第8話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:新芙蓉部隊副隊長
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:新芙蓉部隊隊長
・高橋海軍少尉:技術士官、兵装担当。
・宮藤特務少尉:たたき上げの年配技術士官。高橋少尉とペアで仕事することが多い。
<軍属>
・おやじ:東海精機重工業 専務。根っからの技術屋。
おやじは、ニヤニヤしながら出題した。
「では修士殿、不錆鋼の切削が困難な理由は?」
「不錆鋼は、熱伝導率が低いので、刃先に構成刃先が形成されるからだ。削って「ネバイ」と感じる理由もそれだ。」
「やるね。じゃあ修士殿、そこの旋盤の横に置いてある鋼材の、炭素量を当ててみな。」
高橋海軍少尉は、鋼材を手に取りながら、
「グラインダー借りるよ!」
「おう!」
高橋海軍少尉は、グラインダーを回し、鋼材を回転する砥石に軽く当てた。飛び散る特徴的な火花。
「こいつは、炭素量が0.15%位じゃないか?」
「修士殿、なかなかやるね。じゃあ一つ相談があるんだが。」
「何だ、言ってみろ。」
「エンジンの弁ばねがしばしば折れるんだが、対策はないかね?」
高橋海軍少尉は、少し考えて答えた。
「第一に、鋼材をスウェーデン鋼に変えること。硫黄などの不純物が少なく、強靱な鋼材だ。次は、より線ばねのように、ばねの形状を変えてねじり応力を下げる。めっきしてるなら、ベーキングする。水素脆性防止のためだ。最後は、ショットピーニング。」
「何だ、それは?」
「ばねの表面に、小さな鋼球を高速でぶつけ、ばね表面に残留圧縮応力を与え、疲労強度を増す方法だ。ドイツでは、戦車の懸架装置の捻りばねにも使われている。」
「よかろう。」
「何がだ?」
「合格だよ、高橋少尉。おい、こっちに来いよ!」
おやじは、高橋海軍少尉と宮藤特務少尉を工場の奥へと招き入れた。
大きな扉を開けると、そこには信じられない物が鎮座していた。
ベーゼンドルファー製の治具中ぐり盤
スタインウェイ製の内径研削盤
ベヒシュタイン製のプラノミラー、縦フライス、横フライス
山葉製の試製高精度旋盤
ツァイス製の万能測長器
日本の工場とは思えないほどの設備だった。