実は超能力者?
「作戦成功!」
学校へ戻ってくると、持ち出した机と椅子をを返しつつ太陽は喜んだ。普通の人生では到底体験できない悪戯に、言い知れない胸の高鳴りを感じていた。
「本当に、できましたね」
「うまくいくかドキドキしたよ。失敗したらどうしようかと思ったわ」
テンションが上がりっぱなしの太陽は教室をうろうろと落ち着かない様子だ。
「だが! これで終わりじゃないぞ!」
「え?」
「目的は坂先輩の願いを叶えること。二人の身辺調査をして、全く接点がないことに気がついた。そのためにこの作戦を決行したわけだが、坂先輩が告白しないと始まらない!」
「た、確かに」
最終目標をすっかり忘れていた希は、そこで坂の顔を思い出して納得した。
「浜辺先輩が坂先輩のことを好きだったら手っ取り早かったんだけどなぁ」
太陽の言うとおりであればイージーゲームだっただろう。浜辺に勇気を出させれば一発で問題が解決する。
「まあ、それじゃあつまらないけど」
と太陽は楽しげに笑った。そして、興奮冷めやらぬままインスタのアカウントで坂への返信文を作る。
「仲良くなってからなんて考えずに告白してみなさい。躊躇っているうちに他の男性に取られてしまいますよ」と。
「これで告白してくれるかな?」
「……どうですかね」
希は太陽と頭を突き合わせてスマホを覗き込む。そのまましばらく考え込んでいた太陽だが、意を決して送信した。
こうして都市伝説を作るという太陽の夢が、スタートラインへと至った。坂が付き合えたかの結果を二人は確かめなかったが、DMが追加で数件届くようになった。その中には、
『あの日の占いのおかげで楽しいです。ありがとうございました』
というものも入っていた。
太陽と共に占い屋作戦を実行した日の夜。自室の姿見で嬉しそうにファッションショーを行っていた希は、ふとあることに気がついた。
「すごい、サイズがぴったりなんだよなぁ」
太陽が試着室に持ってきた三着とも、多少の誤差はあれど全て希に合うものが選ばれていた。
「そういえば先輩のスリーサイズなんてどこで──はっ!?」
希の脳内で、全てが線で繋がる音がした。
事件の真相に辿り着いた探偵の如く深刻な表情を浮かべる希は、大慌てで太陽に電話をかける。
『どうした?』
「太陽君! なんで先輩のスリーサイズ知ってるんですか!?」
開口一番に疑問をぶつけた希は、自分の体も守るように周囲を警戒する。実は太陽も超能力者で、自分を欺いているのではないかと希の背中に悪寒が走る。
『男の秘密だ』
「なぁっ!?」
まるで希の考えを肯定するかのような反応に目をまん丸にしてガタガタと体を震わせる。
「じゃあ、なんで私にサイズぴったりの服を持ってこられたんですか!? まさか、私のスリーサイズも把握してるんじゃないですか!? やっぱり試着室で私の着替え覗いてたんじゃないですか!?」
『はあ!? そんわけ──』
「太陽君も超能力が使えるですよね!? こうしている今も、私が狼狽えている姿を見てほくそ笑んでいるんでしょ!?」
『だから、』
「変態変態変態! この変態! 初めて会った時も押し倒されてどさくさに紛れて胸触ってきたし、」
『あれはわざとじゃ、』
「正体を明かしください変態!」
太陽完全否定パニックに陥った希は、なんとか言い訳を挟もうとする彼の声を遮り、勢いのまま蔑みの弾幕を浴びせる。
『話聞けやアホォ!』
「ヒェッ!?」
突如電話から流れた怒号に、小心者の希はびくりと肩を跳ね動きと口を止めた。電話の向こうでは太陽がため息を漏らしている。
『服にはS、M、Lとかって大雑把にサイズがあるんだよ! 体の大きさ見たら大体どのサイズかは、普通の人なら分かるの!』
「そ、そうなんですか?」
『そうだよ』
太陽の説明を受けた希は服のタグを見て「あー」と納得したような声を出す。
「ん? じゃあ先輩のスリーサイズは?」
『……勘のいいガキは嫌いだよ』
捨て台詞を吐いた太陽が逃げるように電話を切った。電話越しでは心の声が聞こえないため、希は悔しそうにギリギリと拳を握りしめる。
「次に会ったら絶対に聞き出してやる!」




