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第37話

<陸軍>

・池田公平陸軍大尉:戦闘九一一飛行隊副隊長

・伏木陸軍少尉:技術士官、整備担当。

<海軍>

・副島弘樹海軍大尉:戦闘九一一飛行隊隊長

・高橋海軍少尉:技術士官、兵装担当。

<軍属>

・津田忠:日本無線社のレーダー技師

<民間人>

・田中重郎:国民学校6年生の少年。物理と数学が得意。

 声の主は、真っ黒に日焼けた国民学校5・6年生の少年であった。

「私は、田中重郎であります。父は、重巡洋艦 古鷹の掌砲長をしていましたが、南方で戦死しました。母と兄は、今年2月のB-29による空襲で戦死。私と共に航空基地の偽装用土団子を作っていた同期は、先日の空戦の破片や爆弾で皆死にました。生き残ったのは、私だけです。私も、家族の元に、同期の元に参りたいであります!」

 田中少年は、拳銃の銃口をこめかみに当てた。ニッケルめっきのコルトガバメントが、浅黒い顔と対照的だ。

田中少年が撃鉄を倒すと、高橋海軍少尉が大声で、

「貴様は、日本男児か!もっと銃口をきつくこめかみに当てんか!引金を引くときのブレで、弾が鼻の先っぽをかすめるのがオチだ!たわけ者!」

 少年はむきになって、銃口を強く押さえつけた。伏木陸軍少尉以下、皆が緊張する中(ただし二人の狙撃兵は、自主判断で少年の拳銃をずっと狙っていた。)、高橋海軍少尉は、14年式拳銃をホルスターにしまい、手帳を出して少年に近寄って行った。

「貴様の力は、そんなものか?こめかみから血がにじむくらい銃口を押さえつけんか!このオカマ野郎!」

 田中少年は、半分泣きながら、銃口を押さえ続けた。高橋海軍少尉は、田中少年の目の前に来ると、撃鉄とスライドの間に素早く手帳を挟み、弾倉止めボタンを押して弾倉を外し、次に手帳を外してスライドを後退させて薬室の残弾を排出してから銃を取り上げた。そして、ビンタを1発くらわした。

 高橋海軍少尉の素早い処置もさることながら、ビンタする高橋海軍少尉の姿に周囲の者は驚いた。特に同期の伏木陸軍少尉には、初めて見る光景だった。

「行く所がないなら、うちの基地に来い。子供一人くらい食い扶持が増えても、なんてことはない。」

 田中少年は、コクリと頷いた。


 基地では、副島隊長自らが茶を持って田中少年を、隊長室にもてなした。

「早速だが、君は体もデカイが聡明な目をしている。得意教科は何か?」

「はい、物理と数学であります。」

「国民学校なら、理科と算数ではないか?」

「浜松高等工業学校に毎晩潜り込み、図書室で自習していました。あそこは、侵入が楽ですので。兄曰く『人より5年先を学べ!』と。ですから、三角関数はもちろん、常微分方程式なら解けますし、対数関数の暗算もそこそこ出来ます。」

 ちょうどその時、無線用の部品を取りに来た津田技官が、その話しを聞きつけた。

「対数関数の暗算ができるのは、その少年か?」

「ああ、そのようだが。」

「少年!無線に興味はあるか?」

「はい、対数関数の暗算は、そのために身に付けた技術です。もちろん概算ですが。」

「現場で対数関数表を見ている奴は、いらん!隊長、この少年をうちでもらっていいか?」

「田中君、どうかね?」

「志願いたします!」

 田中少年は、椅子からばねが飛ぶように立ち上がり、礼をした。


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