決断の日
短編です
仕事に疲れ、妻ともうまく行っていない、子供も僕には懐かない。そんな最悪な人生に光をくれたのが、みゆきだった。
取引先のお偉いさんに連れられて、初めて入ったキャバクラにみゆきはいた。あんな煌びやかな世界は初めてで、ドギマギする僕にみゆきはそっと寄り添ってくれた。僕のつたない話を懸命に聞いてくれて、「あなたは悪くない」と、そう言ってくれた。頑張っている僕をちゃんと評価して褒めてくれた。
こんなに女性に優しくされたのは初めてだ。
妻は子供を産んでから変わってしまった。もう何年も、ほとんど口をきいていない。僕が家に帰るのが遅いのもあるけど、夕飯も朝食も何も準備されていない。一度、冷蔵庫に夕飯の残りのような物があって、僕の分だと思って食べたら、翌朝怒り狂った妻に、子供の前で小一時間説教された。子供の弁当用だったらしい。あれ以来、僕は家では何も食べなくなった。
そんなつらい話だって、嫌な顔一つせず聞いてくれたみゆきは、僕を救ってくれる天使のような存在だ。
みゆきも、会えば必ず「好きだよ」と言ってくれる。そんな風に僕に好意を向けてくれる女性なんて、今までいただろうか。
僕はお世辞にも格好いいとは言えない、ブ男である事は自覚している。太っているし、性格だって、最近の若者言葉を使えば、陰キャと呼ばれる部類に入る。
でもみゆきはそんな僕を、好きだと言ってくれたんだ。店の決まりで、食事などで同伴はできても、一緒に寝泊まりはできないと言われたから、そう言う行為はできていないけど、頬にキスは何度かしてくれた。“僕にだけ”と言ってくれたみゆきの気恥ずかしそうな笑顔が忘れられない。だから僕は決心したんだ。
店の前で、もう一度、持ち物をチェックする。
離婚届受理証明書、新しいアパートの鍵、僕の分は記入済みの婚姻届け、そして、指輪だ。
妻に離婚を切り出した時、もっと激しい口論や裁判を想像したけど、すんなり受け入れた。冷たい女だ。子供は妻の親権で双方合意した。みゆきとの生活に前妻の子供なんて連れていけない。そもそも僕に懐いてはいなかったし、子供だって、妻と一緒の方が良いだろう。
会社も辞めた。定年が近かったし、早期退職をすることで、退職金を少し多めにもらえるんだ。だから、僕は、リストラされたわけじゃない。自分で選んで早期退職したんだ。
この決断も、間違っていない。それに、退職金も口座から引き出してきた。こんな大金見たら、みゆき、驚くだろうなぁ。
中身を確認し終えたバッグをしっかり持って、僕は店のドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
「みゆきちゃんでお願いします」
「あぁ、すみません、今日みゆきは体調不良でお休みなんです。他の女の子はいかがですか?」
「えっと、じゃぁ今日は帰ります」
何て間が悪いんだろう。ちゃんとメッセージの返事が来てから来ればよかった。そう言えば、メッセージに返事がないと思ってたけど、体調崩してたんだ。酷い病気じゃないと良いけど。
[お店に来たらお休みって言われちゃったヨ~(;^_^A 体調大丈夫?心配ダナ(;゜Д゜) 次の出勤の時、僕らの未来♡に関わる、大事なおハナシ( *´艸`)がしたいから、体調がよくなったら連絡してね!☺]
——変だなぁ、既読もつかない・・・——
早く元気になりますように。




