第三話 出会い
目が覚めると辺り一面が、草木に覆われていた。
ゆっくりと立ち上がり、周囲の様子を確認するが、想像していたよりも視界が高く感じる。
心のどこかで、転生するということは赤ちゃんだったり、まだ背の低い子供として生まれ変わるのだろうと、思い込んでしまっていたけれど……。
「……どう見ても、中学生くらいだよね」
目で見える範囲で身体を見てみると、どうやらある程度は成長した姿にしてくれたらしい。
けどそれなら、胸が大きくて、声も大人らしい、魅力的な姿にしてほしかった。
これではまるで、鈴がなるかのように澄んだ可愛らしい声に、ぺったんこの胸、そしてすらっと伸びた美しい手足、まるで精巧に作られたお人形さんみたいじゃない。
「そんなことより、これからどうしよう……」
こういうのって、物語のお約束的に考えて、転生先に家が建っていて暫くはそこで暮らせるようになっていたり、何らかの生活系チート能力で悠々自適な生活が送れるものではないのか。
それとも……私がただ、勝手に高い理想を抱いていただけ?もしそうだったら、少しだけ残念だけど……。
(……天神さんと魔神さんの願いを聞いて世界を救ったら、私の願いを叶えてくれるって約束してくれたし、こんな状況だけどまずはできる事からやってみようかな)
そう思いながら移動を始めて、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
お腹が空腹を伝えるかのように、体内でゴロゴロと鳴りだしてしまい、周囲には誰もいないと分かっていても、少しだけ恥ずかしい気持ちになる。
「お腹空いたぁ……もう、近くに森のレストランとか、ファンタジーのお約束はないの?」
空腹を紛わせるために、独り言を呟いては見るけれど、どんなに歩けど周囲の景色に変化はない。
(もしかして……転生してすぐに、空腹で死んでしまうんじゃないか、そういうのはやだなぁ)
体が上げる悲鳴に耐えかねてその場に座り込むと、遠くからガサガザと何かが近づいて来る。
もしかして野生動物、それとも……ファンタジー世界あるあるのモンスターだろうか。
どちらにしろ捕まえて食べられるのなら、血抜きの仕方とかわからないから美味しくないとは思うけど、食べられるのならそれでいい。
(……けど武器もないし、本当に殺して食べれるの?)
そう思って身構えた瞬間、姿を現した二つの瞳と目が合う。
鍛え抜かれた体に、腰のベルトに差した二振りの剣、これは動物は動物でも……。
「……あんた、こんなところで何やってんだ?」
人間だ、しかも一人。
さすがにいくらお腹が空いているとはいえ、人を食べようという狂気に走った行動を起こす気は無い。
もしかしたら、今の私は天魔という人ならざるものだから、意外と食べてみたら美味しく感じるかもしれないけど、倫理観的にアウトな気がする。
「……あ、あの、わた、し」
「あ?」
とりあえずはこちらから、友好的な態度で話しかけようとしてみたけれど、相手の顔を見て話そうとしたら、緊張してまともに会話をすることができない。
一応……こういう時のお約束として、ファンタジー世界の主人公が始めに合う相手は友好的なことが多いけど、初対面でバッドコミュニケーションな私に、それは適用するのだろうか。
「み、道にま、まよっ——」
何かの本で、緊張してまともに会話ができない時は、くちびるや、ネクタイを見て話してみると、良い感じに話せるようになるってあった気がする。
けど、この人はネクタイなんてしてないし……しょうがないから、胸でも見て……。
(……すっごい良い胸筋してる、細マッチョだ)
(なんだこいつ、変な視線を感じるな……)
ダメだ、彼の胸を見ていると、なんだかいけないことをしているような気持になって、逆に緊張する。
前世では21歳、今世では生まれたての0歳児、頭脳は大人で身体は少女、今までまともに男性と話したことなんてなかったから、どう話せばいいのかわからない。
あの……天神さんと魔神さん、もしかして人選びというか、魂選びを間違えたのかもしれませんよ?本当に私で良かったのかな。
「……あぁ、もしかして盗賊にでも襲われたのか?それでここまで逃げて来たとか?」
「え?あ、う……うん、そうなの、私は、旅の者で、それで……逃げたら、まよ、迷っちゃって……」
挙動不審な態度を取っていた私の姿を見た彼が、何かを察したかのような顔をすると、申し訳なさそうに口を開く。
「へぇ、そりゃまぁ大変だったな……あんた、凄い別嬪さんだし、逃げられなかったらひでぇことになってたぞ?」
ひでぇことになっていたって言われても、仮に本当に盗賊に会って捕まっていたら、何をされるのかが想像ができない。
けど、なんだか嫌な予感がして、無意識に胸元に手を持っていき祈るかのように合わせてしまう。
(盗賊に襲われたにしては、目だった汚れが一つもない綺麗な服、それにこの仕草、どう見ても訳ありだな……)
そんな私の姿を見て何かを言いたげな表情を浮かべると、腰のベルトに差した剣を鞘ごと外して地面に置き、敵意が無いと伝えるかのように両手を広げて近づいて来る。
「まぁ、なんだ?こんなところで一人にするのも、今夜の夢見が悪くなりそうだし、あんたさえよかったら、俺の暮らしている集落にでも来るか?」
「……い、いいんですか?」
「別にいいぜ?何なら、色々と大変だったろうし、落ち着くまで暫く滞在してけよ」
「あ、あり、ありがとうございます!」
不器用な笑みを浮かべる彼の提案を聞いて、何か食べれるかもしれないという喜びのあまり、思わず手を握ってしまうけれど、私の手とは違い、ごつごつとした逞しい感触に気恥ずかしさを覚えて、咄嗟に手を放してしまうのだった。




