死ぬ間際に思い出す
初心者ですのでおおらかな目で見ていただければ幸いです。
あ、これ死んだわ。
身体の複数箇所に鋭い痛みを感じるのと同時に、この世界の事を唐突に理解した。
ここ、アレだ乙女ゲームの世界だ。
そしてこれでわたし、出番終わりじゃね?
OH!!!!!!!
「おい、クリス!!クリスぅ!!!!」
半ば泣き声になってしまってる、幼馴染の叫び声。聞こえるんだけど、ごめん。今ちょっと返事出来ないわぁ…(いろんな意味で)
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どうもどうも!刺されたショックで色々思い出したと共に人生オワタ/(^o^)\なクリスことクリスティーナと申します!女の子だけど、男勝りなのでクリスって呼ばれておりました!
現実では意識を失っているけれど頭の中では相当テンションおかしくなっている!なぜって、認めたくないけれど私は『貴方が王様になるまで』という乙女ゲームの脇役だったみたいなんだよね。
このゲームは一言でいうとその名の通り、メイン攻略できるキャラクターが王様、もしくは国の要人になるまでをストーリーにしたゲーム。前世のちょっとオタクな乙女たちがハマりにハマり、ゲームからドラマCD、はてはアニメにまでなった伝説の超人気乙女ゲームだったのだ泣きたい!
案の定ゲームにどっぷりハマっていた前世の私の記憶に寄るところ、唯一主人公が攻略対象に会う前に死んでしまうキャラで、全てのキャラクターの攻略の鍵になる重要かつ不憫な脇役キャラこそがワタクシでございました!
そしてそれぞれワタクシの植え付けたちょっとしたトラウマを払拭するのが攻略の決め手になるようでございます!!!/(^o^)\
だから異常に人生ハードモードだったんだね納得したわ…。
しかしゲームではクリスは男だったハズで…まさかのクリス繋がりで私がそのお役を授かったのだろうか…?!
とか考えながら泣き笑いしている私の目の前に大きな光が見えた。意思とは関係なく体がその光に向かって動いてしまう。あ、そうかこれが噂に聞く走馬灯か……
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バシャッ
「やくたたずは近づくなー!」
「こっち来んなばーか!!」
ギャハハと笑いながら逃げていく子供たち。
「…」
水を吸って重たくなった服を引きずるように歩く。
子供の頃から私にとって、村の子供に水をかけられたり物を投げつけられるのは日常茶飯事だった。ファンタジー世界において、魔力極小に産まれた人間の必然ですな…。
「ただいまー」
「おぅ、おかえ…クリス、あんたまた水かけられたのかい?」
「うん、ごめんね母さん、また余分な洗濯物…。」
「なぁに言ってんだ!子供の喧嘩にとやかく言ったりしないよ!んなこと気にしないで早く着替えてきなっ!」
「はぁ~い」
この元気なおっかさんが母、ミスティ。齢8歳にしてローテンションな私の分まで元気な女。思えば昔から、私はうっすらと前世の記憶に引っぱられていた気がする。だから頭の中ではませていたし、表面上は冷めてる子供だったんだ。
「今日はどうだった?魔法の勉強、進んだかい?」
「ん~…」
本当は他の子についていけないからって、教室に入れても貰えなかったんだけど…。
「先生、魔力の少ないわたしは魔法以外の勉強に精を出したほうがいいって」
「そうかい……。……っま、地道に続ければ芽も出るってもんさね。それにあんたは勉学はピカ一なんだ、恥じるこた無いさ!」
母は大体においてあははと笑い飛ばしてくれるが、この話題に関しては瞳は悲しいままなのがすぐに見て取れた。この村ではどんなに勉強ができても魔法が使えなければろくな職に就けない。私の愛すべき母は、嘘がヘタなのだ。
黙ってれば美人、口を開けば豪快な母。ただ唯一私を魔力極小に生んでしまったこと…そのことだけは自分をとても責めているようだった。今は亡き私の父に比べて、魔力の少ない自分に似てしまった、私に申し訳が立たないって、夜中に1人すすり泣く姿を私は知っていた。魔力が少ないせいで村で浮いている私のために、色んな人に頭を下げていることも。
「うん、母さんわたし、頑張るから」
「そうさその意気だよ!!がんばんなクリス!」
ぎゅうっと母に抱きつくと、痛いくらいの力で抱きしめ返してくれた。クリスティーナはいつまでも子供だねぇって笑って、頭を撫でてもらうと嬉しくなった。
魔法を使って母を安心させたい。そして母だけは何があっても守る。それが当時の私の誓いだったんだ。
さて友達のいない私の日課はというと、人目の無いところで魔法の練習である。人目があると笑われるからね。
「出ろ」
ポンッ
「……………」
掌の上少し浮いた場所に一瞬だけ火の玉が浮かぶ。ほんっとーーーに一瞬ね!ポンッで音とともに消えますけど何か?!
「あーーーーー悲しいくらい魔力なーーい」
ゴロンと手頃な岩の上に寝転んで、掌をじっと見つめた。
私は初級魔法なら、まず失敗はしない。失敗はしないんだけど本当に一瞬で消えるんだよね。
だいたい私くらいの年の子は魔法で暖炉に火をつけることくらいできるし、前に私をびしょ濡れにしたくらいの水量を出せる。これは何も特別なことでは無くって、だいたいほとんどの人にできることだ。魔力はすべての人間に備わっているもので、大小はあれど全く魔力が無いという人はいない。
私の場合本当に稀なくらい魔力極小で、魔法も方法は合ってるけど、圧倒的に燃料が足りないって感じなんだろう、って先生にも言われていた。そのあたりで将来性の無さから授業への参加を笑顔で否定されたので、それ以上の情報がなかなか入ってこないのがツラかった…。
「うーーん…。(私と他の人の魔力値の差ってどのくらいだろう……一応魔法は発動するわけだし、瞬発力はなくても…何かに地道に魔力を蓄えてそれを一度に使うイメージでいけばあるいは一度くらい……)」
「おいごくつぶし、お前こんなところにいたのか」
「……………何?」
カッチーーンときましたよ。人がせっかく有意義な脳内会議してる時にこの暴言。人間本当のこと言われるとムカつくんだからね!?
のろのろと起き上がって声のした方を振り返ると、そこに立っていたのは紅い瞳に紅い髪、生意気そうな顔をした少年、ムウファだった。
紅い瞳と髪は火の適性が大きく出ている証拠だし、魔力はこの村で快挙といってもいいくらいの大きさだと言われている。顔も渋い男前の村長の血を引くだけあって、今も整っているし将来有望。もちろん村ではチヤホヤされておりますよ?…爆発しろ!
「授業に入れてもらえないなんてかわいそうなやつだよなぁ」
「………」
「お前、またこんなとこで寂しく何やってんだ?」
「………」
「これいじょう無能になりたくなかったらおれに土下座して…ってうわぁ!!!!」
ドンッ
「クリス、それはなげちゃダメだろ!その大きさの石はダメだ!!死ぬわ!!!!」
私は魔力は無いけど腕力にはちょっと自信がある。自分の体重と同じくらいの石はお手のもの。避けるなよムウファ!!(笑顔)
「ばかクリス!軽いジョーダンだろ!!せっかく今日ならった授業の内容教えてやろうと思ったのに!!」
ピタッ
「それを早く言えよ」
「ほんとたくましいなぁお前…」
友達がいないと言ったけれど、一応、友達っぽいものは1人いた。石を投げられたくらいでちょっと泣きそうになってる、俺様と見せかけた熱血ヒーローもどき。後の攻略対象となる幼なじみ様である。このチート君とおそらく前世の恩恵で早熟な私は、わりと頭のできが似ていた。
そのおかげか彼は私をバカにすることもなく対等に扱ってくれていて、私達の会話は8歳児同士の会話としては異常だったと後に村長に言われるのだが、、この時そのことを指摘する人は誰もいなかったのである。
「で、今日は何を習ったの?」
「魔力のそうさいについて」
「相殺?」
「そう、相手の魔法を防ぐための一番重要なりろんだってさ」
ムウファの説明によると、この世には魔法の相性があり、火は水に弱く、水は風に弱いし、風は土には勝てない…といったようなものがあるらしい。そういった相性で考えたときに、例えば火の魔法を防ぐためには、火の魔法は同じくらいの大きさのものを当てる必要がある。でも水の魔法を使えばその半分の大きさの魔法で済むということらしかった。もちろん選ぶ魔法にも寄るが、魔法をぶつけ合うときには必ず相性を考えるのが基本なのだそうだ。
「うーーん、成る程ね…」
「まぁ、結局は相手の力量を見極められる奴が強い、って先生は言ってたぞ」
「ふぅん…え、ていうか、魔法を防ぐには同じように魔法を当てるしかないの?だから相殺ってこと?」
「??ほかに防ぐ方法があるか?」
「だってそれ、複数の敵に囲まれて違う属性魔法をぶつけられたらどうするの?」
「…そういうことがないように、村の外ではいつも複数で行動するな」
「自分より圧倒的に多い魔力を持つやつが敵だったら?」
「……魔物なら作戦で勝てる。こちらが複数で相手が1人なら勝てる。魔物でなくて人が敵で、こちらも1人だったとしたら、それは、…死ぬかもしれんな」
「だよね?」
「だからそのために、効率的な魔法の使い方を習って、それを極めるしかないんじゃねぇの?この国の騎士たちは、どんな魔法も防ぐ大規模な魔法が使えるっていうし」
「まぁそれはそうだけど…」
ここでも本当は頭のどこかで、前世の私が囁いたのかもしれない。
私には、きっと他にも防御に特化した方法があるはずだと思えて仕方がなかった。母を守るためにはその方法を見つけ出して極めること…何の力もない私にはきっとそれしかない、そう思った。
「………」
「考えるのはいいことだけど、クリスはまずこれだろ」
「?なにこの石」
「今日みんな一つずつもらえたんだ。魔力をためられる石だって。お前の分ももらってきた」
「……!!!」
「これを使うと、いつもより大きな魔法が使える。そのぶん毎日、魔力をこの石にためる必要があるんだ。お前もこれに魔力をためれば、村のやつらにも負けねぇ魔法が使えるよきっと」
「っっムウファ!!!!!」
「わああっ!だ、だきつくなよ!!」
「ありがとう!ありがとうムウファ!!!」
「な、なんだよ、すなおなクリスはこええよ!」
私の運命はきっとここで変わったんだ。その日は顔を赤くするムウファに散々お礼を言って別れて、その後はずっとずっとその石を眺めていた。