第35話
<アメリカ海軍>
・ウィリアム・ハルゼー大将:第38任務部隊 指揮官
・フランク・ギャラガー大佐:第38任務部隊 作戦参謀
・ハービー・ストーバル少佐:第38任務部隊 作戦参謀、ギャラガー大佐の後任
<第38任務部隊 航空母艦レキシントン 作戦会議室>
作戦会議室の中は、暗い雰囲気に包まれていた。常勝アメリカ海軍が、この戦いで爆撃機隊22機を失い、大破した状態で帰ってきた16機も、修理不能として飛行甲板から海へ投棄された。唯一無傷だったのは、爆撃機隊を守るはずだった戦闘機隊の10機だけであった。
「いったいこの状況は、どういうことなんだ!」
第38任務部隊指揮官のウィリアム・ハルゼー大将が激怒した。
「一度の戦闘で、これほど多くの爆撃機、雷撃機をやられたことはない!ジャップは、日本上空で、"Tsushima"(日本海海戦のこと)の再現をしたんだぞ!戦闘機隊の護衛はどうした!あいつらは、遊覧飛行のバイトでもしていたのか?作戦参謀!今回の戦闘について、報告せよ!」
「はい!」
作戦参謀の、フランク・ギャラガー大佐が説明を始めた。
「今回の損失は、ヘルダイバー15機、ドーントレス15機、アベンジャー8機で、損失率は、それぞれ75%、94%、50%です。同じ高度で飛行していたにも拘らず、爆撃隊の編隊の右翼に居たドーントレスの部隊の被害が極端に大きくなっています。FLAK(高射砲のこと)の上空を飛行したのなら、爆撃隊全体が、もっと均一に被害を受けるはずです。そうなると、爆撃機隊の右翼が、FLAK陣地上空をかすめたのか、もしかしたら、ドイツで使っていたような空対空ロケット弾による攻撃を、右翼から受けたのかもしれません。」
「次に爆撃隊が攻撃を受けている間、戦闘機隊に救難の連絡をしたが、戦闘機隊は構わず帰投した点ですが、無線に異常がないことから日本軍によるジャミングが行われたと思われます。よって、戦闘機隊に落ち度はないでしょう。」
ギャラガー大佐が説明を終えると、ハルゼー大将は、丸い目を更にギョロつかせ、
「てことは、何か?ジャップの田舎基地に、ナチの新型兵器が装備されたっていうのか?
これが本当なら、マズイぞ!情報を集めて、しっかりした作戦を立て、ジャップをグシャリとやらなくては!ギャラガー大佐。君の最後の仕事だ。サイパンのF-13(B-29の偵察機型)による偵察を依頼しろ。写真と、H2S(地形を映し出す特殊なレーダー)の画像を集めろ。三方原台地全体のだ!それが終わったら、ストーバル少佐に仕事を引き継ぎ、重巡洋艦インディアナポリスで本国に帰還したまえ。」
「はい、早速手配します。」
ギャラガー大佐は、ハルゼー大将の指示通りに仕事をした。彼は非常にまじめな男だったから。
しかし彼は、ハルゼー大将の命令を完遂できなかった。
帰国できなかったのである。
彼の乗艦した重巡インディアナポリスが、日本の潜水艦 伊58号の雷撃で沈み、多くの乗組員と同様、サメの餌食になったからである。