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私が書いた別のシリーズを読んでくださった方はお久しぶりです!読んでくださりありがとうございました!
天性の飽き性が発動し、もう続きを書くかもわからない状況ですがネタが降ってきたので一本短編を書いてみました。短編なのでこちらは完結しております。とある作品に多大な影響を受けているような節もありますが、楽しんでいただけましたら幸いです。ちなみにバッドエンドです。誤字があれば想像力で補っていただくようお願いします。
―貴方は、「大事な選択」に後悔したことはありますか?
貴方の人生を大きく変えてしまうような、そんな大事な選択。下手をすれば犯罪者にもなりかねないが、もしかしたら有名人となって世界さえも大きく変えてしまうかもしれない、貴方の今後に関わる大事な大事な選択。
それを「やり直したい」と思ったことはありますか?
あの日から私の世界は大きく変わってしまった。このフレーズ、物語ではよく聞くでしょう?
例えば、「友人を失った主人公がそれをバネにして立ち上がり、強大な力を手にして幸せな人生を送る」
…とかね?
何はともあれ、私は重大なミスを犯してしまった。自分がまるで物語の主人公でもあるかのように勘違いしてしまった。
感情は時に理性に殺されてしまうというのに。
ああ、どんなミスをしたのかって?
…うん、そうだね。もうこの際言ってしまおう。そうだ、言ってしまって君たちにはこの物語の結末を見届けてもらおう。
私は、一人大事な友人を殺さなかった。
**********
自分で言うのも何だが、私は努力の天才だった。
「目標に向かって頑張る」ということが大の得意だった私は、中学生になるまでは皆の称賛の対象となるような人物だった。
そう、中学生になるまでは。
中学生になってからの初めての定期テストで、私は半年だけ通っていた塾で受けたテストと同じように「1位を取る」ことを目標に設定し、猛勉強した。
周囲の期待を背負い、ちやほやされていた弊害で私は妙に自信家だった。努力に関しては誰にも負けない。だから、勉強も頑張れば余裕で学年1位をとることができる。
当時の私は本気でそう思っていた。それなのに。
廊下に張り出された中間考査の結果の1位の欄。そこに自身の名前はなく、代わりに刻まれていたのは知らないやつの名前だった。
「4組 安倍 秀華 500点」
私がいた中学では5科目100点満点の定期考査が実施されていた。しかも、私学であるが故に難易度が高く設定されていた。つまり、
「あの難しいテストで、満点…?」
彼女は本物の天才だった。それが私の自尊心、またはプライドというものが打ち砕かれた瞬間であった。
…そしてそれが今までチヤホヤされながら生きてきた私の、最初で最後のライバルが誕生した瞬間でもあった。
私はまだ見ぬライバルに対抗心を燃やしながらすぐに4組の教室へ赴いた。
教室へ入った瞬間、すぐに彼女がそうだということがわかった。天才型の人気者特有の周囲に囲まれながらもどこか一線を画すようなそんな雰囲気。
その中心にいた、ふわふわした感じの、いかにもちやほやされていそうな見た目の彼女に近づき私はこう言った。
「次の期末テストで、私と勝負しませんか?」
と。周囲にいた取り巻きたちは、勝てるわけがないだの、さっさと自分の教室に戻れだの、やたらうるさかったが、彼女は見ず知らずの私にニコリと満面の笑みを向けた。
「いいですね!楽しそう!」
私は思った。コイツ、舐めているのか。と。
私が真剣に勝負をしようと言うのにゲームでもするかのように笑う彼女に無性に腹が立ったのでそれを糧に一生懸命勉強した。
期末考査は、1位を取った。私の自尊心が回復していくような晴れやかな気持ちであった。
ただし、彼女はそれが面白くなかったようで勉強したのだろう、二学期の中関考査は彼女が1位を取った。私は2位だった。その差、僅か1点。
それからというもの、彼女と私は共に切磋琢磨し合うライバルとなった。ただし、彼女は勉強を少しでもすれば満点を取れるような人物ではあったが。
2人でお互いを高め合い、同じ高校を志望し、合格点数まで争っていてもはや彼女を親友と呼ぶことができるまでに親しくなった中学最後で高校最初の春休み。
私にとって人生の転機となる事件は起こった。
人生で初めて喧嘩をしてしまってやっとの思いで仲直りができた次の日、彼女はいた。
宿題に誘おうと向かった彼女の家。鍵が空いているのに不審に思いいつもは明るく出迎えてくれるはずの彼女の両親の姿もなく、私はとてつもなく嫌な予感がしていた。
そしてとうとう、見つけてしまった。所々で面影はあるものの、変わり果てたゾンビのような姿でいる「彼女だったもの」を。
「お”のた”いせえた”ぬ!もろ”し!」
「何!?何を言ってるの?その姿は…?ねえ!意味がわからない…」
「わ”…わたじ…をこ”ろして」
「っ!」
…そんなこと、できるはずがない。彼女は私の親友となった。なってしまったから。
そうだ、物語の主人公ならここで助ける方法を探したりするよね…?ころしたりなんか、しないよね?
それなら、なってやろうじゃないか。物語の主人公に。
そう思ったのが、私の人生最大の過ちだった。あの時の私は大きな過ちを犯してしまった。アレはあそこで殺しておくべきだったのだ。
だって、そうしていれば…
今頃世界はゾンビパニックになんて、ならなかったはずだもの。
治療薬を開発するための研究に没頭し、時に戦いはや3年。成人と呼ばれるようになるはずだった私の人生は、私の手で終わりを迎えようとしている。
もう諦めはついた。これ以上は私の手には負えない。たまたま生き残ってしまっただけの私の主人公面した物語も、もう終わらせよう…
そう思って私は手に持ったナイフで自分の胸を貫いた――
**********
「満瑠?おーい、どうしたの?ねえ!みーちーるー!」
親友の声が私を呼んでいる。あぁ、私だけは地獄にでも行くものだと思っていたのに、天国に来ちゃったのか…
いや、それとも秀華ともども地獄行きだったとか?
ありえる、あいつは親しまれやすい反面、恨みを買いやすいから。私の恨みもたくさん売ってやったし。
不意に、ビンタされた。
「って何すんのよ!」
「あー、やっと起きた。折角仲直りできたからゲームで勝負しようって持ちかけたのはそっちじゃない」
ぷくっと頬を膨らませて腹の立つ顔をした私の親友の手は温かく、人間味のあるものだった。
「あぁ、ああ」
やっと会えた。思いがあふれてくる。あの時、殺さなくてごめんね、私、研究頑張ったけどダメだったよ、それから…
「大丈夫なの?涙、え、なんで泣いてるの?まぁ今日くらいは私の胸を貸したげるよ。
―――もうすぐ高校生になるんだし。」
「え?」
「え?」
そんなまさか。私は天国に来たはずなんだ。いやこの際地獄でもいい。
いいんだけど、まさかここは…
「きょうって3月30日…?」
「そうだけど?何か腑抜けた顔してるよ?大丈夫?」
その後、頭の整理をするために一度家に戻ると、身に覚えのあるナイフが私を待ち構えていて、私は所謂「時間遡行」とやらをしたことを悟った。
あんなのただの夢物語だと思っていたのだけれど。
**********
…まただ。また、彼女を救えなかった。
ここが過去の世界ということを理解した私は、彼女のゾンビ化を阻止すべく彼女の家に泊めてもらった。
しかし、朝起きる頃には彼女はゾンビとなって今度はリビングの辺りをうろついていた。
昨日は私がデザートに台所を借りてクッキーを作っていて、彼女はそれはもうたくさん食べていた。あんな華奢な体のどこに巨大な胃袋が隠されているのだろう。なぜだか悔しい気持ちになった。
それでのどが渇いて水でも飲もうとしていたのだろう。彼女の足元には割れたコップが落ちていた。
私を見た彼女が一言。
「お”のた”いせえた”ぬ!もろ”し!」
あぁ、まただ。また、あの台詞。流石に2回目だもん。わかるよ、理解してる。
そうだ、今度こそ彼女の言う通りにしてあげようじゃあないか。今度こそ、
「うん、殺してあげる」
私はすぐさまキッチンへ行き包丁を手に取ると、彼女の心臓にソレを突き刺そうとした。
未来の世界で何万体ものゾンビを屠ってきた私は、倒す方法を熟知していた…
…
……
………
はずだったのに。
体が思い通りに動かない。私の傷が増えていく。やはり私に彼女を殺すことなんて、できるわけがなかったのだ。まってて、必ず、今度こそは――――
そう想いを込めて、私は自分の心臓に向かってナイフを突き刺した。
**********
ループして何回目になるのだろう。
ゾンビから治す方法は過去に散々探して手掛かりすら見つからなかったし、それは私や秀華の実力を遥かに上回る天才の研究者の論文を読んでも同じ答えだった。
人間の姿の状態なら何か手掛かりが見つからないかと思ったが、それについても調査はなかなかに難航していた。
え?人間の秀華を殺せって?
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。面白い冗談を言うじゃないか。
自分だって気づいてる。これはもはや秀華に対する執着だ。
だからこそ、私に彼女は殺せないし、見ず知らずの人に頼むことすら躊躇われる。
そんなもはや何回目のループになるかもわからない時、彼女が夢にまで出てきた。
「もう。これで何回目だと思ってるの?」
さあ、私には見当も付かないよ。
「答えはわかってるくせに。何で行動に移さないのかしら。
…いや、本当の答えは知らないものね。可哀想に。」
は?人間のお前を殺す以外に解決する方法があったとでも?ていうか可哀想とか言うなし。誰のために果てしのないループを繰り返してると思ってるの?
「いえ、正確にはあった、とでも言うべきかしら。貴方が下手に能力を持ってしまったが故にこうなったの。
貴方のことだから少し調べたら分かるんじゃない?信頼しているからね、私のライバル
蘆屋満瑠ちゃん?」
秀華が調べろと言うくらいなら過去の文献なのだろうと思いこのループではゾンビパニックが起きた後に出掛けることにした。
行き先を決めあぐねていると、ふと『播磨』の文字が目についたのでそこを目指した。
そして各地の図書館を転々とし、なけなしの資料を漁っていると、ある人物が浮かび上がった。
「………あしや、どうまん?」
蘆屋道満。安倍晴明公のライバルにして、法師陰陽師。一般的には悪役として認知されているものの、兵庫にある播磨では人格者として伝わり知られている。呪術に秀でており――――
―呪術。もしかして、これか?
その時、特に証拠もある訳でも無かったはずなのに、何故か「呪術」という言葉でストンと腑に落ちた感覚がした。これか、これなのか。
その感覚はいつしか確信に変わっていった。
だとすれば。ほんとうに、そんなものが存在するというのなら…
夢の中の秀華の言葉が蘇る。
『貴方が下手に才能を持ったせいで…』
あぁ…
「…わたしのせいで、わたしがあのとき、『呪ってやる』って…」
そう、喧嘩をしたあの3月30日の朝、私は彼女にはっきり呪いの言葉を言ったじゃないか。
『人を呪うことだけはするものじゃないよ。』優しい祖母が珍しく強く私に言った言葉だった。不慮の事故で亡くなったのだが、ふとその言葉が蘇ってきた。
祖母は、知っていたのか。
あぁ、あぁ。何だか何もかもがどうでも良くなってきた。今までの私の努力は全て無駄だったとでも言うのか。
私は今まで、本当にループすべきあの地点にはいなかったのか。常に空振りしている状態だったのか。
…叶うのなら、戻りたい。あの、「呪いの言葉」を放つ前の私に、戻りたいよ。ねぇ、おねがい。
そう思いながら私は流れるようにナイフを手に取り、心の臓に突き刺した。
もう、あのひに戻ることはなかった。




