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闖入者。

「太陽!」

「んな?」


 と、背後から呼ばれる声に二人は同じタイミングで振り返った。廊下を走ってくるのは一人の男子生徒だ。耳のあたりで切り揃えられたサラサラのブロンドヘアを靡かせる高身長イケメン。人呼んで、杜都の王子。


「僕はロシア人の母と日本人の父を持つハーフ! 気軽にプリンスと呼んでくれ。マドモアゼル」

「あの、同じクラスなので知ってます」

「あとマドモアゼルはフランス語な? そこはロシア語で言えよ」


 プリンスを自称する男子は二人からツッコまれるが、気にした様子もなく前髪を払って爽やかスマイルを浮かべている。


 プリンスこと鳴子・アレクサンドル。クラスメイトからは王子、プリンス、またはアレクと呼ばれることが多い。王子は本人がそう呼んでもらいたくて広めており、クラスメイトたちも面白がって王子と呼んでいる。なお、太陽からはナルシストを略して「ナルシ」と呼ばれている。


 超自信家だが、そうなるのも頷けるほどのイケメンで、身長も高く足も長い。喋らなければ憂いを漂わせる儚いイケメンだ。

 鳴子はナルシストだが、それが玉に瑕にならないほどの男。むしろナルシストなくらいがちょうどよく、ルックスに見合った王子様的発言で女子人気が高い。その分、男子からは嫉妬され敵を作ることが多いが。


「なんか用か?」

「教室が大変なんだ。すぐ来てくれ」

「お、おう。大変なのに冗談挟んだのかよ」

「ん?」


 急用のようだが、鳴子はいつもの調子で自己紹介を挟んできた。太陽はそれをボケだと思ったが、鳴子はいたって真面目な表情で頭に「?」を浮かべていた。

 鳴子と共に、三人で急いで教室へと向かう。どんな用事かと道中に尋ねるが、「行けば分かる」とだけ返された。

 そして、三人が教室の前までやってくると、何やら人だかりができていた。


「ようやく来たようだな! 晴山太陽!」


 太陽が姿を現すなり、人だかりの中心にいる男子生徒が指を刺しながら叫んだ。黒縁眼鏡をかけた長身のインテリ系イケメンだ。


「誰あれ? 何の用?」


 太陽は近くにいたクラスメイトを捕まえて事態の把握を図る。野次馬も集まっており、只事ではないのは明白だ。


「太陽君と伊能さんに用があるって。出せって言って聞かなくて、二人を呼んでこなければここでチョークの粉をばら撒くぞって脅されたんだ」

「……えぇ、何それこわぁい」


 叫んでいた男子の方を見ると確かに何かを持っている。よくよく見れば、黒板の下に付いているチョークボックスだ。


「で、お前は誰だ?」


 太陽は野次馬を避けて、男子が待ち構えている中心部へと躍り出る。


「俺は一年四組、須賀川闘士! 姫を愛し姫に愛されるために生きる男!」

「……は?」


 ポカンと口を開けて呆気に取られる太陽。須賀川は太陽へと指を向けたまま眼鏡の位置をすちゃりと直した。


「それで、何の用事?」

「貴様に決闘を申し込みに来た!」

「「決闘?」」


 隣にいる希とも声が重なり二人の頭に疑問が浮かぶ。一体何のために、と。


「俺と、姫をかけて勝負しろ!」

「姫? 一体誰のこと……」


 須賀川からの要望に、太陽は明後日の方を向いてすっとぼける。


「しらばっくれるな! 貴様の隣にいる伊能希様こそが、姫だろうが!」

「…………ふぁっ!?『私のことですか!?』」

『そうだよ』


 太陽はやっぱりか。と知っていた様子で隣を見やる。姫と呼ばれているのが自分だと気づいた希は驚いた表情をし、自身を指差しながら須賀川を見つめている。


「俺は知っている。貴様が姫を独占しているせいで多くの男子が嫉妬に狂い、行き場のない情欲を毎夜涙と共にゴミ箱へと捨てていることを!」

「何の話だよ……」

「姫を賭けて俺と勝負しろ!」


 須賀川は今にも血涙を流しそうなほど悔しげな目で、拳を握りしめている。


「賭けるも何も、俺と希はただの友達だし、お前らも仲良くなったらいいじゃ──」

「きしぇぇぇぇえええいっ! 一般の男が姫に近づくなど万死に値する! たとえ法が許してもこの俺が許さん!」

「えぇ……」


 厄介な希教に絡まれた太陽は困惑し、『どうすればいいんだよ』と心の内で不満を漏らす。


「希を賭けるって、どうするんだ?」

「……」


 太陽が希を下の名前で呼ぶ度に須賀川の顔が憎しみで歪んでいく。唇を噛み締め血が垂れている様に、太陽だけでなく周りの野次馬たちもドン引きする。


「俺が勝ったら貴様は姫から離れるんだ。姫とは関わらないことを約束してもらう」

「ふむふむ。む?」

「姫は崇高な存在! 貴様如きの凡弱がそばにいていい存在ではないんだ!」

「……あらまぁ」

「煽ってんのか!」


 主婦のように頬に手を当てる太陽を見て須賀川はこめかみに青筋を浮かべる。


「なんで希なんだ? っていうか姫ってなんだよ」

「姫は姫だ。美しいからこそ、ふさわしくない人間がそばにいるのが許せない」

「確かに可愛いけど、こいつ超コミュ障だぞ?」

「そこがいいんだろうがぁ!」

『あの、褒めるか貶すかどっちかにしてもらえますか!?』


 大勢に囲まれて喋れず黙り込んでいた希は、太陽の飴と鞭にテレパシーで苦言を呈した。


「まあ、言いたいことは分かった」

「ならよかった。じゃあ──」

「俺が勝ったら、お前は何を失う? お前は何を賭けられる?」


 面白いことが向こうからやってきてくれたと、嬉しそうに笑う太陽は強気の目で須賀川を睨め付けた。


「大事な大事な友達を失うかもしれないんだ。お前にも、それなりのものを賭けてもらうぞ?」

「……くっ」

「え、考えてなかったの!? あちゃー」


 苦虫でも噛み潰したかのような須賀川の反応に、太陽は純粋に驚いておでこを抑えた。


「じゃあ、俺が勝ったら、お前も俺の友達になること」

「なにっ!? 誰が貴様なんかと……」


 須賀川は心の底から嫌そうな顔を浮かべ、おまけに気持ち悪そうにえずく。


「えぇ、そんなに嫌なの……」


 これほど拒絶されるとは思っていなかった太陽は思いの外ショックを受けた。須賀川にとっては失うモノなどない勝負だと言うのに。


「勝負は成立でいいか?」

「……いいだろう」


 だが、最終的に須賀川は太陽の提案に納得した。


「一応希の意見も聞いておこう。いいか?」

「へっ!? わ、わたわた、私は、別にどちらでも……」

「姫! ありがとうございます!」

「ヒェッ!? ど、どういたしまして?」


 バッ! と深く頭を下げる須賀川にびびる希は、半歩ほど太陽に近寄りその背中に隠れるように身を隠す。それを見た須賀川は「晴山コロス」と小さな声で呪詛のように呟いた。


「あ、ちなみに勝負内容はこっちが決める。ちょっと考えるから、放課後にまた来て」

「ふん、いいだろう」


 納得した須賀川は足音を鳴らしながら、野次馬の間を割るようにズカズカと帰っていった。事態が収束した頃に騒ぎを聞きつけた三組の担任がやってきたが、太陽は面倒ごとを避けるようにそそくさとその場から退散した。



 須賀川から勝負を持ちかけられた日の放課後。三組の教室にて三人は向かい合って席についた。教室の中には三組の生徒が数人残っているが、部活もあるため昼休みに比べて野次馬は少ない。


「晴山、俺は貴様に勝ち、姫を呪縛から救い出してみせる」

「やってみろ」


 魔王に挑む勇者の面持ちで対面する須賀川に、太陽も正面から睨み返す。そして、昼休みから考えていた勝負の内容を発表する。


「一ヶ月後の六月下旬に行われる体育祭。クラス順位が高い方の勝ち」

「何だと!? 個人では勝てないからクラスを巻き込んでの勝負にするつもりか!?」


 太陽が選んだ勝負内容に納得がいかない須賀川は憤慨し立ち上がる。


「好きなように捉えてくれていい。でも、俺はこの勝負じゃなきゃやらない」

「ふんっ。やはり矮小で卑怯な男だ。姫のそばに仕える器じゃないな」


 憤る須賀川だったが、どんな勝負でも負けるつもりがないのか、勝負内容を承諾し約束が交わされた。友とプライドを賭けた勝負が始まる。


「ところで、なんで希なんだ?」

「ふん、愚問を」


 腕を組んだ須賀川は嘲るように笑うが、表情は何やら嬉しそうににやけている。


「姫への愛を語るには、ほんの少しだけ俺の話をする必要がある──」

「勝手に回想入ろうとするな! 簡潔に話せ!」

「俺が教室を出ると」

「おい! 止まれ! 理由だけでいいんだよ──」


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