったぁー!!」

「おうじさまだおうじさまだー!」

「おうじさまってキラキラしてるってほんとうかなー?」

「わぁいキラキラー!!」


女の子たちは大喜びで、すっかりその気だ。アランは早々に諦めて、男の子たちと何やらフォーメーションの確認をしている。そちらを見ていると「最近どっかの誰かのオカゲでこっちも色々大変なンだよバーカ!見んな!」と言われた。相変わらず酷い。そこまで言わなくてもいいじゃないか…どっかの誰かって誰だよ。



と言うわけで、少しだけ見学したらすぐに帰ってくるという約束で、女の子たちを連れた総勢10名ほどで王都中心部の大通りまで出てきたのだが、正直ルドルフ王子の人気、舐めてた。人の量もすごいし、屋台もつられて出てきているし、どこのお祭りだ。



「今回も無傷でのお帰りだそうだよ」

「あぁ~一安心だねぇ!ルドルフ殿下はこの国の宝!ずっと壮健でいてもらわなきゃね!」

「ルパンド様も厳しい方だよねぇ。何もこんなに頻繁にルドルフ様を派遣しなくたってさぁ~」


嬉しそうな奥様方の会話を盗み聞きながら、ムウファからきな臭いと言われたのはこのことなのかもしれないと思った。

戦争になっているわけでは無さそうだけれど、どうも隣国の領地との関係があんまり思わしくない各地を、ルドルフ王子がなだめて回っているようだ。戦争一歩手前?そんな感じかなと当たりをつけた。



「今回また烈火の魔術師様が大活躍だったそうじゃない!」

「あぁ~なんて素敵なの!まだ幼いのにあんなに凛々しくって、さらに最高峰の魔術師だなんて…」

「一度でいいから私に微笑んでいただきた~い」

「私も~!」


何だ何だ、若い女の子たちの盛り上がる会話の中に知らない単語が出てきた。『烈火の魔術師』って何だその大層な二つ名は。しかもこちらも女性に大人気か、気に食わない香りがするな。

他にも色んな人たちの噂話を盗み聞いたけれど、ムウファの名前はどこにも出てこなかった。アイツ、ちゃんとやってんのかなぁ…怪我とかしてないだろうな。王子がいてくれるなら大丈夫だとは思っているけど…。



そんなことを考えていたら、アランに小突かれた。

「ボケっとしてんな。もうすぐだぜ。人ごみに揉まれンなよ!おめーらも迷子になんなよ!」

「「「「はぁ~い」」」」


小声で号令を飛ばすアランに、とっても良い返事を返す子供たち。普段娯楽が少ないから、このお祭り騒ぎがとても楽しいみたいだ。来て良かったなぁと思う。



『ワァァァァァァァァ!!!!!』


遠くのほうで大歓声が上がった。王子たちご一行が到着したみたいだ。

私のまわりの女の子たちも一斉に浮足立った。精一杯背伸びしているのが可愛い。そして大歓声はそのまま近づいてきた。



『ルドルフ様―!!!』

『おかえりなさいー!!』

『ルドルフ殿下万歳―!!』


耳鳴りがするほどの大歓声。私たちはかなり後ろの方から見ているけれど、それでも思わずビクっとしてしまった。それを見たアランに鼻で笑われていたが、今はそれどころでは無かった。



馬に乗り、周りを近衛騎士に囲まれて大通りを進みながら、近くまで来ている民衆に手を振って答えているのは金髪の少年だった。私が2年前、言葉を交わしたルドルフ様に間違いない。しかし2年前よりもかなり身長が高くなり、体格もマッチョとまではいかない細身ながら、かなり鍛えられたものになっていた。つまり2年前とは別人のようにずいぶんと凛々しくなっていたのだ。人形めいた顔立ちはそのままだったが、なんというかオーラが段違い。さらに、昔はもっと作り物めいた笑顔だった気がするのだが、今は輝かんばかりの微笑みを携えている。王者の風格というのはこのことか、と思った。


「(あんな人を助けたいとか、私はなんて身の程知らずなんだ…)」

「わぁぁぁおうじさまー!!!ほんとにキラキラしてるぅぅー!!」

「おうじさまー!!!」

「かっこいいー!!!」


自己嫌悪に陥る私の隣から、あらんかぎりの大声で仲間の女の子たちが叫んでいた。おお、王子様効果ハンパないな…隣の男の子たちが引いているぞ、女子たちよ。


「ルドルフ殿下―!!」

「きゃあああこっちをご覧になっているわぁぁぁ!!!」

「殿下――!!!!!!!」


町の女性たちが発狂している。もはやアラン含め男子は撃沈しているのを見ると、やはり女性は最強だと思います。


とか思っていたら、本当に王子はこちらの方を見ていた。もちろん先ほどの笑みは湛えたままで、みんなに手を振りながらである。かなり距離があるので、何となく…だけれど、目があったような、そうでないような…。


「きゃああああああ!!!!!殿下と目があったわぁぁぁ!!!!」

「ばか違うわよ!!私を見て微笑んでくださったのよ!!!」

「違うわ!私よ!!」


隣で女性たちの小競り合いが起きている。そうか、勘違いだったか。

「(そりゃそうだ。この距離だし、たぶん私、今はふつうの町娘に見えてるだろうし気付くはずないな)」

私はうんうんと納得していたが、そこへ続いてまた、隣の女性陣が盛り上がり始めた。



「きたわぁ~!!!!!」

「烈火の魔術師様よ!!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!」


おお、王子に負けずとも劣らない歓声である。


「(どれどれ、どんなヤツかね、モテ魔術師さん…。)」


そちらを見て、私は固まった。


まぁ、記憶を取り戻した今ならばもちろん分かることなのだけれど、当時はまったくの予想外だったのだ。まさかムウファがそのような大層な2つ名を付けられるほど出世しているなんて。



烈火の魔術師と言われたヤツは、よく魔術師が着ているようなローブでは無く、普通の兵士と同じ服装をしていた。赤い髪を無造作に結わえており、確かにまだ幼さを残しているけれど整った顔立ちに鋭い眼光と立派な体格は、女性たちが騒ぐのも無理はないくらいの魅力を携えていた。



「おっ、まさにヒーローってヤツじゃね?クッソ気にくわねぇツラしてやがんな~」


と、アランが半笑いで呟くのが聞こえたが、またしても私はそれどころでは無かった。何せヤツは、やたらキョロキョロとあたりを見回していたかと思えば、こちらに気付いた、ように見えた。

そして視線を固定したのだ。こちらに向かって。


「れ、烈火の魔術師様までこちらを見ていらっしゃるわ…!!!」

「やだ、なんで…!!!」

「きゃあああああ微笑まれたわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



女性陣の叫び声さえも遠く感じた。確かに、かの魔術師様とやらはこちらを見て笑っていた。笑っていたのだが……彼女らの言うように、微笑んだ、なんてものじゃない。



『いいからお前は俺と来い、ぜってぇ守ってやるから』



なぜか脳裏にゲームのスチルが蘇った。主人公に微笑むムウファは、もともとちょっと意地悪そうなヒーロー顔である。相手を見下したような顔をして笑うのだ。口元を片方だけ上げて笑うムウファのスチルは、世のプレイヤーを虜にしたとかしないとか…。



でもこの時はその1000倍、怖い笑顔をしていたのだった。



「(めっっちゃめちゃ怒ってる…………!!!!!!!!)」



私は久しぶりに冷や汗が止まらなかった。ムウファとは昔からの付き合いであるが、あそこまで怖いムウファは見たことが無い。アイツは直情型だから、怒る時に笑ったりしないはずなのに…。何がアイツをそこまで怒らせてしまったんだか全く分からなかった。どうしたんだムウファ、お前に何があった。



「おいクリス、どうした?……オイおまえら、帰ンぞ!」



私がその場で固まってしまったので、不審に思ったアランに肩を揺さぶられた感じがしたが、私の悪寒は収まらなかった。その様子を見て即座に私を引っ張ってその場から引き離してくれたアランには感謝しか無いのだが…それを見たムウファが更に怒気を強めていたなんて、私には知る由も無かったのだった。





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