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師匠、ワンピースが邪魔です



「クリスちゃん、自分を安売りするもんじゃないわよ?」



そう言ったカリンさんは、なぜだか私にワンピースを着せています。




母さんと一緒に昔旅芸人をしていたというカリンさんに、母さんの昔のヤンチャぶりを色々暴露していただいた。

なんでも、旅芸人一座の売れっ子歌姫その1、その2だったらしい。色んな国をまたにかけて、時には王族に目をかけて貰ったこともあったらしいとか。母さんの衝撃の過去に、「え?そんな話聞いたことない!!!」と私は思わず叫んだ。



「あんたの父さんと出会ってスッパリ辞めちまったからねぇ。そんな昔話つまんないだろ?」

「あの時は何人の男が泣いたかのかしらねぇ~。団長も号泣してたのにミスティはそのまま飛び出して行くし…」

「若かったのさ!もう止めとくれよカリンん!!」

頬に手を当ててため息を吐くと、色々と強調されてものすごい破壊力です、カリンさん。そして母さんを焦らせるなんて…やっぱり只者では無いと思う。



そんな昔話を盛大に盛り込みつつ、今回私たちが王都に来ることになった経緯などもかいつまんで母が説明していた。カリンは信用できる女だし、頼りになるからねぇと笑っていたが、正直お酒で盛り上がっただけなんじゃないかなと私は踏んでいる。私が先にその場から帰った後も一晩中盛り上がっていたみたいで、とうとう母さんはその日は私たちの客室に帰って来なかったのだ。



次の日、母さんは二日酔いでダウンしていたのに、カリンさんはピンピンしていた。ミスティとは年季が違うわよぉと笑いながらも、冒頭のセリフを仰ったわけだ。


「ヤスウリ…??」


頭をひねる私の顔を両手で挟んで、輝く笑顔でカリンさんは続けた。


「クリスちゃんはこぉんなに可愛くて、努力家で…勇気もある女の子なのに。オトコを追いかけて自分を安売りしちゃダメよ。そういうのは、オトコが迎えに来て、土下座して縋ってきたら、頭踏んづけてやって…しょうがないから助けてあげるわ~って言うものなのよぉ?」


さも当然のように仰ったけれどそれ、聞いたことありませんよカリンさん。とってもおっとり口調なのが逆に恐ろしいです、カリンさん。

絶句した私になおもカリンさんは諭すように言ったのだ。



「幼馴染クンに会いたい、力になりたいって言うのはとっても良いことだと思うけどぉ…。でも、クリスちゃんが力になりたいと思うオトコが本当にその価値のあるオトコなのか、道を間違えてはいないのか、ちゃぁんと見極めなきゃ。今の時代は女も自立してナンボなのよ?」



分かった?と鼻をつつかれた。カリンさんは見た目はそれはもうボンッキュッボンの艶やかな美人で、緩く妖しげな雰囲気を纏っているけれど、きっとたくさんの経験を積んできたんだろうと思う。その瞳は、経験不足で足場の危うい私を心配する色で染まっているのが分かった。



確かに私はテンの村以外を知らない。

ルドルフ王子を手伝うと言ったって、彼がどのような王族なのかも知らないのだ。知らず知らずに手伝った私の行いが原因で、誰かが傷つくことがあってもおかしくは無いんじゃないかと……その時私は初めて思い立ったのだった。


「で、でも、わたしは約束を守りたいです」

「あぁぁ、クリスちゃんはなんていい子なのかしらぁ!!」


ぐっっ、カリンさん私、圧死してしまいます!!!



豪華なそのお胸の中に私を抱きしめて、ぎゅううっと力を込めて私を抱え込んだカリンさんは、そのまま私を持ち上げて外に歩き出した。


「だからぁ、今、スナオな貴女のそのままの眼で王都を見てまわりましょう♪」

本当は他の国も見せてあげたいけど、それはミスティが許してくれないからぁと笑うカリンさん。


「そ、そんなことは良いのでおろしてください!!」

「えぇ?なんで?クリスちゃん軽いわよぉ?」

「恥ずかしい!!から!!です!!!」


思いつく限り暴れてみたけれど、スカートとはこんなに動きづらいものなのか。おかげで全く、んふふと笑ったカリンさんの拘束を逃れることはできなかった。なんだろう、ゲームとは全く無関係の村長とかカリンさんとか、ものすごくハイスペックな気がするんだ。。。


その後、何度もカリンさんは私を連れ出してくれた。それは貴族たちが住むと言われる城下町の一部だったり、いわゆる平民が住んでいる大部分…そしてスラムと呼ばれる場所までも。



「らっしゃい!おおカリン!!今日はかわいい子連れてんな~!」

「んふ、あたしのムスメなのよぉ!よくしてやってねぇ」

「あっはっは、そりゃあ将来有望だねぇ?!よろしくねムスメっこ!」

八百屋のご夫婦に手を振りながら通り過ぎる。私たちが歩いていると、色んな人がカリンさんに声をかけてくるので最初はとても驚いた。職業柄よとカリンさんは魅惑的に笑って済ませていたけれど、このお姉さんは本当に顔が広い。



「今の王様はねぇ…、イイ人ではあるのよねぇ。よく言ったら堅実…かしらねぇ」

「いい人なのはいいことですよね?町にはとっても活気があるし、人はみんな笑っているし」

私は少ししか住んでいないけど、私の村の人たちが憧れている通りの『王都』で、確かに平和でキラキラした光景だなと思っていた。



「笑っているのは、本当にみんな、なのかしら?クリスちゃんは本当にそう思う?」


私にそう問いかけたカリンさんが最後に連れてきてくれた場所はとてもすえた匂いがした。スラム、そう呼ばれる場所は、活気あふれる街のすぐ裏にあった。



先ほどまでキレイな広場があった。人々はそこに集まり、屋台が出ていて、元気なおばさんがいらっしゃいと声をかける。子供たちはきゃっきゃと楽しそうにはしゃぎまわり、笑い声が絶えない。確かにそんな平和な光景もあったのに、

その裏手に少し入っただけで、そこは全くの別世界だったのだ。



路地に座り込む老人、隅の方に横たわる子供。誰一人としてこちらを見ることはなかった。老人は枯れ木のようにやせ細り、子供は異様にお腹が膨らんでいた。



「………」

「ここは無法地帯なのよ。王様もここのことは基本的に見ないフリねぇ。表の光景を見たでしょう?あんな風に国を保つためにはね、こういう場所も必要なんだって、必要悪っていうのかしら?私はそうなんだと思ってるわ」



その時の私は言葉が出なかった。私の村も決して裕福ではなかったけれど、こんな光景は、産まれる前から…それこそ前世の頃から見たことが無かったと思う。



「クリスちゃんのオトコが、どんな治世に味方する人物なのか…よおく見定めてちょうだいねぇ」



カリンさんのその言葉はその後もずっと、私の心に残り続けたのだった。







主人公はカリンさんに頭が上がらないため、敬語が出たりします。

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