第49話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:戦闘九一一飛行隊副隊長
・佐久間陸軍中尉:飛燕第一中隊隊長
・田島陸軍大尉:飛行第二二戦隊隊長
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:戦闘九一一飛行隊隊長
・浅田海軍中尉:彗星第一中隊隊長
・森永海軍中尉:彗星第二中隊隊長
<学徒動員>
・島崎夏美:彗星隊の迎撃管制を担当
・山野いづみ:飛燕隊の迎撃管制を担当
・石岡智子:敵機の位置の連絡担当
・碇奈津子:見方機及び敵機の飛行経路計算を担当
池田陸軍大尉と田島陸軍大尉は、B29を御前崎上空で迎撃することとした。B29の進路は浜松であることは確かだが、万が一「本家」芙蓉部隊の後方基地である藤枝基地(御前崎の北に位置している)が爆撃されては、芙蓉部隊の沖縄夜間爆撃にも影響が出てくる。そこで迎撃地点を、三方原基地と藤枝基地の分岐点である御前崎としたのだ。
この計画を元に、碇奈津子は、飛行経路の検討を行い、各飛行隊長と各部隊の管制官に連絡した。
出撃は、彗星第一中隊、彗星第二中隊(一二戊型装備)、飛燕第一中隊と飛行第二二戦隊とし、飛燕第二中隊は予備として待機させた。
速度及び上昇力を考慮して、出撃は、疾風、彗星、飛燕の順で行われた。常識で考えれば、疾風が一番運動性が良いのであるが、140オクタン価のガソリンを用い、ボアアップ、過給圧アップを施した飛燕や彗星の前では、影が薄かった。
飛行経路は、まず碇奈津子から渡された経路を飛ぶことになっている。
疾風隊(今回の任務での飛行第二二戦隊の呼称)は、やや緩い角度で、速度低下を抑えつつ上昇し、御前崎東方20キロの地点で、高度1万1千メートルに達するよう飛行。
一方、飛燕隊と彗星隊は、急角度で一気に上昇、空気抵抗の少ない高高度にいち早く到達して、優速を保ちつつ御前崎の上空高度1万1千メートルに達するよう飛行。
「敵大型機、捕捉。御前崎南方250キロ。高度1万メートル。推定速力時速500キロ。現在北進中」
搭乗員たちのレシーバーに、石岡智子の声が、やや緊張して聞こえた。
続いて、
「彗星第一第二中隊。御前崎東方10キロ、高度1万1千メートルへ進出。進出後、直径500メートルで旋回、待機。機位の微調整は、こちらの指示に従え。」
島崎奈津美が、落ち着いた声が聞こえた。
「飛燕第一中隊。御前崎南東14キロ、高度1万2千メートルへ進出。進出後、直径500メートルで旋回、待機。機位の微調整は、こちらの指示に従え。」
山野いずみが、飛燕隊に指示を出した後、続けて
「疾風隊。御前崎北方10キロ、高度1万2千メートルへ進出。進出後、直径500メートルで旋回、待機。機位の微調整は、こちらの指示に従え。」
田島陸軍大尉は、機首をゆっくりと北西に向けながら、なるほど女性無線士は、声の聞き分けが容易だと感心した。
部下の中に、バンクをかけた時、高度を失う者が1人居た。空気の薄いこの高度で、なんと軽率な操縦だ!帰還したら、教育してやらねば!もっとも、私も奴も生還できたらの話だが。
田島陸軍大尉は、初めての夜間高高度迎撃戦に、武者震いした。
それぞれの部隊が目標空域で旋回を始めると、レシーバーから副島隊長の指示が聞こえた。
「彗星第二中隊、飛燕第一中隊、及び疾風隊は、機銃の試射を実施せよ。発射できない機は、必ず帰還せよ。自爆や、空中特攻は、許可しない!彗星第一第二中隊は、28号爆弾発射機の防氷ヒータが作動していることを確認。完了後、報告せよ!」
しばらくすると、各部隊から試射や防氷ヒータの報告が上がってきた。疾風隊で1機帰還があったのみで、それ以外は好調。当時の日本軍としては、驚異的な稼働率だった。