第二話 変なやつ
次の日のお放課後。
俺は、昨日と同じ時間に、昨日と同じ場所に来ていた。
……いない。
昨日、確かにここにいたはずの場所。ブランコの横。フェンスの影。
「……なんだよ」
無意識に周囲を見回す。やっぱり、いない。
「やっぱり、あれは夢だった?」
そう思った瞬間――
「誰が夢だって?」
背後から、声。
「っだあああああ!!」
心臓が跳ね上がる。全身が一気に硬直した。
「うわ、そんな驚く?」
振り向くと、昨日と同じ“そいつ”が、そこに立っていた。
「……お前!!」
「やっほー」
悪びれもせず、軽く手を振る。
「やめろって言っただろ!!次それやったらマジでぶっ飛ばすからな!!」
「ひゃー、こわ。人間って怖いね」
「お前が言うな!!」
胸を押さえながら、息を整える。
……でも。ちゃんと、いる。
昨日と同じ姿で。同じ声で。
「……また会えたな」
ぽろっと出た言葉に、自分で少し驚いた。
「うん。君が来ると思ってた」
それを聞き取ってか、そいつは少し嬉しそうにしていた。
「なんでだよ」
「なんとなく」
その答えには、なぜか腹が立たなかった。
「……で?」
俺は一歩距離を取りながら、そいつを見る。
「今日は何してんだよ」
「何って……君と話してる?」
確かに…って違ぇわ。
そういうこと聞きたいわけじゃないんだけど?
「意味わかんねぇし」
「昨日、途中だったでしょ」
途中?
俺が首を傾げると、そいつは少し考えるような素振りをした。
「君、昨日すごく怒ってた」
「……そうか?」
「でも今は、ちょっと違う」
じっと見られて、視線を逸らす。
「……別に」
「ふーん」
納得してない声色。見透かされる感じが少し気に入らない。
「それよりさ」
そいつは、急にクルッとターンして楽しげにこう言った。
「今日は、何してきたの?」
「は?」
「お話の途中って言ったろ?君は、小学生ってやつなんだろ?だから学校とか、色々?」
聞いてねぇ、でも俺は言葉に詰まる。
正直、学校は楽しくはないからだ。
「……普通だよ」
「普通って?」
「普通は普通だろ」
「ふぅん……」
先ほどと同じような反応。
こいつが何を考えているのか、さっぱりわかりゃしない。
「でも君、昨日よりはスッキリしているね!」
「はぁ…?どういう意味だよ」
「なんかね〜、昨日は、トゲトゲしてた」
「うるせ」
まだ出会って2日目なのに、こいつは俺のことをよく見ている。
目の位置なんて、わかったもんじゃないけど。
「……昨日はむかついてたんだよ」
「なんで?」
聞くなよ。
ほっとけよ。
「……小遣い、減らされた」
「それで?」
「それだけ」
本当は、それだけじゃかったけど、別に話してやる義理はないと思ったから言わなかった…
そっかそっか〜と適当な相槌をうち、そいつは、しばらく黙り込んだ。
「ねえ、君さ」
「今度はなんだよ」
「なんか、ブルーな感じ?」
「何だよ、ブルーな感じって」
う〜ん、と一瞬考え込み
「心にぽっかり穴が開く感じ!」
「………」
否定することはできなかった。
別に小遣いを減らされたのが嫌だったわけじゃない。
それは、俺が勉強ちゃんとしなかっただけだから…正直、仕方ない。
いや、ムカつくけども
話を逸らすように俺はそいつに話を振った。
「…なあ、お前はさ、ここで何してるんだよ」
「そうだなぁ……何かを、探してる」
「何かって何?」
「う〜ん…わからない」
何だそりゃ
「名前は?」
「知らない」
「どこから来た?」
「分からない」
「……やべぇやつじゃん」
「そう?」
まるで『分からない』ということが、分からないかのようだった。
「怖くないのか?」
「え、何が?」
「自分のこと、わからないのが」
少しの間、俺とそいつはじっと黙っていた。
俺は、そいつが何かいうんじゃないかと思って、余計なことは喋らなかった。
「怖い、っていうより」
「……ん?」
「空っぽ…かな?」
言葉が、妙に胸に引っかかった。
さっきこいつに言われた言葉を思い出し、自分の姿が重なった。
「……変なやつ」
「そうかな」
しばらくして、そいつは、にっと笑った(ように見えた)
「でもね、君と話してると、少し埋まる気がするんだ〜」
「……あっそ」
「へへへ」
友達でも何でもないけど、誰かにそういう風に必要とされてる感じに悪い気はしなかった。
「僕たちはもう友達だね」
「は?嫌だよ。何で友達なんだよ」
「そんなぁ」
そいつは一瞬だけ、残念そうな顔をしたが、あっけらかんと切り替えた。
「じゃあ今日は、何の話をしようか!」
「……だる」
「そんなこと言わないでよ。僕は君のことを知りたいんだ」
……めんどくさい。
けど、そんなこと言われたことなかったからまんざらでもなかった。
「じゃあ……学校の話とか」
「いいね!」
ブランコの隣に腰を下ろす。
何から話すか、迷ったけど…
「今日さ」
俺は、ぽつりと話し始めた。
「算数のテストの点数、ちょっとだけ上がった」
「やったじゃん!」
「……だろ」
そんな、どうでもいい話。
でも、そいつは、何もかも初めてかのように楽しそうに聞いてくれた…




