第23話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:新芙蓉部隊副隊長
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:新芙蓉部隊隊長
・浅田海軍中尉:彗星第一中隊隊長
戦闘第九一一飛行隊(通称:新芙蓉部隊) 正式開隊が迫る4月の下旬。
いつものように彗星隊と飛燕隊が訓練のため、薄暮を切り裂いて三方原基地を飛び立っていった。
搭乗員達は、レシーバーから聞こえてきた通信士の指示を元に機体を操るのだが、今日はいつもと違った。
「敵小型機編隊が、北上中。現在中田島砂丘より南110km。彗星第一中隊、飛燕第一中隊は、浜名湖上空高度5000mにて待機のこと。」
声の主は、女性。
搭乗員達は驚きながらも、その声に従った。
数分後、先ほどと違う女性が、少し落ち着いた声で、
「敵高度3000mにて北上中。彗星第一中隊、接敵せよ。高度2000m、時速580kmにて南東に前進。」
と指示。続いて、また別の女性が、少し幼い感じの声で、
「飛燕第一中隊、接敵せよ。高度6000mで、時速600kmにて東南東に前進。」
指示を出す者が、彗星中隊と飛燕中隊と別になり、声色もかなり違い、しかも女性であることから、搭乗員達の耳の識別能力は、格段に向上していた。
「そろそろ接敵するころか?」
彗星第一中隊の浅田海軍中尉は、前上方を見上げていると、再び落ち着いた声が聞こえた。
「敵機は、11時の方向、彼我の高度差300m。水平距離2000m。」
浅田海軍中尉は、その指示に従って視線をやると、浜松基地に要請して飛ばしてもらった3機の九七式戦闘機がすぐ見えた。今回の誘導は、今までにない精度の高さである。
「各機、11時方向に敵機。時速610kmまで増速!」
彗星隊の12機は、くの字編隊で、九七式戦の7時下方から接近していった。
先頭を飛ぶ浅田隊長は、望遠鏡型の二式一号射爆照準器に代わって装備された四式射爆照準器三型のスパンゲージつまみを調整し、彼我の距離が1000mになったらすぐ分かるようレティクルの調整をした。
そして1000mまで接近した時、浅田中尉は静かに、
「各機、二八号、斉射よーい。撃てぇー!」
実際には、各機10発、合計120発の空対空ロケットが97式戦を襲うことになるが、今回は、写真銃が写真を撮るだけである。
「各小隊、散開。帰投せよ!」
浅田隊長が命じると、彗星隊は小隊単位で、50m以下の超低空を時速600km以上の速度で三方原基地へと帰投した。
彗星隊は、会心の出来であった。