第二話 天魔
『よろしい、では続きを話させていただくのですが、私たちで箱庭の調査をすることにしたのですが、差し向けたものたちはいつまで経っても帰ってこず——』
『不審に思い、我らが直接確認しに行ったところ、戦争を起こしてやがる……』
……ちょっと、話が飛躍しすぎていてよくわからない。
説明をしてくれるなら、私にも分かるようにもっと分かりやすく話して欲しいなぁって……思うんだけどダメなのかな。
『まぁ、今は分からなくても、箱庭に行けば分かるようになるだろうから、今はとりあえず話を最期まで聞いてくれ』
心の中の声を勝手に読んで反応されても困る。
『しかもな?我とこやつの世界の民と、箱庭の住民、どちらかを皆殺しにすれば、繋がった世界を元に戻してやると、神々に言われたらしくてな、そのせいで三つ巴の戦争だ……ったく、気に入らねぇ』
『……箱庭の神々は、戦争ごっこを楽しんでいるのです、無差別に他の世界を巻き込んで……』
つまり……この話を聞いた私に、何をどうしろというのだろうか。
『どうして我の世界が、奴らのおもちゃにされなければならぬっ!なぜ、民が犠牲にならなければならないのだっ!』
『落ち着いてください』
『……すまぬ、つい感情的になってしまった、それでだな……このくだらぬ遊戯を止めるために、我とこやつの遺伝子を受け入れる事ができる魂を探しておったのだ』
『その過程で、見つけたのが……あなたという、私たちとは違う世界の魂、藤咲志織さん、あなたです』
あなたですって言われて、はいそうですかって返事ができる人は、まずいないと思う。
死んで異世界転生をするっていうのは、昨今のラノベとかで良くある展開だけど、実際に目の当たりにすると、ここまで反応に困るだなんて思わなかった。
『反応にお困りになられるのも承知の上です。それに……私たちは争いを止めたい、終わらせたいと思っていますが、それをあなたに強制することはできません……ただ』
ただ……?もしかして私の意志を尊重してくれるってことだろうか。
もしそうだというのなら、次こそは、次の人生こそは誰よりも幸せになりたい。
『転生した先の箱庭で、あなたが何を見てどう感じ、どのように動くかはあなた次第です、もし……その過程で、私たちを助けてもらえるのでしたら、よろしくお願いいたします』
仮に私が争いと止めるのはいいけれど、タダ働きをして、そのまま終わって用済みって言われたら、それはそれで嫌だ。
だから……。
「あの……仮になんですけど、私が戦争を止めることができたら、一つだけ願いを叶えて貰うことってできますか?」
『私たちにできることなら……』
「なら、私はその、死ぬ前は苦しくて辛い思いをすることが多かったから……世界を救うことができたなら、今度こそ幸せになりたいっ!誰よりも、誰が見てもうらやむほどに幸せにっ!」
『あぁ……その幸せが、どのようなものかは我は分からぬが、とりあえずは理解した、戦争を止めることができたら、その願いを叶えてやろう』
こんどこそ幸せになれるというのなら、束の間の不自由くらいは苦にならない……と思う。
『ありがとうございます……では、あなたには、転生に向けて新たな名前を授けます』
「……名前?藤咲志織じゃだめなの?」
『はい、新たに名前を授けることで、肉体、精神共に転生するとお考えください』
「ちょっとよくわからないけど……なんとなく、そういうもの?」
『……そのような認識でよろしいかと、では、あなたはこれからシャルネ、【シャルネ・ヘイルーン】として生きることになります』
シャルネ・ヘイルーン、これが……私の新しい名前。
『そして転生先の種族だが、我が世界の種族は魔族、こやつのは天族と呼ばわれておる』
『…………私たちの種族の間で、今のところ合いの子が生まれたことはないのですが、もし箱庭で種族を問われるようなことがありましたら【天魔】、天と魔の合いの子として、お名乗りください』
【天魔】の【シャルネ・ヘイルーン】、私の新しい人生、そして希望にあふれる新しい生命。
そう思うと、早く転生したい、あ……けど、まだ私の親になる二人の名前をまだ聞いてない。
「あの……ところで、お二人の名前を聞いても良いですか?」
『……名乗ってやりたいところだが、我とこやつにはこれといって、決まった名前が無いのだ』
『……一応私は、天族たちから、天神と呼ばれ創造神として崇められていますね』
『我は魔神と呼ばれることが多いな、魔族の世界を生み出した創造神として崇めるものは、そう呼ぶぞ』
お父様が【魔神】で、お母様が【天神】……それに天魔って、なんだか私は転生先だと【魔王】になりそうな気がするのは気のせいかな。
『まず……転生した後のことですが、命、意思、破壊、死、氷、無の力を授け創造した私の直属の配下、六大天使が箱庭で争っている天族をまとめているので、困ったことがあったら彼らをお便りください』
「……我の下には、グロウフェレス、ケイスニルという優秀な僕がいるからな、頼れば力になってくれるはずだ」
……そこまで言うなら、とりあえず頼らせてもらおうかな。
「ありがとうございます……後はもう特に聞くことはなさそうだから、大丈夫です」
『ふふ、わかりました、ではこれから、あなたの魂を新たな肉体へと転生させますので、ゆっくり目を閉じて身を任せてください』
言われた通りに目を閉じて、身体の力を抜くとゆっくりと意識が遠のいて、どこかへと引っ張られていく感覚におそわれる。
転生した先でなにがあるのか、これからどんなことが起きるのか、不安に思うことが沢山あるけれど、全てが終わったあとに幸せになれるというのなら、楽しみでしょうがない。
そんな思いを胸に抱きながら、薄れゆく意思の中で、どうか誰よりも幸せになれますようにと祈りながら、意識を手放した。




