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第十七話 正体


父さんの家で一晩過ごした後、私とアカリは家に帰ってきた。アカリはずっと青い勾玉を手に持って、楽しそうに≪コウ≫と話している。はたから見ると不審者なので、電車で帰る時は視線が痛かったが……しかし、楽しそうに笑うアカリを叱るのも……と、思い注意はしなかった。ここ最近、アカリはずっと暗い顔をしていたからな。周りの視線なんて軽いものだ。

「ただいま――」

「あら、おかえりなさい。ビャクヤさん、アカリさん」

扉を開けると、そこには母さんがいた。私は思わず目を見開き、足を止める。アカリが「うぎゃっ」と声を上げて私にぶつかった。

「母さん……?帰っていたのか?」

「ええ、丁度お仕事がお休みで……たまには、二人の顔を見ようと思ったのです」

母さんはそんな事を言って優しく微笑む。――数年前に離婚した母さんは、私達の生活費を稼ぐために、ほぼ毎日一生懸命働いている。幸い、この家の家賃や私達の学費は父さんが払ってくれているので、母さんの負担は比較的少ないのだが……それでも、大変なことに変わりはない。

「いたた……もう、ビャク姉いきなり止まらないでよ……って、母さん!?」

「おかえりなさい、アカリさん」

私の背後から文句を言いながら出てきたアカリは、母さんを見て驚きの声を上げる。そんなアカリを見て、母さんはどこか嬉しそうに出迎えの挨拶を言った。

「……母さん、わざわざ出迎えてくれなくても良かったんだぞ?疲れているだろうし、ゆっくり休んで……」

「気にしないでください。実は、お昼ご飯も作っているんですよ。皆で食べましょう」

「えっ、ほんと!?やったー!僕、もうお腹ペコペコだよ!早く食べよう!」

「お、おい!アカリ!」

アカリは小走りで荷物を放り投げながら、洗面所に向かった。……その際も、勾玉からは手を離さなかった。

「……あら?アカリさん、何か持っていませんでしたか?」

「あ、ああ。父さんの家で、珍しい石を拾ったみたいでさ。妙に気に入って、ずっと手に持っているんだ」

まさか勾玉の姿をしたコウとは言えず、私は適当にはぐらかす。少し苦しいか、と思いながら母さんの方を見ると、母さんはアカリの言った方を見つめながらこう言った。

「……そうですか」

その時の母さんは、どこか苦々しい表情をしていたように思う。しかし、その時の私はそれに気付かず、ボロが出る前にその場を去ろうと、アカリを追いかけていた。……この時の私は知らない。まさか、母さんから()()()()を告げられるなんて……



食事を終えた後、私はアカリと一緒に、私の部屋で勉強していた。私は今年で高三。すでに受験生だ。今は自分の目指す大学に向けて勉強を続けている。……まぁ、予習復習が日々の習慣なので、然程変わったことはしていない。まぁ要するに、ただの勉強だ。

「ビャク姉ー、ここがわからないんだけど……」

「む、そうか。少し見せてくれ」

アカリは私に分からないと言った問題を示し、私はアカリが理解できるように説明する。……アカリは普段抜けている事が多いが、頭は良い。私の説明を聞いてすぐに理解が出来るし、学校の成績も良い。間違いなく、アカリには良い天賦があると私は思っている。

「なるほどねー、よくわかったよ。やっぱり、ビャク姉は教えるのが上手いね」

「別に、これくらい普通だ。私よりも、学校の先生の方が分かりやすいさ」

私は謙遜しながらそう返す。とはいえ、教え上手と言われて悪い気はしない。私は教師を目指しているので、寧ろ、夢に近づけたのかと嬉しく思う。

「ビャク姉は自己評価低いよ。もっと自分の凄さをアピールしたほうがいいと思うけど」

「別に凄くなんかないさ。これくらい、努力すれば誰でも出来る」

「僕は教えるの下手くそだから、それはビャク姉の個性だと思うよ。ね、コウ君?」

≪そうですね。ビャクヤ姉さんは、素晴らしい才能を持った人ですから≫

アカリが机の上に置いてある勾玉に話しかけると、勾玉が光を放ち、コウの声が返ってくる。()()()()()()()()()()()その声に、私は少しだけ眉をひそめた。

「アカリ、今は勉強中だ。その勾玉はしまっておきなさい」

「え〜!?ビャク姉、酷いよ!コウ君を仲間外れにするなんて!」

「……悪いが、私はまだその勾玉を信頼できない。例え()()()()()()()としてもな」

「むぅ、まだそんな事言ってるの?この勾玉は本物のコウ君だって。ビャク姉もあの質問で分かったでしょ?」

「――残念ですが、ビャクヤさんの言うとおりです」

突然、部屋の外から声が聞こえた。私が視線を向けると、部屋の扉が開いていて、そこに母さんが立っているのが見えた。母さんはどこか深刻そうな表情をして、剣呑な雰囲気を放っていた。

「……母さん?今の言葉は……」

「……アカリさん。その勾玉をこっちに渡してください。私が……それを破壊します」

「えっ……?」

母さんは勾玉を指差し、片手に金鎚を持っていた。アカリは呆然としながら、勾玉と母さんを交互に見る。

「な、なんで……?」

「……それは、この世界に存在してはならないものです。()()()()()()、破壊しなければなりません」

「ま、待って!何言ってるの母さん!?それは、コウ君なんだよ!?」

勾玉に歩みを進める母さんの前に、アカリが立ちはだかる。それを見て、母さんは顔をしかめた。

「……どいてください、アカリさん。それは、コウさんではありません」

「違う、違うよ!これはコウ君なんだ!壊しちゃ駄目だよ!」

「アカリさん、あなた……まさか既に……!くっ、こうなったら、無理やりにでも私が……!」

「待った!待ってくれ、二人共!」

話が通じていない雰囲気の二人の間に、私は割って入る。二人は驚いて、口を止めた。

「まずは話し合おう。二人共落ち着いてくれ」

「ビャク姉……」

「ビャクヤさん……いえ、今はそれどころでは――!?」

母さんが途中で言葉に詰まり、アカリの後ろに視線を向ける。私も釣られて視線を向けると、勾玉が強い光を放っているのが見えた。勾玉から、声が聞こえる。

≪……記憶の読み取りを完了。身体の構築を開始する。()()()()0()3()7()、身体構築開始――約六秒後、構築を完了。()の近くにいないことを推奨≫

その声は最早コウの声ではなかった。機械的な音声で意味の分からない言葉を発し、勾玉の光はどんどん強くなる。

「これは……なんだ!?」

「……!始まってしまいました……!アカリさん、ビャクヤさん!この場から離れてください!」

「そ、そんなこと言われても……!コウ君は、どうするの!?」

≪――構築完了。約六秒後、()()()0()0()0()1()への転移を開始する。当個体から距離を置くことを推奨――≫

再び勾玉から声が聞こえ、光は更に強くなる。やがて、私達の視界が光で覆われ、何も見えなくなる。

「何だと……!?」

「な、何も見えないよ……!」

「アカリさん!ビャクヤさん!」

最後に母さんの声が聞こえ……私は、光に包まれながら、そのまま意識意識を失った。


  


 



 

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