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的中率100%。

「作戦の肝はお前だ。大丈夫か?」

「本当にあんな作戦でうまく行くんですか?」

「大丈夫だ」


 先日伝えられた策を思い出した希は、緊張で体が強張っていた。太陽の言う通り、作戦の成否は希の演技力にかかっているからだ。


 希が緊張に飲まれそうになる中、浜辺が姿を現したことで作戦開始となった。

 本日の浜辺の予定。十二時駅集合。友人二名と共に昼食に行き、ゲームセンターかカラオケ。十六時より映画鑑賞。その後解散。


 駅前は人の往来が多く危険なため、希と太陽は透明化はせずに浜辺たちの後をつけていく。

 浜辺は友人と合流後、Mドナルドにて入っていった。滞在するか分からないため、太陽たちは浜辺が席に着いたのを見届けてから行動に移した。


 まずは人目につかない細く薄暗い路地に入り、そのまま透明化し二人で学校へと瞬間移動。学校にはあらかじめ用意しておいた黒いローブを希が着て、さらには顔が見えないように黒いベールを頭に着ける。


 太陽は黒で統一されたジャケットとスラックスで、金髪のカツラと色の濃いサングラスをかける。こうして面影がすっかりなくなった二人は、道具を持ち浜辺たちの元へと戻っていく。

 Mドナルドを出てゲーセンかカラオケに行く動線に、机と椅子を設置して浜辺が出てくるのを待つ。机の横では


「占い。初回無料」と書かれた紙を太陽が持って立っている。

『浜辺さんにだけ見えるようにすればいいんですよね?』

『そうだ。いけるか?』

『大丈夫だと思います』


 道の端で構える二人の姿は誰にも見えていない。透明化と合わせて人がぶつからないよう通りすがる人たちへ催眠をかけ二人を避けるようにする。見えていない人間を避けるようにはできないため、希たちが止まっている状況でしか使えない。


 二人は浜辺たちが店から出てくるのを固唾を飲んで見守る。この作戦は浜辺が占いを受けにくることが前提。太陽にしては消極的で受け身だが、浜辺の心を読まず彼女から自主的に彼氏または好きな人がいるかを教えてもらう方法で、他に良い案が思いつかずに日が迫ってしまったためこの策を実行することになった。


『出てきました!』


 希がテレパシーで太陽に合図を送り、二人の間に緊張が走る。Mドナルドを出た浜辺はまっすぐ二人がいる方向へと歩いてくる。


 希の催眠および透明化は浜辺と太陽には適用されていないため、三人だけは互いの姿を認識できている。この便利な機能を知った太陽は「普段の透明化の時から見えるようにしてくれよ」と不満を漏らしていた。希は見えない方が面白いという理由でそれを拒否した。


 浜辺だけには二人の姿が見えているが、太陽は通行人たちに向けても占い屋をアピールしつつ、自然な流れで浜辺の目に止まるように手に持った看板を見せる。が、

 浜辺は太陽の手元をチラリと一瞥するが、足を止めるには至らずそのまま行ってしまった。


「ねえねえ、あそこに変な占い屋さんがいたんだけど」

「え? どれ?」


 通り過ぎていった浜辺は、声が聞こえないくらいの距離で友人たちに占い屋の存在を告げた。しかし、友人が振り返って確認するも浜辺以外には見えていない。


「どこ?」

「え、あれだよあれ!」

「んん?」


 指を刺して教える浜辺だったが、結局うまく共有できずにそのまま去っていった。


『ダメじゃないですか。うまくいくんですかこれ……』


 太陽の作戦で浜辺の興味を引くことができず、希は少し不安げに気持ちを漏らした。


『まあ、この作戦の真価はまだまだこんなもんじゃないからな』


 オカルト好きな浜辺に合わせて立案された本作戦。大して「自分にだけ見える占い屋がいく先々に現れる!」である。


 一度で成功するなんて初めから思っていない太陽は次なる行動に移る。再度学校へ荷物を置きに戻り、透明化を解除し浜辺の後ろをつけていく。千里眼で見守るという方法もあるが、それでは会話が聞こえないためストーキングを継続。


 そして、浜辺が移動する先々で占い屋を展開するというのを繰り返し印象を植え付けていく。二度目の遭遇はカラオケから出てきた時、三度目は映画館から出てきた時。その全ての場所が別々である上に、自分にしか見えていないことを知った浜辺は、ようやくこの占い屋の異常性を理解した。


 興味と恐怖の間で気持ちが揺れていた浜辺は、駅で友人たちと別れた後に占い屋を見かけた場所を再び散策し出した。


『作戦成功だな』


 太陽の思惑通り浜辺が釣れたが、ここでは占い屋を開かない。


『どうするんですか? 折角興味を持ってるのに』


 浜辺を占うという体で情報を聞き出す。ということまでしか聞いていない希は動かない太陽に疑問を投げかける。


『浜辺先輩が諦めて電車に乗ったら、最寄駅の方で待ち伏せするぞ』


 ニヤリと悪童の笑みを浮かべた太陽は最後の演出に取り掛かる。


『今まで街で見かけてた占い屋が、突然家の近くの田舎に現れたら怖いだろ?』

(……私だったら嫌だ)


 嬉々として人を怖がらせようとする相棒に希は遠い目を向ける。

 浜辺が改札を通るところまで見届けて二人は瞬間移動で先回りした。そうして数十分ほど待ち、


「いらっしゃい」

「ひゃっ!?」


 駅から家に帰宅する途中の浜辺に、いきなり現れた太陽が声をかけた。驚いた浜辺は腰を抜かしてしまう。


「大丈夫ですか? どうぞこちらに」


 街灯の光に照らされた机と占い師。見渡す限り田んぼが広がる狭い一本道にポツリと存在している。浜辺が歩いていたつい先ほどまでは誰もいなかったはずのその場所に占い屋が突如現れた。


 椅子に座る占い師はローブとベールに包まれ、看板を持つ男は金髪でサングラスをかけ表情が読めない。怪しい要素しかないが、太陽にエスコートされた浜辺は抵抗する気力もなく席についた。


「初回無料なので、安心してくださいね」


 なんの施設もないただの道端に突如現れた占い屋。自分は夢を見ているのかと疑うが、そわりと背中を伝う冷や汗が現実であることを浜辺に告げる。


 太陽はにこやかな笑みを浮かべているが、得体の知れなさが余計に不気味さを醸し出している。


「この占い師、口下手ですけど腕は本物なんですよ。ね?」

「は、はぃ。浜辺さん、手を見せていただけますか?」

「なんで私の名前……」

「我々は占い師ですから」


 浜辺の顔から血の気が引いていくが、肩に乗せられた太陽の手が彼女をこの場に縫い付ける。逃げられないと悟った浜辺は、無事に帰れることを祈りながら二人を刺激しないよう素直に従った。


「み、見させていただきます」


 希は雰囲気を壊さないよう努めて暗く落ち着いた声音で話しかける。


「悪い気がついています。最近、誰かにつけられたり、ポルターガイストのようなもの、奇妙な声を聞いたりなどはございませんか?」

「えっ!? なんで分かるんですか!?」


 驚く浜辺だったが、罪悪感を覚えた希は(それ、私たちのせいなんです。すみません)と心中で謝罪した。


「占い師ですけど、霊的なものも見えるんです。払っておきますね」


 太陽が横から優しく浜辺の背中を撫でてやる。何も効果はないが、この作戦が成功すれば今日で浜辺へのストーキングが終わるため、怪奇現象は無くなるだろう。


「あなたに憑いていたものは生身の人間ではありません。が、ここは暗い道ですし、今後もお気をつけください」

「あ、ありがとうございます……」


 おずおずとお礼を言う浜辺に対し、占いの信憑性を増すためさらに畳み掛ける。


「浜辺まどかさん。杜都高校三年でバレー部。スリーサイズは上から98……98!?」

「なっ!? なんでそんなことまで!?」


 太陽から渡された浜辺のプロフィールを読み上げていた希と、当の本人が同時に驚愕の声を上げた。なお、浜辺のプロフィールは机の中に入っており、希は透視で確認している。

 浜辺は胸を隠すように体を抱いている。目の前にいる存在が怪奇であるが、恥ずかしそうに顔が紅潮している。


「き、兄弟がいて、猫も飼われてるんですね(98……)」


 気を取り直してプロフィールを読み上げていく希。これまでの尾行や江口からもらった情報を駆使して浜辺をこの異空間に順応させていく。そして、


「運気を上げる方法を教えてあげましょう」


 どこまで知られているのかと浜辺の顔から正気が抜け始めた頃、希は両手で浜辺の手を握って言った。


「それは、恋をすることです」

「恋、ですか?」

「今、好きな人はいますか?」

「いえ……」

「だから見えなかったんですね」


 浜辺からの発言で好きな人がいないことを特定した太陽は内心でガッツポーズをする。


「では、恋を見つけてください。近々告白される可能性があるでしょう。もし悪い人じゃなさそうであれば、付き合ってみるのもいいかもしれません」

「わ、わかりました……」


 芝居にも慣れてきた希の落ち着き払った声に納得して浜辺が頷いた。


「その人との仲が続かなかったとしても、恋をすることが重要なのです」


 太陽からのフォローもあり、これで下準備は全て整った。


「立てますか?」

「ありがとうございます」


 太陽が浜辺に手を貸してやり椅子から立たせる。


「目を瞑って深呼吸してください」


 太陽の指示に従い目を瞑る浜辺。


『今だ!』


 太陽からの合図で浜辺の宅前まで瞬間移動すると、「また会う日を楽しみにしております」と浜辺の耳元で告げ再びその場から瞬間移動で消え去った。


「嘘……」


 目を開けると二人の姿はなくいつの間にか家に着いている状況。夢のような現象を目撃した浜辺は呆然として家の前で立ち尽くした。


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