表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

超能力美少女をプロデュース!

 そして待ちに待った土曜日。太陽は待ち合わせの十五分前に到着し希が来るのを待っていた。

 主要駅の壁面の一部がステンドグラスになっている広場で、壁に背中を預けて改札口を眺める。二階の床から三階までが吹き抜けとなっているフロアで天井が高く、三階には新幹線口がある。キャリーケースを転がす人たちがエスカレーターから降りて来るが、当然希の姿はない。


 ステンドグラス前はここらで遊ぶ人たちの待ち合わせスポットだ。今日も多くの人が行き交い、正面では地元市が開かれている。


「お、お、おぉお待たせ、イタイタいたしましゅた!」

「おぉぉ………………いや、ダッサ!?」


 人混みから目を切りスマホを見ていた太陽は声をかけられた方へ反応し顔を上げた。そこに現れた希の姿を見て絶句し、次の瞬間には感じたことをストレートに言い放った。


 ピンク地によく分からないキャラクターがプリントされた、ヨレてる上にサイズがパツパツのTシャツ。下はデニムのショートパンツと、黒と赤のボーダー柄ニーハイソックス。今時、小学生でも見ないようなクソダサコーディネートに、太陽は顔を引き攣らせドン引きしている。


「く、くく、口に出さなくてもいいじゃないですかぁ!」

「いや、言わなかったらもっと傷つくだろ『心読めるんだから』」


 私服を馬鹿にされた希は赤面して太陽をポカポカと殴りつける。

 希は人付き合いが少なかったことと、服に対して全く興味がないせいで、まともな私服を持っていなかった。部屋着もラフなもので、出かける時も基本ジャージという生活をしていたため一切センスが磨かれなかった。結果、このような姿で現れることになってしまった。


「予定変更。服買いに行くぞ。アホみたいに目立って尾行どころじゃない」

「そ、そんなに酷いですか?」

「うーん、お前は顔が良いから辛うじて──いややっぱダサい! 三度見するレベルでダサい! 街中でセーラー服着てるおっさんくらい目を惹く」

「そんなにっ!?」


 自分がいかにダサいかを例えまで持ち出されて指摘された希は涙目で肩を落とす。

 本来の予定では、浜辺の最寄駅まで行きそこから尾行を開始するとなっていたが、希がこの姿のままでは尾行しようにも無理がある。


「コスプレして歩いているのとほぼ同じだ」

「まだ言います!? 死体撃ちしないでください……」


 グサグサと心を抉られる希はトボトボと太陽の後ろをついて行く。ここに来るまでは気にしていなかったものが、途端に恥ずかしく感じ顔を上げられない。長い髪を簾のようにして外界との関わりを断つ。今ほど、テレパシーのコントロールができてよかったと思ったことはない。


 前が見えていない希の手を引き、駅に隣接する商業施設内へと入っていく。中には全国チェーンの服屋が広く居を構えており、休日ということもあり人がたくさんいる。

 服屋なんかとは無縁の生活を送っていた希は初めて入るお店に緊張して震え上がった。自分がこんな綺麗でお洒落な空間にいても良いものかと。同時に、自身の姿を見下ろしていかにダサいかを思い知った。


「とりあえずこれとこれ。試着室で合わせてこい」

「へ?」


 適当な服を見繕った太陽は試着室まで希を連れて行きカーテンの中へと押し込んだ。


「着替え終わったら教えてー」


 服を抱えて呆然とする。試着室なんて初めて入った希は、購入前の服を着ても良いのかと戸惑いながらも袖に手を通した。羞恥心を脱ぎ捨て新たな自分へと変身を遂げる。


「で、できました」


 希は恐る恐るカーテンを開けた。


「おぉ。ダメだ」

「えぇ!?」


 登場するなり否定された希は「お前が選んだんだぞ!」と心の中で怒り反旗を翻す。太陽が持ってきたのはセットアップとなっているグレーのミニスカートと内側に着る白いシャツだ。だが、


「可愛くしすぎたな。逆に目立つ。元がいいからやっぱり少しダサいくらいがいいのか」

「なんでだろう。褒められてるはずなのに全然嬉しくないです」


 ぶつぶつと改善点を探す太陽は、試着室に望みを残して別の服を取りに行った。あまりに自分勝手な太陽に、もはや怒りすら通り越し呆れてしまう。


「はいこれ」


 太陽が次に選んできたのは、白いショートパンツに黒いキャミソールとメッシュニット。


「さっきのやつ買う? 買わないなら返してくるけど」

「か、買います」


 なんだかんだと不満を抱いている希だったが、太陽のセンスには素直に従うことにした。自分よりも遥かに人間社会に溶け込む能力が高く、その点に関しては信用が置ける。


(そういえば、太陽君の服もちゃんとしてたな)


 服に無頓着すぎる希は、今になって隣を歩いている太陽が普通であったことに気がつき、試着室に脱ぎ捨てられている過去の恥を見て悶絶する。


(私はなんて格好で……)


 忘れるように首を振って着替える。新しく持ってきた服も可愛らしく、希の体格にもピッタリあっている。


(可愛い……)

「そのダサい靴下は一回脱げよ」

「だ、ダサいダサい言い過ぎです!」


 カーテンの向こうから言われながら靴下を脱ぐ希。そうして出来上がった姿を見て、「ふへっ」と珍妙な笑い声を漏らした。


「鏡見てニヤけんな。終わったんなら出てこいよ」

「何覗いて──ない? まさか透視?」


 試着室の中を見透かされたような発言に希は後ろを振り返るが、当然そこに太陽はおらず、中の様子など見られていなかった。


「アホみたいな笑い声漏れてたんだよ」

「アホみたいぃ!? なんか今日ずっと辛辣じゃないですか!?」


 カーテンを勢いよく開けて太陽を睨みつけながら不満をこぼすが、太陽は「度肝を抜かれるほどダサかったから仕方ない」と特大の反撃をお見舞いし、希のメンタルを傷つけた。


「どうですか!? 靴下も脱ぎましたよ!」


 だが、見栄えのいい服に着替えた希は気持ちを切り替え、自信満々な表情でえっへんと胸を張る。


「うん完璧。さすが俺」


 しかし、太陽は彼女の姿が見えていないかのような遠い目をして自画自賛した。


「でも、まだだなぁ。街で見かけたら思わず二度見しちゃうくらいの美少女だなぁ」

「それの何がいけないんですか」

「あ、そうだ!」


 何が不満なのか、太陽は再び服を選びに走っていき、ものの数分で戻ってきた。希が手渡されたのは、先ほどまでの女の子らしい服装とは打って変わって、ストリート系のユニセックスなものだった。薄青色のワイドパンツに白いTシャツとキャップ。


 着替え終わった希を見て、太陽はようやく納得したように頷いた。


「これならなんとかなりそうだな」


 太陽の許可も出たため、希は最後のコーディネートを買うのだが、


「あの、最初の二着も欲しいです……」


 希は少し恥ずかしがりながら、今試着した服を大事そうに抱えている。


「買っちゃえよ」


 欲しいものはなんでも手に入れたくなる性分の太陽は、目の前に己の欲を抑えている人間を見つけ、悪魔の如く誘惑をする。


「一着買えるくらいのお金しか持ってきてないです……」

「しょうがない。これも俺のわがままだ。最後の一着は俺が買う」

「いいんですか!?」

「ただし! 二着目はお金を貸すだけだ。ちゃんと返せよ」

「ありがとうございます!」

「トイチな」

「へっ!?」


 太陽からお金を借りた希は、そのまま購入したストリート系コーデを着て店を出た。数十分前の自分とは見違えた姿にルンルン気分で外を歩く。キャップから生えたポニーテールが気分に合わせて楽しげに揺れている。


「希の格好がまともになったことだし、浜辺先輩が来るのを待とう」


 希の買い物を行っていたため電車内からの尾行ができなくなってしまったが、浜辺の予定はしっかりとリサーチ済みのため、二人は再びステンドグラス前にやってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ