第三話 記憶の欠片
気づいたら俺は、毎日のようにそこにいた。
その時間がいつの間にか当たり前になっていった。
「おっす」
「お、やっほー」
別段言葉にしなくても、お互いがそこにいる理由を説明する必要はなかった。
いつもみたいに学校のこと、
体育で跳び箱9段飛べたことや
先生がうるさいとか、給食が微妙だったとか。
そいつは、いつも楽しそうにウンウンと聞いていた
「へぇ!」
「そんなルールがあるんだねぇ」
「学校って難しいんだなぁ…」
まるで、世界を初めて知るみたいに。
「なあ」
「なに〜?」
「……お前はさ、ホントになーんにも覚えてないの?」
ふと、理由もなくそんなことを聞いた。
いや…単にもっと知りたかったのかもしれない。
「うーん……そうだなぁ…」
そいつは少し考えてから、首を傾げる。
「思い出そうとするとね、ぼんやりするんだ」
「ぼんやり?」
「そう。なんかね、考えると…考えられない感じ」
俺には想像できなかった。
考えただけで、背中がちょっと冷えた。
「……怖くない?」
「ん〜、前はね、怖いって感覚もなかったけど、今はなんか怖いって感覚がわかるから怖い」
俺のせいかな…?
仲良くなったと思ってたけど…
胸の奥が、ざわっとした。
「でも君と話すようになってからかなぁ」
「……俺?」
指を差された気がして、視線を逸らす。
「なんで俺なんだよ」
「あ、怒らないで!別に嫌な意味じゃないよ!」
「じゃあ…何さ」
「ケイは、ケイの考えてることハッキリ言えるから、なんかゾワゾワするんだ」
「はは、何だよゾワゾワって」
褒めてるのか責めてるのか、
こいつにそんなつもりはないだろうけど、
内心少しションモリしていた。
「僕は、空っぽだ」
一瞬、言葉に詰まった。
「……」
「でもね」
風が吹いて、ブランコが揺れる
放課後なのに、この公園には俺たち二人しかいない。
そいつは、ゆっくりと話し出した。
「ケイの話を聞いてるとさ、気持ちが満たされるんだ」
「そっか」
そいつの頭が、ほんの一瞬だけ、揺れた。
「思い出す…」
「ん?」
そして…どこか寂しげな様子をしながら
「思い出したら、僕は、どうなるんだろうね。」
「良いことなんじゃないのか?」
それなのに全く嬉しく思えなかった。
「ケイ」
「……なんだよ」
「僕はどうすれば良いのかな。」
「……知らねぇよ」
俺は頭をフル回転させて、言葉を絞り出そうとするが出てこなかった。
結局言えたのは一言だけ
「お前が自分で決めるしか…ないんじゃねぇの?」
”どうするかは、お前が決めなさい”
…それは、俺の親父の言葉だった。
立ち上がる。
「また、明日」
「……うん」
振り返った時、いつもより少し遠くに感じた。
そいつは、ポツンと一人、まるで何かを思い起こしているように見えた。
いつでも会える、この時はそう思っていた…




