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第十四話 手がかり


結局、シェリィがパーティーを辞めることはなかった。その場は夜も遅いということで解散となり、シェリィはどこか憑き物が取れたような表情をしながら部屋を出ていった。今頃は自分の部屋に戻って、身体を休めているだろう。ワダツミも自分の部屋に戻った。俺はベッドに寝転がったまま、先程までの事を思い返していた。

「……俺、あんな事を思っていたのか」

シェリィに言った言葉の数々。彼女の姿が昔の俺と重なったせいなのか、思わず励ますような事を言ってしまった。今でも、あれは本当に俺が言った言葉なのかと疑ってしまう。

(……まぁ、一時の気の迷いだろう。コウの人格が上手く消せていないだけだ)

俺はまだ動けるようになって、自分で物事を考えるようになって日が浅い。コウを抑え込む術もまだまだ未熟だ。だからなのかもしれないな。――時折、人を見過ごせなくなるのは。

(……自分を追放した奴らを見返す、か)

シェリィの述べたあの言葉。元の世界でも幾度か聞いたその言葉は、妙に親近感が湧くものだった。誰かに自分の存在を知らしめたい。必要だと思わせたい。そんな薄汚れた願望を持つ俺に似ている。

(……俺はシェリィを利用している)

シェリィとは利害の一致でパーティーを組んだだけ。俺は情報を得るために彼女に擦り寄っている。そのはずなのに、彼女といると、どこか心地よい気分になる。そう思ってしまうのは、俺が彼女に親近感を抱いてしまっているからだろう。

「……流されるな。俺は……願いを叶えるんだから」

そうだ。俺は願いを叶えるために転生した。余計な感情なんて不要だ。虚無龍を倒すその時まで、自分のために動け。――きっとそれが、俺の生きる道だ。



部屋に戻ったわたしは、足を揺らしながらベッドに腰掛けていた。先程までの鬱屈とした気持ちは消えていて、ただほのかな温かさが、胸中に広がっていた。

(……まさか、コウがわたしのことをあんな風に思っていたなんて)

先程コウに言われた、わたしに対する励ましの言葉。単純だと思われるかもしれないが、あれだけでわたしの心は救われた。だってわたしはずっと、わたしを見下してくるパーティーの中にいたんだから。

(……思えば、あいつらのせいで、わたしは自分のことを信じられなくなったのかもしれない)

……元いたパーティーは最悪だった。わたしの事を雑用係扱いして、メンバーの気に障るような事があればわたしが暴力を振るわれる。だがその頃のわたしは、自分は天才だと信じて疑わない愚か者だった。そのせいか精神面だけが強くなり、自分への酷い扱いなんて気にも留めなかった。わたしは凄い、いつかあいつらを見返してやるんだって――そんな、馬鹿な願いを抱いた。

(……でも、コウはわたしを否定しないでくれた)

故郷の村を出てから、そんな扱いをしてくれたのはコウだけだった。彼に褒められるとなんだか気分が良くなり、こんな自分でもここにいて良いのだろうか、と考えてしまう。

(ワダツミも、わたしの事を慕ってくれている)

遺跡で出会った謎の多いゴーレム、ワダツミ。彼女――ゴーレムに性別があるのかは分からないがおそらく――はまだ出会って間もないわたしを「ママ」と呼び、仲良くしてくれる。わたしの実力を認めてくれる。

……二人はまさに、わたしにとっての理想の仲間だ。

「……変わらなきゃ」

二人はわたしを認めてくれた。なら、わたしはその期待に応えられるように変わらないといけない。誰かを見返すために生きるんじゃない。自分の凄さを見せびらかすために生きるんじゃない。自分のために……自分を認めるために生きるんだ。

「コウとワダツミ……二人と肩を並べられるように――わたしは変わる」

わたしは決意を口にして、ぐっと拳を握った。その目にもう迷いはなかった。



「……おやおや、木の実が実ってきたねぇ」

イチの町の外れに、巨人の如くそびえ立つ一本の大木。その根元に、尖った耳の緑髪の女性が腰掛けていた。彼女の視線の先には、青々と実った木の実がある。その昔、()()()()()()()()()()彼女は、木々の成長を感じ取り、喜びを感じている。

「立派に育ったねぇ。育ち盛りなのかねぇ」

女性は木の根を撫でながら、微笑ましそうに呟く。彼女は木にもたれかかりながら、どこか遠くを見つめだした。

「それにしても、オリーリヤちゃんはいつ帰ってくるんだろうねぇ……≪()()()()()()()()()≫とか言っていたけれど、道に迷ってるのかねぇ……」

女性は呑気な口調で呟き、頬に手を当てて首を傾げた。脳裏に友人の姿を思い浮かべながら、女性は独り言を続けていく。

「確か、重要な任務とか言っていたけれど……あれ、誰に言われたんだったかねぇ……年を取ると、忘れっぽくて困るねぇ」

女性の見た目は二十代かそこらに見えるが、言動はまるで老人のようだった。記憶を掘り起こして友人の行方を思い出そうと試みるも、全く思い出せないようだ。

「まぁ、そのうち戻ってくるでしょうねぇ。それまで、のんびりしておきましょう」

女性は木にもたれかかったまま、寝息を立てはじめた。彼女の肌を、穏やかな風が撫でた。


 

翌日。俺は二人に、虚無龍について聞いてみた。情報収集が、いよいよ行き詰まってきたためだ。誰に聞いても「聞いたことがない」としか返ってこないので、博識な二人ならと、今さらながらに聞いてみた次第だ。

「虚無龍……?聞いたことがないわね」

「ワダツミのデータベースにはない。新種の魔物?」

結果はご覧のとおりだった。また振り出しである。……いや、そもそも進んですらいないのか。

(……虚無龍というのは一体なんなんだ。この世界には俺以外にも転生者がいるんだろう?それなのに、誰一人見かけていないのか?)

それ程までに、虚無龍は謎の大きい存在なのか。ホロウに見せてもらったあの黒い龍。あれが世界を崩壊に導いているのなら、誰かしらは姿を見かけてもおかしくないと思うのだが……

「あの……このあたりには、龍はいるのですか?」

せめて龍についての情報が欲しいと二人に聞いてみると、二人は律儀に答えてくれた。

「龍はかなり珍しい存在よ。ある地方では、豊穣をもたらすとも言われているし、またある地方では破滅をもたらすとも言われているわ。目撃情報だって少ないし、わたしも一度だけ見たことがある程度よ」

「ワダツミは龍を見たことがない。データベースにも記録されていない」

二人の言葉に、頭を抱えたくなった。どうやら龍というのはそもそも見つかりにくいものらしい。きっと俺がこれ以上聞き込みをしても、虚無龍には近づけないだろう。完全に手詰まりだ。

「はぁ……」

俺がため息を吐くと、二人が不思議そうにこちらを見てくる。

「コウ、今日はどうしたの?何か変よ」

「すみません、ちょっとめまいがしまして……」

「えっ、そうなの!?ちょっと待ってて、水を貰ってくるわ!」

シェリィはそう言ってギルドの受付に向かってしまった。いけない、心の中の言葉が口に出てしまった。気を遣わせてしまったみたいだ。

「……コウ、疲れてる?」

「ああいえ、大丈夫ですよ。ただの寝不足です」

首を傾げてこちらを見るワダツミに適当な事を言って誤魔化す。変に探られたくないからな。俺の本性を暴かれるわけにはいかない。……しかし、どうしたものか。このままだと、願いを叶えるどころじゃないぞ……――俺がそんな事を考えていると、いきなり、ギルドのドアが勢いよく開かれた。何事かと思って見てみると、誰かの怯える声が聞こえた。

「助けて!ば、化け物……!」

それは、白く輝く短剣を持った女性だった。女性はギルドに飛び込んできたのか、地面にへたり込んで後ずさっていた。顔には怯えが見え、視線は開いたドアの方を向いている。何事かと辺りが動揺するその瞬間に――()()()()()()()()

「カッカッカ!随分と逃げ足の早い娘よ!俺様から逃げられると、本気で思っていたのか!?」

それは一人の少女だった。橙色の髪を左側に纏め、漆黒の禍々しい装束を身に纏っている。目は獰猛な光を宿しており、残忍な笑みを浮かべていた。そしてとりわけ目を引くのは彼女の――()()()()()()()()()()だ。刃のような形に変わっているその左腕は、首を刈り取るような形状で、金属のような光を放っている。端的に言うと……化け物だった。

「俺様は神の使徒――()()()()()。神の名の下に、貴様を()()してやる」

少女――オリーリヤは左手を舐めながらそんな事を言った。

 


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