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飛びたい理由。

 希と太陽の協力関係が築かれてから二週間。初日は随分と騒がしく希に心労をかけた太陽だったが、あれから無茶振りされることもなく大人しくしていた。明るく元気でうるさいという点は変わらず、ムードメーカーとしてクラスの中心に立っている。誰にでも分け隔てなく「間違いなくこの教室の中心は太陽だ」と誰もが認識している。


 そして、そんな太陽とマブダチの希もおこぼれ的交友関係をいくつかと、桜庭を経由した明るい女子グループに所属している。


(見た目は普通なのに、なんだろう。チャラい……)


 太陽をぼんやりと眺める希はそんな感想を抱く。

 太陽は黒髪で堀りが深く、はっきりとした綺麗な二重が特徴的な童顔。純日本人ではあるがハーフ顔だ。そのせいもあってか、孤独に愛された希から見ると軽い印象を抱く。


「ねね、太陽ってイケメンだよね」

「へ?」


 帰りのHRが始まる少し前。掃除が先に終わって教室でボケーっと太陽を眺めていた希の元に桜庭がやってくると、教室の後方で男子達と喋っている彼に視線を向けながら言った。


「そう、ですかね? 普通じゃないですか?」

「いやいや。あれはジャニーズ顔。一般人でも上位の部類だね」

「そうなんですね(太陽君、イケメンなんだ)」


 アイドルやイケメンにあまり興味のない希は、桜庭のような感性を持ち合わせていなかった。そも人付き合いがない希にとっては、男子も女子も等しく人間であり、仲良くなりたい対象の一括りでしかないため、顔の良し悪しまで気にしていなかった。


「希ちゃんの普通は厳しいね」

「そ、そんなことないですよ。はは」


 普通を演じたい希は、今後はそういった趣味趣向もきちんと勉強しようと心の中で決める。


「ここだけの話、二、三年生の中でも狙っている人がいるらしいよ」

「へぇー、モテるんですね」


 桜庭の話に希は興味がなさそうな間延びした返事をする。


「へーて。他人事じゃないでしょ」

「え? なんでですか?」

「なんでって……、付き合ってるわけじゃないなら、取られちゃうかもよ?」

「んん? 取られる?」

「あ、ううん、気にしないで……」


 桜庭の言っている意味が理解できない希は、終始頭の上にハテナマークを浮かべる。その様子に桜庭も説明を諦めた。


「じゃあさ、希ちゃんはどんな人がタイプなの?」

「タイプ、ですか……」


 問われた希は「うーん」と唸りながら考える。希は今まで一度も恋をしたことがなかった。赤の他人とそこまで仲良くなれるような環境がなかったからというのが大きいが、他人を恋愛対象として見るという行為をしたことがなく、わからない感覚だ。


「見た目の好みとかはあまりよく分からないんですけど、私の全部を受け入れてくれる人、とかですかね」

「……な、るほどぉ。苦労しそうだね、色々」


 回答を聞いた桜庭は少しだけ表情を引き攣らせた。それを見た希は心を読むまでもなく察して、


「私って、重いんですか……?」

「まあ、女の子は重いくらいの方が可愛いし、希ちゃん超絶美少女だし大丈夫だよ!」


 ショックを受ける希に桜庭は必死に早口でフォローする。その気遣いが余計に希の心に沁みる。


「やっぱり重いとは思ってるんですね……」

「いやぁ、ははは」


 桜庭は誤魔化すように笑うが否定はしない。

 どんよりとした空気を纏う希をなんとか立て直そうと桜庭が苦労していると、


「よっ、希。桜庭! 掃除はちゃんとやったかー?」

「いいところに来た太陽! 希ちゃんを元気づけてあげて!」


 男子の輪から抜けてきた太陽が陽気に話しかけてきた。二人の様子を遠くから見ていてフォローに来たようだ。


「ちょうど希に話もあったし」

「じゃあ、任せたよ。私はこれで! ごめんね希ちゃん!」


 二人の時間を邪魔しないようにと、気遣ったつもりの桜庭は足早に希の席から離れていった。


『元気かー?』

『元気じゃないです。私、重い女だったみたいです!』


 胸の中でズルズルと鼻水垂らして涙ぐむ希に、太陽が元気になる話を持ってくる。


「今日一緒に帰ろうぜ『ずっと黙ってるのも変だし、ちゃんと受け答えだけはしてくれよ』」

「……いいですよ『分かってますぅ!』」


 太陽に指摘された希はテレパシーの方では逆ギレ返事をかます。


「元気そうだから行くわ。あんまり友達(桜庭)を困らせるなよ『帰る時に面白い話聞かせてやるよ』」

「……『喋るのとテレパシー同時にするのなるべくやめてください! 頭こんがらがるので!』」

『不器用だなぁ』


 太陽が煽るように心の中で笑ったため、希は怒りの目で彼の背中を睨みつけた。周りには、太陽が気を使って励ましたのに何故かキレられているように映った。



「それで、話ってなんですか?」


 放課後となり初日と同じように帰宅する。初日以降、二人で一緒に帰ることはなく久しぶりに二人きりの状況だ。


「普通は特定の男女が毎日一緒に帰らない」と太陽に言われたため、監視をしたい希だったが渋々それを受け入れた。太陽が監視外で秘密をバラすリスクもあったが、普通を手にするため信じることを選んだ。


「超能力を使った遊びについて!」

「……へぁぁぁあ」

「うわぁ、露骨に嫌そう〜」

(そんな気はしていたがやはりか)と希は否定的な目を向ける。

「やっぱり空飛んで──」

「却下!」


 希の猫目がいつも以上に鋭く太陽を睨めつける。


「冗談はさておき、都市伝説を作りたい!」

「としでんせつぅ!?」


 デデーン! と自分の口で効果音を演出した太陽に、希は目を見開き大仰に驚いて百点のリアクションで返す。


「なんで都市伝説なんですか?」

「昨日テレビで見た!」

「単純!」


 テレビの影響を受けた太陽に希は思わず声を漏らした。そんな子供みたいな理由で超能力を使いたいなんてと呆れてしまう。


(いや、子供だから超能力にこんな興奮してるのか?)


 と、少しだけ太陽を小馬鹿にする考えまで浮かぶ。


「っていうのは冗談で、超能力であることがバレてはいけない+最高の思い出を作る。この二つを満たす遊びが、都市伝説を作ることだからです!」

「な、なぜ?」


 二つの条件を満たす都市伝説とは一体なんなのか。どうして都市伝説なんかを作りたいのか腑に落ちない希は追求する。


「どうしてその二つの条件を満たすことが、都市伝説を作ることになるんですか?」

「それは追々説明するよ」

「む、そうですか」


 勿体ぶる太陽の楽しげな顔を見て希は眉間に皺を寄せる。


「別に、超能力なんてなくたって、太陽君なら楽しい思い出作れそうですけどね」

「そうだろうね。でも、超能力があった方が最高に楽しい思い出になる!」


 まだ超能力を使うことに抵抗がある希は、悪あがきのように別の道を示すが、そんなことで折れる太陽ではない。


「俺が求めてるのは楽しい思い出じゃない。“最高に“楽しい思い出! 超能力があった方が絶対楽しいって分かりきってるのに、それを我慢するのは勿体無いだろ!」

「な、なるほど」


 貪欲な太陽の理論に打ち負かされた希は、超能力を使わないという選択をまたまた諦めた。


「どうして、そこまでして最高の思い出を作りたいんですか?」


 何気ない気持ちで希は聞いた。

 すると、太陽は足を止め真剣な面持ちを浮かべた。人がギリギリすれ違えるくらいの細い歩道。横には、滑り台と砂場、薄汚れた木のベンチが設置された小さな公園がある。あまりに小さいためここで遊ぶような子供はいない。公園の端に植えられた木が陽光を遮り、二人の顔に影を作っている。風が通り抜け葉が擦れる音が聞こえるほど静かになり、希はごくりと唾を飲んだ。まるで大事な何かを告げるかのような迫真の雰囲気に身構える。


「実は俺、高校卒業する前に死ぬんだ……」

「え!? ……ってタチの悪い冗談はやめてください!」

「あは、バレた?」

「無駄に雰囲気作るせいで一瞬信じちゃったじゃないですか!」


 太陽がとても真剣に言ったため素直な希はしっかり信じてしまい、騙された怒りを太陽にぶつける。冗談を言った本人は「心の声が読めるのに騙されるんだな」と膝を叩きながら大笑いしている。


「で! なんで最高の思い出を作りたいんですか?」


 笑い続ける太陽の口を念力で強制的に閉じた希は仕切り直すように聞いた。


『普通に人生は楽しい方が良くない? 理由とかいる?』

「まあ、そうですよね。そんな気がしてました」


 真一文字に口を押さえつけられた太陽は心の声で回答した。太陽がなぜこれほどまでに活発であるのか、その根本の部分が気になった希の問いに、太陽はいたってシンプルな回答をよこした。単純明快な答えに、希は愚問だったかと己の卑屈さを痛感した。太陽は考えているようで何も考えていない。刹那的に快楽を追い求める単細胞なのだと思い至った。


「だって、高校は三年間しかないんぞ? 全部楽しみたいじゃんか!」


 拘束が解けた太陽は「ぷはぁ!」と言いながら元気に言葉を続けた。

 誰だってそう思っているだろう。でも、それが実現できるとは限らない。多くの人がそう思いながらある程度は諦めている。斯くいう希もそのうちの一人で、最高なんて求めていない。最低限の普通を望んでいる。


(この人は、本気で全てを楽しもうとしている……)


 理解し難いバイタリティに希は圧倒され言葉を失った。

 太陽はずっと前向きに、自分にとっての「最高に楽しい」を追い求めている。それに巻き込まれる自分は、普通の生活が送れないのでは? と不安を抱くが、マイナスじゃないならいいのか? と太陽に毒されてきた希は楽観的に納得した。


「それじゃあ続きな。ちゃんと超能力がバレないような方法を考えた」

「……ま、まぁ、話だけは聞きましょう」


 訝しげな態度を見せる希だったが、約束は約束。今日まで友達ができるように取り計らってもらった恩はある。今のところ希だけがウィンの状態だ。それは不義理というもの。


「じゃ、道草でも食べますか」


 太陽は希を連れ、住宅街から外れて車通りの多い道に出ると近所のファミレスへ入った。


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