第1話
<陸軍>
・神崎大佐:第11飛行師団参謀長
<海軍>
・山澄大佐:第三航空艦隊参謀長
・美濃部少佐:芙蓉部隊隊長
昭和20年3月下旬のこと。日本海軍 木更津基地は、ひと月前の会合よりにぎやかな陣容となっていた。
沖縄戦の状況が思わしくない現在、陸軍と海軍の協調の必然性を悟った日本は、ようやく陸海軍での共同作戦のための話し合いの場を持つことになった。
木更津基地に集まったのは、海軍第三航空艦隊隷下 9個飛行隊の高級士官、そして陸軍の第11飛行師団の高級士官であった。
会合の大半は、陸海軍総力を挙げた沖縄に対する特攻作戦の調整。その後、第三航空艦隊参謀長の山澄大佐が、口を開いた。
「我が帝国海軍において、特攻によらず、沖縄戦において多大なる戦果を挙げている部隊があります。美濃部少佐率いる芙蓉部隊であります。」
山澄大佐が拍手をすると、部屋全体に拍手が広がり、その場に居た者の視線は、室内で一番階級の低い美濃部少佐に注がれた。
美濃部少佐は、参謀長の芝居がかった紹介に少しイラっとしつつも、完璧な敬礼をした。
山澄大佐は、話を続けた。
「芙蓉部隊の成功の秘訣は何か?それは、練度の高い整備兵と、高い教育を施された搭乗員、そして効果があると信じれば、試作中の新兵器もドシドシ使う積極性であります。一般部隊における零戦稼働率が7割である現在、芙蓉部隊では、液冷発動機アツタ21型を搭載する彗星艦爆を、8割以上の稼働率で運用しています。」
8割、しかも液冷発動機搭載機でそれを成し遂げていることに、三航艦側はもちろん、11飛師側からもどよめきが出た。そんな中、11飛師の参謀長 神崎大佐は、軽くうなずいた。
「そこで、第二の芙蓉部隊を開隊することにした。目的は、新防空網の試験と構築である。今回は、陸軍と協調して部隊を作り、得られた知見は、帝都防空に速やかに反映するものとする。新防空網については、第11飛行師団 参謀長の神崎大佐に説明をお願いする事にする。」
山澄大佐が神崎大佐を一瞥すると、神崎大佐は、2人の男を従えて皆の前に出た。