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第十一話 姉弟の再会…?


アカリが落ち着き、少し遅めの夕ご飯を食べた私達は、今日はもう夜遅いという理由で父の家に泊まる事にした。……万が一の事を考えて、着替えを持ってきておいて良かった。一応父さんの許可はもちろん、母さんにもしっかり許可を取っている。母さんはどうも()()()()居ることをあまりよく思っていないからな。

「…………」

「……アカリ?顔色が悪いが、大丈夫か?」

「……大丈夫だよ、ビャク姉。僕は立派なお姉ちゃんになるって決めたんだから。これくらいでへこたれているわけにはいかないよ」

アカリは気丈に振る舞い、どこか強張った笑みを浮かべてみせる。……今、私達は私の部屋――もとい、()私の部屋にいる。父によると、両親が離婚するまでに私達がいた部屋はそのまま残していたとのこと。割と広いので、二人分の布団を敷いてもまだ余る。……昔は三人で一緒に寝ていたりしていたな……おっと、いかんいかん。私まで感傷的になってどうする。ここは私が頑張る所だろう。

「無理はするなよ。明日も休日なんだ、ゆっくり休むといい」

「……ありがとう、ビャク姉」

アカリはそう言うと、風呂に入ってくると言って、着替えを持って部屋を出ていった。その際に久しぶりに背中を流してやろうかと提案したが、気まずそうな表情で断られてしまった。……まぁ、今は一人になりたい気分なのだろう。それなら無理強いするのは良くない。

「……難儀なものだ」

助けになってやりたいのに、私は妹の不安を消し去ってやることが出来ない。こういう時、どうしても自分の無力さを痛感してしまう。

(……やはり、私は()()()()()()()()()()……コウ)

私は脱力して、布団に倒れ込んだ。柔らかいはずの布団が、とても硬く感じた。


「……ふう……さっぱりした」

風呂を出て寝間着に着替えた僕は、洗面所で髪を乾かしていた。いつもならビャク姉が髪の手入れをしてくれるのだが、今は僕一人なので自分でやっている。……うん、ビャク姉のありがたさが分かった。

「……やっぱりビャク姉と一緒に入ればよかったかなぁ……」

一人でボソリと呟く。……ついさっき、ビャク姉に一緒に風呂に入らないかと提案されたんだけど、僕はその提案を取り下げた。……ほら、ビャク姉ってスタイルいいからさ。風呂に入ってる間、自分の身体と比較しちゃうんだよね……ビャク姉には悪いけど、精神衛生上良くないのでお断りしました。世の中って理不尽だよね。……閑話休題。

「コウ君……」

髪を乾かしていると、ふと、コウ君の事が頭に浮かんだ。……先程見た、コウ君が()()()()()()()だ。思い出すだけでも心が痛い。

「……どうせなら、昔のコウ君を見せて欲しかったな……」

よりにもよって、久しぶりに見たコウ君の姿が殺された時の姿なんて……見ていて胸が張り裂けてしまいそうだった。あの青い勾玉は二度と触りたくない。そもそもなんであんなものがここにあったんだろう。あの勾玉さえなければ、こんな気持ちには――

「……ん?」

ふと、髪を乾かすのを止め、僕は洗面所の端っこに目を向けた。何かが光ったように見えたからだ。……目を凝らして見てみると、青い光を放つ何かが――

「って、青い勾玉!?なんでこんな所に!?」

――それは青い勾玉だった。さっきまで頭の中で考えていたものが、すぐ目の前にあった。勾玉は光を放ちながら、洗面所の端を青く照らしている。

「……これ、触ったらまずいよね」

この勾玉に見せられた辛い記憶が頭を過ぎる。僕は警戒心を向けながら、じりじりと後ずさる。……どうしよう、ビャク姉を呼んでくるべきだろうか。それとも、見なかったことにして去るか……うう、僕は一体どうすれば……

≪……誰か、そこにいるのですか?≫

「わひゃあ!?」

頭をぐるぐると悩ませていると、何処かから声が聞こえてきた。僕は奇声を上げて驚き、思わずその場に蹲る。

「だ、だだだだ誰!?」

≪……!その声……!もしかして……≫

僕が蹲っていると、また声が聞こえてきた。男とも女ともとれるような、中性的な声だ。一体何が起こっているんだろう。心霊現象かな……?そういうのは無理なんだけど……!

「ぼ、僕は食べても美味しくないよ!だから襲ってこないで!」

≪……アカリ、姉さん?≫

「僕はただの弟大好きなお姉ちゃんで、人畜無害なんです……!だからどうか見逃して……え?」

今、なんか聞き覚えのある言葉が聞こえた気がする。……というかこの声は、一体どこから聞こえているのかな……?恐る恐る顔を上げて、辺りを見渡してみる。すると、先程より強い光を放っている勾玉が目に入った。まさか、あの勾玉から?

「というか今、アカリ姉さんって……」

≪やっぱりアカリ姉さんですよね!?そこにいるのですか!?≫

「ひいい!?やっぱり勾玉から聞こえてる!?」

僕は勾玉から距離を取り、脱衣所の扉を背にしてへたり込んだ。すると、勾玉の声がどこか焦ったようなものになった。

≪落ち着いてください!お化けじゃありません!俺です!俺ですよ姉さん!≫

いきなりオレオレ詐欺のような事を言ってくる勾玉。僕は恐怖でどうにかなりそうになりながらも、首を横に振った。

「し、知らないもん!勾玉の知り合いなんて僕にはいないもん!」

≪俺は()()なんです!どうか話を聞いてください、()()()!≫

「そんな事言われても、僕は話なんて…………ん?」

今、この勾玉なんて言った?


「……なるほど、事情は分かった」

私の言葉に、アカリは安心したように息を吐いた。――アカリが風呂を出るのを部屋で待っていると、突然アカリが部屋に転がり込んできた。慌てるアカリに何があったのかと説明を求めると、アカリは手に持っている青い勾玉――それについて説明してきた。

「洗面所にあったこの勾玉が喋って、自分の事を()()だと言っていた……ということでいいんだな?」

「そうだよビャク姉。僕がコウ君の事で嘘を言うとでも?」

そう言ってアカリは青い勾玉を渡してきた。半ば思考が追いついていない私は、手に乗せた勾玉をジロジロと眺める。……なるほど、前見た勾玉にそっくりだ。しかし、本当にこれがコウなのか……?私は少し疑いながらも、勾玉に声を掛けてみる。

「……コウ、そこにいるのか?」

≪……?ビャクヤ姉さん……?ビャクヤ姉さんですか!?はい、ここにいますよ!≫

「……!?」

本当に勾玉から声が聞こえてきた。しかも、コウの声だ。大切な弟の声を忘れるわけがない。……だが、そうだったのかと素直に信じられる程、私は子供ではなかった。こんな現実離れした出来事があるはずがない。だから私は、勾玉にこう言った。

「……本物のコウなら、私達しか知らないことを知っているはずだ。……例えば、私の食の好みとかな」

少し意地の悪い質問かもしれない。しかし私は、友人や知人にその手の話をしたことがない。知っているとすれば、私の家族くらいだ。本物のコウなら簡単に答えられるはずだ。……私の質問を聞くと、勾玉は少し間を置いてから口――実際に口はないのだが――を開いた。

≪……食の好み、ですか。確かビャクヤ姉さんは、汁物や煮物が好きでしたね。味噌汁や筑前煮が特に好きだと言っていました≫

「……!正解だ。なら、アカリの好物ならどうだ?」

≪アカリ姉さんは、唐揚げやハンバーグなどの肉料理が好きですね。それと、甘い物に目がありません≫

「……正解だ」

スラスラと答えられ、私は言葉を失った。……まさか本当に、この勾玉はコウなのか?いや、まだ完全には信用出来ない。この青い勾玉は、どうもきな臭い感じがするのだ。

「ビャク姉、これで分かったでしょ?この勾玉はコウ君なんだよ。僕も同じような質問したんだけど、全部完璧に答えてくれるんだよ!」

「……そうだな。この勾玉はコウだ」

私は手に勾玉を乗せながらそう言った。アカリは笑顔になり、勾玉を私の手から自分の手のひらに乗せた。

「ふふっ、じゃあコウ君、僕とお話しよー!」

≪はい、アカリ姉さん≫

「……すまないが、私は風呂に入ってくる」

「あ、オッケー。ビャク姉方向音痴だし、迷わないように気をつけてねー」

「ああ、ありがとう」

私はアカリに礼を告げると、そのまま部屋を出る。その際に少し力が入り、私は眉間にしわを寄せた。

(……あの勾玉は警戒しなければならない。だが、アカリはどうやらあの勾玉を信じ切ってるみたいだな……()()()()()()()()()()())

――もう、()()()()()()()()()()。私はそう決意し、拳を握りしめた。






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