第一話 転生
——幼い頃から自由がなかったから、自由が欲しかった。
小さい頃から常に食べる物がに飢え続けて来たから、一度でもお腹がいっぱいになるまで、ご飯を食べてみたいと思った。
「……ふふ」
——物心ついた頃から、ずっと独りぼっちだったから、大人になったら友達が欲しいと願った。
けど、大人になってから、周りに奪われてばかりで、何も手元に残らなかったから、来世では幸せになりたいと思った。
「……体の感覚が無くなって来た、ほんっと……なぁんでこんな事しちゃんだろ、私」
私はきっと、このまま死ぬのだろう。
大人になって、自由が手に入ったと思ったら、夢も希望もなくて……理不尽な思いをすることばかり、常に周りに馬鹿にされて騙されて、嫌な事を押し付けられる。
そして自分の時間さえも奪われて、気付いたらすり減った心は、食事を口に運んでも味が分からなくなって、何をしても楽しいとすら思わなくなった。
気付いたらどうして生きているのかすら分からなくなってしまった人生の最期を誰かの為に使う事ができたのなら、この人生も捨てたものではなかったのかもしれない。
「ほーんと、路地裏に女の子が男に連れ込まれるのを、偶々見つけちゃったからって咄嗟に助けに入るだなんて……」
けど……もし、生きていられたのなら、これから良い事が沢山あって、幸せになれる未来もそこにあったのかもしれない。
そう思うとやっぱり、見ず知らずの誰かの為に死ぬなんて嫌だなぁ、どうせなら最期まで、自分の為に生きて、自分の為に死にたかった。
「目が合ったら、ナイフを私に刺して逃げちゃうんだもん、女の子も悲鳴を上げながらどっかに行っちゃうし……」
誰に聞かせるわけでもなく、一人でそんな後悔の念を言葉にしているうちに、血を流し過ぎたせいか、身体がどんどん冷たくなっていく感覚に襲われて、意識が朦朧としてくるきた。
多分、ここまでの独り言も喋っていると思い込んでいるだけで、実際は既にまともに言葉にできていないのかもしれない。
……あぁ、もったいない、本当にもったいない、小さい頃は、大人になって自由になれたら、白馬の王子様が迎えに来てくれて、幸せになれると夢見ていたけど、現実はそんなに優しくなかったし、何よりも幸せになんてなれなかった。
(……なんかもう、疲れた)
まぶたを動かす事すらしんどくなってきた、それに……何だかどんどん気持ちよくなってきた気がする。
そういえば、昔テレビで見たような気がする、人は死ぬ前に脳から麻薬みたいなのが出て、凄い気持ちよくなれるって……良かった、最後の最期に救いはあったみたい。
『——目覚めなさい、彷徨える魂よ』
『馬鹿者、そのような言い方で目を覚ます奴がいると思うか?こうやって起こすのだ!おいっ!起きろ小娘っ!』
うるさい、人がやっと短い人生の中で、やっと見つけた幸福感に満たされて、天に召されようとしているのに、無理やり起こそうとしないで欲しい。
『起きろ小娘っ!魂だけの状態で、我が儘を言うでない!』
『あなたの起こし方が乱暴なせいじゃないですか?やっぱり優しく起こすべきですよ』
本当にうるさいから、いい加減に止めて欲しい。
「何なのもう!起こそうとしないでよ!って……なにこれぇ!?」
重いまぶたに力を開けて、力いっぱいに声を荒げると目の前には、黄金色に輝く髪に、まるでお人形さんのように精巧で美しい容姿の純白の翼を生やした女性と、悪魔のような翼を生やした銀髪の美少年が宙に浮いていた。
これってもしかして、今の私って天使と悪魔に死後の世界で話しかけられているってこと?まぁ、死んでしまった以上はしょうがないとは思う。
けど……
「……これってもしかして私?」
何故か目の前に姿見が置かれていて、目の前に映っている姿に戸惑いを覚える。
黒かったはずの髪は、そこにいる天使様のように黄金色に輝く美しい髪に変わっていた。
それだけじゃない、背中には純白の天使の翼と漆黒の悪魔の翼が生えているし、顔付きもお人形さんのように可愛らしい。
けど……何処か、全体的に作り物めいているというか、まるで別々の生き物を強引に一つに繋ぎ合わせたような、そんな不快感を感じて……何だか気持ち悪い。
目の前にいるのは私だと確かに感じるのに、私が私ではない、その感覚に思わず吐き出しそうになる。
『ほぅ、違和感に気付けるのか、さすがは我らが選んだ魂だ』
「……選んだ?それにあなた達はいったい誰なの?」
『それに関してはわたくしが説明致します、理解は難しいとは思いますが……わたくし達の世界とあなたの世界が、神々によって作られた遊技場……いえ、箱庭の世界に繋がってしまったのです』
ちょっとまって、いきなり別の世界?箱庭に繋がったって言われても意味が分からない。
『……その世界は、六つの世界が切り取られて余りにも強引な方法で繋ぎあわされて作られた神々の遊技場で、栄花と呼ばれる国を中心に星を描くかのように、五つの国があり、異なる知的生命体同士が争い続けているという、恐ろしい世界でして……』
恐ろしいも何も、話の内容が難し過ぎて良く分からない。
『無理に異なる世界を繋ぎ合わせたせいで、時空も不安定を極めておりまして……ある時、私達の世界が繋がってしまったのです……ここまでは分かりますか?』
「……なんとなく?」
もしかして、この人は説明が上手くないのかもしれない。
結局のところ、死んだ筈の私はどうしてここにいて、どうしてこんな可愛らしい少女の姿になっているのか。
その答えを知るまでに大分時間が掛かりそうな気がして、ちょっとだけ退屈な気持ちになった。




