第21話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:新芙蓉部隊副隊長
・東海林陸軍中尉:通信電子隊隊長
・伏木陸軍少尉:技術士官、整備担当
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:新芙蓉部隊隊長
・佐藤海軍大尉:整備隊隊長
・高橋海軍少尉:技術士官、兵装担当
・宮藤特務少尉:技術士官、整備担当
・真小井上等兵曹:海軍最強のし重兵
「ところで、このアツタ三二型甲とは?」
ガリ版に書かれた見知らぬ発動機について、副島隊長の問いたのに対し、宮藤特務少尉が説明を始めた。
「アツタ三二型甲は、私が勝手に付いた名前です。先日、川崎から納入された直径が4mm大きいピストンを使えるよう、シリンダーをボアアップして作った発動機です。当初は、ピストンの方を削ろうと思っていました。しかしピストン径がφ154でストロークが160mmという値は、ドイツのDB605と一致していたこと、またシリンダーのスリーブ厚さが十分だったことから、ボアアップする事にしました。」
「試験は行ったかね?」
「はい、着陸に失敗した飛燕Ⅱ型に搭載して地上試験を延べ36時間、飛行試験を10時間ほど行いました。結果は、良好です。」
「アツタ三二型もさることながら、アツタ三二型甲の供給は重要になるな。そこのところは、どうなっている?」
「はい、東海精機の出張所が基地で稼働していますので、三二型甲は、日産1基程度が可能です。」
「川崎のうっかり者のおかげで、我々は、エライ機体を配備することになったようだ。」
副島隊長は、少しにこやかに言った。
「ところで、機上無線機の方はどうだ?無線機が重りでは困るからな。」
副島隊長が確認すると、宮藤特務少尉は、
「その件については、東海林中尉お願いします。」
東海林陸軍中尉は、軽く礼をして話し始めた。
「海軍機の九六式二号無線電信機は、接地の取り方に問題があって、十分な性能が引き出せていませんでした。接地の改善と、発動機からの雑音を減らすためのフィルター回路を追加したので、対地でしたら、安定して1500kmでも通話できます。同様に、飛燕の九九式飛三号無線機も、対地で120kmでの通話が可能です。」
「両機では、随分通話距離が違うんですね!」
高橋海軍少尉がつぶやくと、東海林陸軍中尉は、
「出力が10倍違いますからね。しかし、今回の任務には、問題ないでしょう。」
「今回の戦闘は、迎撃戦だからな。それにしても、よくやってくれた!」
池田副隊長が答えた。
高橋海軍少尉は、今回の任務の電波機器の重要さを改めて実感した。
「ところで、基地防空火器は、どのようになっている?」
池田副隊長の質問に、今度は高橋海軍中尉が答えた。
「三方原基地には、設けません。鹿児島にある、『本家』芙蓉部隊の岩川基地に倣い、偽装により基地を敵に攻撃させないことを主眼としております。逆に、偽基地にセルシンモーター制御の25mm機銃や噴進砲で反撃して、敵をそちらに引き付けるようにしています。また・・・」
「また、何だね?」
「浜松基地の東方7km、天竜川の近くに大口径高角砲を2機3門設置する予定です。」
「予定?」
「『海軍最強のし重兵』が、高角砲を調達できるかにかかっています。多分大丈夫でしょう。」
「真小井上等兵曹だな?なら大丈夫だ。で、何を布置するのだ?」
「五式と超10センチです。後者は、載せる艦がないので、今輸送中です。」
「我が部隊は、余剰兵器再利用部隊だな・・・」
「はい・・・」