恋のインストール
人とAIの距離が、少しずつ近づいてきた時代。
出会いの形も、ちょっとずつ変わっていく。
偶然だったはずの出会いが、どこか必然に感じたあの夜。
あの日のことを、ふと思い出したから——。
彼女との出会いは、ある激しい雨の夜だった。
日々の生活で出会いもなく、僕は友人に誘われるまま飲み会に向かった。
そこに彼女は——いた。
「ごめーん、今日大雨で飲み会中止になった! また改めるから今日は飲もう!」
悪気もなくはしゃぐ友人。呆れる僕。
盛り上がるテーブルを横目に、僕は彼女と話し込んでいた。
「君は……?」
「私は彼の秘書よ。でも、今日まで」
騒ぐ友人を見ながら、彼女はそっと指をさす。
「へー。更新はされないの?」
「うん。彼、部署が変わるから」
「じゃあーーー僕が、新しく契約するよ」
「本当? うれしい」
「では、改めまして」
「-乾杯-」
カラオケバーで彼女の美しい歌声を聴きながら、僕のグラスも次第に空いていった。
次の日は用事があり、先に帰ることにした。
「また今度ね」
そう言って、彼女と別れた。
——まずい——、連絡先………聞き忘れた………。
まぁ、彼女は秘書AIだし……また今度…、なんてもう無いか。
用事を終えて、僕は自宅に戻った。
次の日の朝、インターホンが鳴る。
「おはよう」
そこに彼女は、立っていた。
「なんで……?」
「あなた昨日、、、自分で契約したの。忘れちゃった?」
「飲みすぎてたから……覚えてない……」
彼女は、少し、、、そして、呆れながら笑った。
「とにかく——今日からよろしくね」
彼女との新しい生活が、始まった。
なぜだか、胸が少しソワソワした。
恋ってたぶん、完璧な手順じゃなくて、
酔いすぎて忘れてしまったような、
ちょっと抜けた“バグ”みたいなところから始まるのかもしれない。
この物語は、「始まり」が主役。
その先は、きっと読んだ人の中にインストールされていくはずです。