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友達獲得


スラムで呆然とたたずむ私に、カリンさんは一人の少年を紹介してくれた。


「んだよカリン姉さん、このアホ面のやつ?」

「んっふっふっふ、アランちゃんったらお口が悪いわよぉ!この子はあたしの大事なムスメのクリスちゃん、仲良くしてあげてねぇ」

「あ~、ウッゼェ~。姉さんの頼みじゃなかったらコイツ殴って財布すって終わりなんだけど?」

「アラン、そういうことはクチにしちゃダメだって教えなかったかしらぁ?」

「っっやべ、行くぞクリス!」



スカートとか穿いてんなよナメられんぞ!とブツブツ言いながら私の手を引いてくれたのは、くすんだ茶髪に、口の割には愛嬌のある顔、つぶらな瞳と頬にそばかすを散らしたアランという少年だった。私と同じくらいの年に見えるこの少年は攻略対象では無いはずだ、ゲームでは見たこともない。



カリンさんに頼まれたというアランは、私がひょろひょろの女児だったので、そこまで警戒をしないでいてくれたようだった。そしてその後一日かけてアランが案内してくれたスラムは、私にまた違った景色を見せていた。


「あぁ?入口んとこの枯れオヤジ?あー、酔っ払ってクサッてんだよ、気にすんな」

「ガキが栄養足りねって?しょーがねーだろそりゃ。俺だって栄養足りてねーけどここまで育ってんぞ」


私が気にしていた色んなことを、アランは鼻で笑った。そしてたくましく言ったのだ。


「俺らだって、こっから出て行こうと思えば出て行けんだよ。でもそうしねーのはまぁ、そりゃヘンケンとかあんのもそうだけどさ、ここだって住めばミヤコってヤツだからじゃねーの?」


決して幸運な生まれではなかったと思うのに、アランの言動にはあまり恨みつらみと言ったものが無かった。現状を受け入れて精一杯暮らしていると分かるこの少年のことが、私は一発で気に入ってしまっていた。



最終的に、いろんな話をしながらアランが案内してくれたのは、スラムの中にある孤児院だった。

風通しの良さそうな建物の中には、肉付きは確かに良くはないけれど、元気そうな子供たちが走り回っていた。


「あー!あらんがおんなつれてるぞー!みんなみてみろよー!!」

「すげー!!でーとじゃね?でーとじゃね?!」

「かわいいー、こんなおようふくわたしもほしいよー!ねぇあらんー!!」

「うっっっっせぇぇぇぇガキども!!!散れ!!!!」


アランががなり散らすけれど、子供たちは全くひるまない。アランのまわりにわらわらと集まってまくしたてている。



「おいおまえなまえはー!」

「クリスて」

「くりすかー!くりすはあらんのおんなか?おんなか?」

「くりすあそぼー!」

「あそぼー!」


まだ自己紹介の途中だったのだが、私にも遊んでくれと群がってきた。本当に元気な子供たちである。

そして先ほどは暗い思考に陥りそうだったのに…今はもう子供たちのパワーに押されてそれどころではなくなっている私がいた。



「…よし分かった。遊ぼうじゃないか」

「「「わーーーーいやったー!!!」」」


アランは、おいおい…と呆れ顔だったが、私はかまわず続けた。


「ただし!!!遊び方はわたしが指定するぞ!!」


アランも子供たちもきょとんとしていた。でも、私は気付いてしまったのだ。ここには今20人弱ほどの子供たちがいるが、かなりの子供たちが魔力を外に垂れ流していた。(そういえばこれも一般的では無いようだったのだが、私はこの頃になると試行錯誤の結果、魔力を何となく肉眼で見られるようになっていたのだ)そしてこれ、私、とっても、見覚えがあります。


「アラン、子供たちはなんでここに住んでいる?」

「は?ん~~、戦争孤児か、親に置いてかれたか…口減らしか。そんなとこじゃね?でもここの院に拾われたヤツぁ、まだ幸運だよ」


ここよりもっと悲惨なとこはたくさんあるぜと、相変わらず重たいことをサラっというヤツである。聞いた私も私だが。

そして、なんとなく想像がついた。もし貧困にあえぐ家庭があったとして、魔力も極小で、稼ぐ能力もない子供がいたらどうするのか。


「(まっさきに口減らしに選ばれるんじゃないのか)」


私は本当に家族や村に恵まれていたのだと、改めて実感した。



それから、私はこの孤児院にほぼ毎日通っていた。もちろん目的は彼らとの『遊び』だ。最近ではもはや孤児院の一員のようになっている。カリンさんはこの頃には私に何も言わなくなって、ただ見守ってくれるようになっていた。私、カリンさんを師匠と呼ぼうかと思います。



まず私は彼ら、特に魔力を垂れ流しにしている子たちに魔石(小さいものだ)を渡した。ムウファが最初私にくれたような魔石だ。ああ、なんだかあのころが懐かしい。


そして、私が彼らに教えた『遊び』とは、所詮前世でいう『かくれんぼ』のようなものと、『あやとり』のようなものだった。



皆最初はポカーンとしていたけれど、1ヶ月くらい経つ頃にはその楽しさにハマッてくれ、今では孤児院で主流の遊びとなっている。孤児院は私の村と一緒で、玩具とか無いからねぇ。魔力が良い玩具になってくれたようだ。



『かくれんぼ』では、彼らに気配を消す方法、集団での身の隠し方など、私が狩人だった村のおっちゃん達に教わったことをそのまま盛り込んだ。逆に鬼の方の子には、どうやったら隠れた敵を見つけ出せるのか、気配の探り方を教えた。男の子たちは誰が一番最後まで隠れていられるかに熱中していて、最近私でも気配をたどれなくなるような猛者も出てくる上達ぶりだ。



『あやとり』は私の実験結果によるとかなり魔力操作の練習になるのだが、特に女の子に人気が高かった。魔石にまずは魔力を込めることを教え、その後その魔力を具現化する方法を教えた。それは水でも炎でもなんでも良いのだが、それを指の間で変形させ、自分の好きな形に変えられることを教えると女の子はすぐに興味を示してくれた。そして今ではかなり上達し、お互いに何の形なのか、当てっこなんかをしている。私にも何人かが魔法の形を見せにきてくれた。うん、とってもかわいい水の鳥さんだね!!その火の蝶々もすごい!きれい!と褒めたら嬉しそうにしていた。可愛い。



この遊びは、私の鍛錬の結晶を集めて作ったようなものだ。これから彼らの魔法や身のこなしを存分に助けてくれるようになるだろう。もちろん今となっては前世の恩恵だったのだと思うけれど、あの時はその思いつきがもたらした結果に、我ながら人生で最高のドヤ顔をしていただろうと思う。



「どうだ、存分に遊べているだろう!」

「はいはい、鼻の穴広がってんぞー。クリスさぁ、これ教えて俺たちをどうしたいっつーの??」


間髪入れず、ため息まじりにアランが突っ込みを入れてきた。コイツのすごいとこはその順応性の高さだと思う。ちなみにアランは、鬼ごっこもあやとりもぴか一に上手い。もしかして私より魔力操作がうまいんじゃないのかと密かに警戒している。


「どうもしたくないよ。ただ、この先の人生に絶対役に立つと思ったから」

「はー?偽善ってんだぜ?そういうの」

「偽善で結構!あとわたしって友達が一人しかいなかったからさ。フツーに皆と遊びたかったんだよ。ほとんどはそれだけ」

「ッブ!!クリスぼっち?ぼっちだったの?」


カワイソーとか言って爆笑されたので殴ってやった。ひらりと躱されたけど。


「俺はまた軍人かスパイでも量産しようとしてんのかと勘繰ってたっつーのに…」

「…?それ、何か意味あるのか?」


友達にスパイになんかなってほしくないよと返せば、


「はははっ!オマエその人の良さ、いつか誰かに騙されて死ぬぜ絶対!!」


言っていることが酷すぎる。でもその時初めて、アランは私に全開の笑顔を見せて、騙されないようにちっとは見といてやるよと言ってくれた。私に友達ができた瞬間だ。うれしかった。

そして続けて彼はこう言ったのだ。


「そういえば、今日ひっさしぶりに第3王子が遠征から戻ってくんだってよ~」



この近く通るみたいだから、見に行ってみっか?と言っているアランの声を遠くに感じながら私は、そうだ、そろそろ自分の役割というものを考えてみなくては…と真剣に考えていた。

とりあえず早々にムウファに連絡を取らなければ。最近は連絡を取るのもおろそかになってしまっていた。ムウファ、怒ってるかなぁ。。。





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