第14話
<陸軍>
・池田公平陸軍大尉:新芙蓉部隊副隊長
・伏木陸軍少尉:技術士官、整備担当。
<海軍>
・副島弘樹海軍大尉:新芙蓉部隊隊長
・佐藤海軍大尉:整備隊隊長
・高橋海軍少尉:技術士官、兵装担当。
・宮藤特務少尉:たたき上げの年配技術士官。整備担当。高橋少尉とペアで仕事することが多い。
<軍属>
・おやじ:東海精機重工業 専務。根っからの技術屋。
再び周囲がざわめく。高橋海軍少尉は、続けた。
「九九式二号銃は、他の機関砲より重い弾を高初速で発射するため、砲口初活力(弾丸の砲口での運動エネルギ)は、この3門の中で最高である。九九式二号銃に比べれば、マウザー砲の初活力は約8割、ホ5にいたっては6割に過ぎない。これから鋼板的への射撃で確認する。鋼板的は厚さ20mmの軟鋼板で、射座より500m先にある。」
搭乗員たちの視線が3門の機銃に注がれる。
高橋少尉が指示を出した。
「総員、耳を保護せよ!マウザー砲発射準備!鋼板搾出弾装填!」
「弾薬装填よし!」
おやじが答えた。
「安全子解除!」
「安全子解除よし!」
「発射5秒前、3、2、1、テェー!」
ダン!と大きな発射音を残し、マウザー砲が発射され、鋼板的に弾着の火花が見えた直後にガン!と弾着音が聞こえてきた。
同様に、ホ5と九九式二号の射撃をした後、全員で標的まで移動した。
高橋海軍少尉は、一番左の数ミリ丸く窪んだ弾痕の説明を始めた。
「この弾痕は、マウザー砲の弾痕である。マウザー砲の弾は、板金製であるので、炸薬を多く込められる。これは、戦闘機のようにアルミの薄板には威力を発揮するが、B29のように防御のしっかりした機体では、十分な威力を発揮しがたい。」
高橋海軍少尉は、次に真ん中のとがった窪みを付けた弾痕の説明を始めた。
「これは、ホ5の弾痕である。マウザー砲より貫徹力があるが、500mで20mmの鋼板は抜けない!」
最後に一番右の弾痕の説明をした。
「これは、九九式二号銃の弾痕である。弾丸は、20mmの鋼板途中でさく裂し、装甲を貫通。そのため、射入口も射出口も花びら状にめくれあがっている。これならば、グラマンはもちろん、B29にも効果があるはずだ!」
弾痕の説明をした後、搭乗員に正対し、高橋海軍少尉は説明を続けた。
「今の射撃からも分かるとおり、九九式二号銃は、ションベン弾ではない。ションベン弾と言われたのは、一号機銃の方だから、安心してほしい。また、機銃換装に伴い、旧マウザー砲の機体なら2門で28kg、旧ホ5の機体なら16kgの軽量化が図れる!」
ここで一息ついて、高橋海軍少尉は続けた。
「これまでいいことばかり述べてきたが、1点残念な事を言わねばならない。発射速度が毎分450発で、他の機関銃の6割程度しかない。これについては、私をはじめとした技術陣で改善するよう努めるが、その点だけ、ご了承願いたい。」
高橋海軍少尉は、大半が自分より階級が下の搭乗員に頭を垂れた。
驚いた搭乗員達は、口々に言った。
「高橋少尉、頭を上げてください。」
「マウザー砲より強力な機関砲を付けてくれるんです。これから先は、私たちの仕事です。」
高橋海軍少尉は、ゆっくり頭を上げ、言った。
「皆ありがとう。これからの厳しい戦局を、互いの精進で乗り切ろう!」
オーという歓声の中、佐藤整備隊長は、静かにきびすを返し本部廠舎へ向かった。