第53話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:戦闘九一一飛行隊副隊長
・佐久間陸軍中尉:飛燕第一中隊隊長
・田島陸軍大尉:飛行第二二戦隊隊長(疾風隊隊長)
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:戦闘九一一飛行隊隊長
・浅田海軍中尉:彗星第一中隊隊長
・森永海軍中尉:彗星第二中隊隊長
<学徒動員>
・島崎夏美:彗星隊の迎撃管制を担当
・山野いづみ:飛燕隊の迎撃管制を担当
・石岡智子:敵機の位置の連絡担当
・碇奈津子:見方機及び敵機の飛行経路計算を担当
<アメリカ陸軍>
・トーマス・クラウン中佐:"Grilled eel"部隊隊長 第1編隊編隊長 「バーバ・ヤガー」機長
・ウィリアム・バーディーン少佐:"Grilled eel"部隊 第2編隊編隊長 「ナッツクラッカー」機長
・ジョン・ブラッデン少佐:"Grilled eel"部隊 第3編隊編隊長 「ブラックスワン」機長
・ウォルター・ショックレー少佐:"Grilled eel"部隊 第4編隊編隊長 「ペトルーシュカ」機長
・ゴードン・ムーア少佐:"Grilled eel"部隊 第5編隊編隊長 「コングリーブ」機長
<第5編隊長 ゴードン・ムーア少佐>
「ロケット兵器だ!」
多数の強い閃光を見たゴードン・ムーア少佐は、叫んだ。これでは、B29のAN/M2機関銃(口径:12.7mm)では、アウトレンジされてしまう。しかし、射後降下してくる敵機を何機か道連れにすることが出来る。
ゴードン・ムーア少佐は、差し違える覚悟だった。それは、敵機の数を知り、『バーバ・ヤガー』と交信が出来なくなった時に決めたのだ。
ゴードン・ムーア少佐のモットーは、“Go for broke!”。弟の所属していたテキサス大隊を、強力なドイツ軍から救い出してくれた日系人部隊の合言葉だ。彼らは、救出したテキサス大隊の兵士よりも多くの死者を出しながらも、他の部隊が躊躇した救出作戦を成し遂げた。弟は生還できなかったが、私は勇敢で、任務に忠実な日系人部隊を尊敬している。
だから、彼らと同じ血が流れている日本人と戦うのは、皮肉なものである。
「機銃手、射撃用意!射程に入り次第、各個射撃!」
<彗星第一中隊 浅田海軍中尉>
何故だ?反撃してくるB29は、1機しかない。12.7mm機銃の火線は伸びてくるが、発動機全開での降下は、時速700kmを超え、火線は後方に流れていく。12機の彗星は、瞬く間に12.7mm機銃の有効射程から遠ざかっていった。
<第5編隊長 ゴードン・ムーア少佐>
「機長、今の敵機は、ジュディ(彗星のこと)でした。あまりに速くて、すぐに射程圏外へ離脱されました。」
ジュディ?艦上爆撃機が、迎撃機に転用されているのか?もしかしたら、斜め銃で再度攻撃に来るかもしれない。
「機体下方、注意して監視しろ!」
<第2編隊長 ジョン・ブラッデン少佐>
隷下のB29から、盛んに敵機発砲の報が入ってきて、無線は混乱していた。『コングリーブ』以外、自衛火器がないからだ。他の編隊も含め、浜松へ向かうための右旋回が乱れている。
「『バーバ・ヤガー』、こちら『ナッツクラッカー』。敵機より攻撃あり。意見具申!爆弾投棄の上帰投を提案します。」
「『ナッツクラッカー』『ブラックスワン』『ペトルーシュカ』、こちら『バーバ・ヤガー』。方位270まで旋回後、高度33000フィートまで上昇。なお、AN-M66(2000ポンド爆弾)を1発投棄のこと。以降、爆撃終了まで無線封鎖。現地では、各個レーダー爆撃実施のこと。健闘を祈る。」
トーマス・クラウン中佐の命令一下、各機が爆弾を投棄し始めた。それと同時に、日本軍のロケット弾が、周囲の機に命中し始めた。
ジョン・ブラッデン少佐の隊も、2機が主翼に被弾して高度を落とし、『コングリーブ』が迎撃のため離脱した第5編隊は、次々と胴体に命中弾を受け、3機全機撃墜された。
第1編隊は、ロケット弾の弾幕から抜けていて被害はなさそうだ。
第3編隊は、消えている。
第4編隊の状況は、どうなのだろう?
<飛燕第一中隊隊長 佐久間陸軍中尉>
「敵機、9機落伍。現在西方に向け旋回中。高度9000m」
石岡さんの少し幼い声に続いて、快活な山野さんの声が聞こえてきた。
「飛燕第一中隊。前方2000mに敵機。」
彼我の距離が意外に近かったので、佐久間陸軍中尉は、すぐ命令を出した。
「中隊、全速にて緩降下にて接敵。射撃命令により、二五号爆弾を発射。そのまま敵編隊に一撃離脱を敢行。そのまま北上して疾風隊に合流する。降下するぞ!」
飛燕全機が、時速600km以上で接敵を始めた。彗星のスパンスケールのように、測距機構がない飛燕は、照準機のレティクルを参考にするしかない。佐久間陸軍中尉は、訓練不足もあり、腰だめで二五号爆弾を発射することにした。
「二五号、撃てっ!全機突撃!」
120発の二五号爆弾が発射された後、12機の飛燕は、B29の殿の編隊に突っ込んでいった。
<第4編隊長 ウォルター・ショックレー少佐>
「後方よりロケット弾!敵機も接近中!」
機銃手(機関銃がないので、今は観測員)からの報告を聞いても、ウォルター・ショックレー少佐は、比較的安心していた。今機体は、2000ポンド軽くなり、高度も上げている。ロケット弾さえ当たらなければ、日本機を振り切れるだろう。
すると、日本軍のロケット弾が飛来してきたが、編隊を通過してから爆発していた。破片が多少機体に当たっただけで、被害はない。周囲の機体も、同様だ。
さて、振り切るぞ!ウォルター・ショックレー少佐がスロットルレバーを持つ手に力が入った時、
「トニー(飛燕のこと)約10機が接近!撃ってきま・・・」
観測員の彼が、本来の機銃手ならば、一矢報いることも出来たろうが、彼は多数の曳光弾を受け、機体後部と共に引き裂かれた。
機体内の急激な気圧降下で、ウォルター・ショックレー少佐が最後に見たのは、メガネに付いた霜の白、そして出血に伴う赤だった。
<三方原基地 石岡智子>
「各部隊に報告。敵機12機落伍。残り8機!」