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第五話 産物


「……ここが、コウの部屋か」

私とアカリはコウの遺品整理を手伝うために、父の家に来ていた。といっても、あらかた父が終わらせたらしいので、軽く掃除をするくらいだが。

「えへへ……コウ君の匂いだ……」

「こら、アカリ。ベッドに顔を埋めていないで、少しは手伝ったらどうだ?」

「えー、久しぶりにコウ君の匂いを感じてるのに……それに、僕がやらなくてもビャク姉一人で十分でしょ」

アカリはそんなことを言って、再びベッドで顔を埋める。アカリが塞ぎ込んでから数ヶ月。何とか部屋から出れるようになったので、アカリもコウの部屋に連れてきたのだが……失敗だったかもしれない。

(引き籠もってたからか、すっかり怠け癖がついているな……というか、もうアカリは手遅れかもしれん)

いくら姉弟とはいえ、弟のベッドに顔を埋めて興奮で息を荒くする姉は世界広しといえどもアカリだけではないだろうか。……いや、私はそんなことはしないぞ?いくら可愛い弟とはいえ、越えてはいけないラインは理解しているし。

「ほら、私は床を掃除するから。アカリは棚の整理をしてくれ」

「ええー……?」

「……もしかしたら、コウの持ち物が残ってるかもしれないぞ?」

「やる!やります!」

アカリは目を輝かせて棚の整理を始めた。……この掃除が終わったら、アカリのブラコンを何とかしよう。


「……ふぅ、ようやく終わったな」

掃除が終わり、私はホッとしたように息を吐く。アカリも棚の整理を終えたのか、何かをやり遂げたというように額の汗を拭っていた。

「やっと終わったー……ふふふ、じゃあ早速僕はベッドで……」

「待て、まだやることは残っているだろう?」

私は部屋の隅にある、コウの写真を手で指した。写真の周りには蝋燭と小さな線香差しが置かれており、写真には笑顔のコウが写っている。――それはコウの仏壇の代わりに置かれた、小さな祭壇のようなものだった。父によると、部屋が小さく、お金もないためにこんなものしか置けなかったのだとか。それでも、コウの姿を残すには十分な場所だ。

「……あっ、そうか。コウ君に挨拶しなくちゃ……」

「ああ、一緒に挨拶しよう」

私とアカリは目を閉じ、一緒に手を合わせる。心の中でコウへの挨拶を済ませると、ゆっくりと目を開ける。

「……コウ君」

「……大丈夫か、アカリ?」

私がそう聞くと、アカリは暗い表情をするのを止め、ニッと笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。僕、もうめそめそ泣いたりしない。コウ君にとっての自慢の姉になりたいからね」

「……そうか」

私は短く返事をした。妹の成長を見たからなのか、心の中が温かいもので満たされる。どこか穏やかな気持ちになりながら、私は祭壇に顔を向けた。

「……ん?」

ふと、私は首を傾げた。祭壇の近くに、先程まではなかったものが置いてあったからだ。……それは青色の勾玉だった。

「ビャク姉?どうかしたの?」

「……いや、あの青い勾玉、あそこに置いてあったか?」

「ん?……ほんとだ!何あれ!?」

アカリは祭壇に近づき、青い勾玉を手に取る。……いや、ちょっと待て。

「何をしてるんだアカリ!勝手に触っては……!」

「えー、大丈夫だよ。そんなに焦らなくても、何処からどう見ても普通の勾玉――」

アカリがそう言うと同時に、青い勾玉が光を放つ。突然起きた不可思議な光景に、私は目を丸くした。

「なっ……なんだこの光は!」

「ま、まぶしい……!」

勾玉は更に光を強め、私達の視界を覆った。


「……遺跡の調査?」

翌日。シェリィさんから呼び出しをくらった俺は、いつもの通りギルドに来ていた。内容はクエストについての話し合いである。

「ええ、最近発見された遺跡らしいのだけど……調査をしようにも、魔物が現れるから、クエストにして冒険者に任せようってことになったの」

「なるほど。つまりそのクエストを受けようということですか」

「お、察しがいいじゃない」

シェリィさんは笑みを浮かべ、机の前にクエストの依頼書を取り出した。……凄いな、報酬がこの前の倍はあるぞ!これだけあれば、しばらくお金には困らなさそうだ。

「今回はこのクエストを受けるつもりなの。もちろん、手伝ってくれるわよね?」

「はい、もちろんですシェリィさん」

俺がそう言うと、シェリィさんは何故か不満そうな顔をした。あれ、何か間違えたかな?

「……コウ、私とあなたは同い年でしょう?さん付けも必要ないし、敬語もいらないわ。昨日言ったでしょ」

シェリィさんは窘めるようにそう言う。――昨日パーティーの勧誘を受けた後に知ったのだが、シェリィさんは俺と同じ十五歳らしい。年上だと思っていたから、それを知ったときは驚いてしまった。だから、敬語とさん付けを外すように言われているのだが……

「えっと、そう言われましても……これは癖みたいなものなので。それに、同い年だとしても、シェリィさんは先輩ですし」

「……なら、せめてさん付けを止めなさいな」

「……分かりました、シェリィ」

「ふむ、及第点ね」

シェリィはそう言って、満足そうに頷く。……人を呼び捨てにするのは慣れていないのだが、シェリィの機嫌を損ねるのも良くない。万一パーティーを解消されてしまったら俺が損するだけだ。

「……ふふ、順調に進んでいるわね。この調子でこいつを利用して……」

「……シェリィ?どうかしましたか?」

「っ!?な、何でもないわ!」

何やら呟いていたシェリィに声を掛けると、焦った様子でそう言われた。……明らかに何かありそうだが、それを指摘するのも野暮というやつだろう。ここは黙っておこう。

「じゃあ、行きましょうか!急がないと日が暮れてしまうわ!」

シェリィはそう言って、俺の手を引いた。


――――

ふぅ、危ない危ない……聞かれてしまう所だったわ。私は隣を歩く男――コウの方を見る。昨日出会った無害そうな少年。簡単に利用出来そうなチョロそうな奴。クエストを探している姿を見た時、こいつだ!と私は思った。一人では高難易度のクエストを受けるのは難しいが、二人ならば割のいいクエストを受けられる。難しいクエストでも、私の()()を使えば簡単に人を強くすることが出来るし、後は無害であればいい。

(そう、こいつを利用して……とにかく金を稼ぐの。そしてわたしを追い出したあいつらを見返して、いつか左団扇の生活を送ってやるのよ!)

私は昏い笑みを浮かべながら、まだ見ぬ煌びやかな未来を想像するのだった。





 

 



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