第七話 機械仕掛けの≪娘≫
「……≪宝物≫!」
俺は剣の呪文を唱え、スナイパーゴーレムの前に姿を現す。こちらに気づいたゴーレムは、腕をこちらに向けて魔法を放つ。
「ふっ……!」
間一髪で当たる所だった魔法を、俺は何とか躱す。普段の俺なら出来ない芸当だが、今の俺は普段とは違う。
「コウ、もたもたしちゃ駄目よ!魔法の効果が続くのは有限だからね!」
「…………!」
俺は後ろから聞こえる声にコクリと頷き、ゴーレムの魔法を躱していく。俺がこんなに凄い動きが出来るのは、シェリィの魔法によるものだ。シェリィさん曰く、この魔法は全身の筋肉を著しく強化するもので、魔法をかけた人を一瞬で超人に変えることが出来るらしい。前にこの魔法を使ってもらった時に感じたが、やはりとても便利だな。
「今だ!」
ゴーレムに一瞬で近づき、赤い瞳を狙って剣を振るう。しかしゴーレムはわずかに身体を逸らし、攻撃を躱した。
「!そんな……!」
ゴーレムの腕がこちらを向く。腕の銃口のような部分が赤く光り、今まさにこちらを射抜こうとしていた。
(まずい、当たる……!)
「≪ファイア≫!」
突然、シェリィの大きな声が響き、炎の玉が俺とは別方向に飛んでいった。それと同時に、炎の玉に反応したゴーレムの腕が別方向に向けられる。魔法は近くの壁に放たれ、ジュッと音を立てて消えた。一瞬だけ出来た隙を逃さず、俺は今度こそ瞳に向かって剣を振るった。
「はあっ!」
「――――」
ゴーレムの瞳が音を立てて砕ける。それと同時に黒い岩の身体が崩れ、灰のようになって消えた。
「やった……!」
俺は安堵の息を吐いて、その場にへたり込んだ。既に魔法の効果が無くなったのか、身体にどっと疲れが押し寄せてきた。
「……よくやったわね、コウ」
シェリィが俺を見下ろしてそう言った。シェリィは俺の手を取って立たせると、ポンと俺の肩を叩く。
「なかなかやるじゃない。わたしの補助があったとはいえ、スナイパーゴーレムを倒せるなんて」
「……いえ、まだまだですよ。さっきのシェリィさんの魔法がなかったら、俺は撃たれていたでしょうし」
「それでも、あなたは自分の言ったことを成し遂げた。普通の初心者が出来ることじゃないわ。このわたしが褒めてあげる」
「……ありがとうございます」
まさか自分のやったことを褒められるとは。前世ではそんなことをやってくれるのは、二人の姉とあいつだけだったからな……少し嬉しい。そんなことを思っていると、どこかから音が聞こえてきた。顔を向けてみると、スナイパーゴーレムのいた場所の奥が、進めるようになっていた。
「……どうやらまだ先があるみたいね」
「ということは、あの先が最深部ということですか?」
「おそらくね。じゃあ、進みましょうか」
シェリィは俺の手を引いて、遺跡の先へ足を進めた。
――――
コウの手を引きながら、わたしは遺跡の中を歩く。先程とは違って道は明るく、互いの様子もはっきりと見えていた。
(……この男、思っていたよりもやるようね)
彼はわたしの身体強化の魔法を受け、見事スナイパーゴーレムを打ち倒した。その動きはとても初心者の冒険者とは思えず、思わず見惚れてしまった。まぁ、ゴーレムに攻撃を躱されるような未熟さもあるが、彼の実力は本物のように思える。
(さっきは咄嗟に炎魔法を使っちゃったけど……それすらもいらなかったかもしれないわね)
心の中で、わたしは彼に対する評価を少し上げていた。それと同時に、わたしは自分が恥ずかしくなった。彼が自らゴーレムの討伐を申し出た時、わたしは半ば諦めかけていた。スナイパーゴーレムはわたしと相性が悪いし、初心者の彼を強化しただけでは勝てない……そう思い込んでいた。
(でも、実際は違った。彼はちゃんと状況を見て、自分の出来ることを成し遂げた)
彼は自らに強化魔法をかけるようにわたしに頼み、スナイパーゴーレムに立ち向かっていった。最初はチョロい駒だと思っていたが……少し認めてやってもいいのかもしれない。――コウは、わたしに勝るとも劣らない実力者なのだと。わたしと同じ、自分の意志を持った人間なのだと。
(この遺跡探索が終わったら、少し話をしましょう。それで、今度は対等な仲間として……)
わたしは思考を繰り広げながら、遺跡の中を進んでいった。
シェリィと歩いていると、少し広い部屋に辿り着いた。内装はさっきスナイパーゴーレムがいた所とほとんど同じだが、部屋はとても明るかった。
「ここが、最深部ですかね……」
「多分、そうだと思うわ。魔物の姿は見えないけれど、先に進む道はないみたいだし」
シェリィは辺りを見渡しながら、松明の明かりを消す。確かに目の届く範囲に魔物はおらず、壁に囲まれていて進むことは出来ない。俺はシェリィさんと別の方向を向き、少し先に進む。
「……ん?」
今、何かが人影が見えたような。違和感を感じて足を進めると――誰かが倒れていた。
「なんだ、これ……」
それは白髪の少女だった。目を閉じて微動だにせず、無防備に地面に身を投げ出していた。顔立ちはとても整っており、まるで人形のようであった。
「死んでいる?それに、この服装って……」
少女は黒いパーカーのようなものを来ていて、下はショートパンツを身に着けていた。ファンタジーな世界にそぐわない現代的な服装が、彼女の美しさを引き立てていた。……これは、もしかして日本人か?俺は少女に近づくと、そっと身体を揺すってみる。
「……起きませんね。じゃあ、やっぱり死んでいるのか……」
おそらく俺よりも先に、この世界に来た人なのだろう。遺跡を探索している途中に、力尽きてしまい、その人生を終えてしまったのだろう。
「……どうしよう。どうすれば良いんだ、これ」
こういう場合ってどうすればいいのだろう。まずはシェリィさんに声を掛けるのが先だろうか。それとも、埋葬してあげればいいのか?いや、まずは成仏してもらうために祈って……そんなことを考えていると、突然、少女の身体が光った。
「うわっ!?」
≪生態反応を検知。新たな管理者であると断定。修理プログラムを起動した後、再起動を試みる。カウント、一、二、三……≫
俺はその場から飛び上がると、少女から突然聞こえてきた機械音声のような声が部屋に響く。
「どうしたの、コウ!」
音を聞きつけて来たのか、シェリィがこちらに走ってきた。俺は狼狽えながら、白髪の少女を指さす。
「何……!?何なのあれは!」
シェリィは敵だと思ったのか、剣を構えて少女と相対する。少女の方を見ると、いつの間にか少女は起き上がっていた。
≪修理プログラム、完了。再起動……≫
「シェリィ!これって、何かの魔物なんですか!?」
「し、知らないわよ!人型の魔物はいるけど、こんな人間みたいなやつなんて……」
俺達がそんなことを言っている間にも、機械音声が鳴り響いていく。言語は日本語でもこの世界のものでもないので、何を言っているのかはさっぱり分からない。やがて機械音声は止み、目の前の少女はゆっくりと瞳を開けた。瞳はまるで海のように青い色をしていて、宝石のように輝いていた。少女は目を開いたまま、こちらをずっと見つめている。
「……コウ、魔法をかけるわ。いざとなったら走って逃げるわよ」
「……分かりました。でも、シェリィは……」
「大丈夫よ。わたしは魔法なしでも速く走れるもの」
シェリィはそう言うと、俺に魔法をかけてくれる。身体の奥底から力が湧いてきて、神経が研ぎ澄まされる。よし……これなら行ける。俺とシェリィは互いに武器を構え、少女の動きを見る。緊迫した雰囲気の中、ついに少女は口を開いた。
「……隱ー?溘←縺薙°繧牙?縺」縺ヲ縺阪◆縺ョ?」
「「え?」」
今、なんて言ったんだこの人?全く聞き取れなかったんだけど……ポカンとする俺達を尻目に、少女は言葉を続けていく。
「繧ゅ@縺九@縺ヲ螟悶°繧会シ溘◎繧後→繧ゆクュ縺ォ」
「え、えっと……」
どうしよう。何を言ってるのか全く分からない。予想外の事態に毒気を抜かれ、纏っていた力が抜け落ちるような感覚に陥った。なんなんだ、この状況は……
「……?あ、言語間違えてた。ごめん」
「えっ」
いきなり言葉が聞き取れるようになった。少女は無表情でこちらを見つめて、頭を下げる。
「……あなた達、どこから来たの?」
「え?えっと、ここの外からですが……」
「なるほど。つまり、外のゴーレムを倒したということ?」
「はい。……あっ」
流れで答えちゃったけど、これって言ってよかったのか?この人の素性も分からないし、もしかしたら魔物かもしれないのに。――俺の答えを聞いた少女は興味深そうに頷き、しばらく考え込むような素振りをする。これは……まずいのでは?シェリィの方を向いて目で訴えて見るが、彼女は間の抜けた表情で立ち尽くしているだけだった。……どうやらこの状況についていけていないようだ。少女はやがて考える素振りを止め……俺達に向かってこう言った。
「……じゃあ、あなた達が次の≪ママ≫?」
「「……は?」」
少女から告げられた意味不明の言葉に、俺とシェリィは首を傾げることしか出来なかった。




