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ぶつかる、超能力少女。

「はっ!?」

「え……!?」


 誰もいなかったはずの場所に、突如一人の女子生徒が現れた

 入学早々に遅刻してしまいそうになった晴山太陽は、ショートカットのために裏門をよじ登り飛び越えたところだった。そんな彼の目の前に同じ学校の生徒がどこからともなく現れた。


 太陽と同じ、濃いベージュ色のブレザーを着た女の子だ。白いシャツ、チェック柄のスカートにピカピカのローファー。同じ新入生だろう。太陽の見ている世界がスローモーションになり、少女とぶつかるまでの数秒が彼には異様に長く感じた。


 桜の花びらのように、毛先に向かうほど色が抜けて純白になっている、グラデーションのかかった薄桃色の長髪が春にぴったりで思わず見惚れる。

 少女が太陽の声に反応して振り返る。さらりと流れる滑らかな髪が彼女の動きに合わせて宙を舞い、まるで羽衣ように神秘的な光景。


「「うわああああっ!?」」


 二人は揃って声を上げた。先ほどまで感じていたスローモーションが嘘のように、太陽は勢いよく少女へとぶつかった。


「いてて……」


 咄嗟に避けようとした太陽だったが、うまくいかずに少女を押し倒してしまった。彼女が怪我をしないよう、なんとか頭だけは守るように抱き抱えられたが、下敷きになった少女は呻き声をあげている。

 そして、太陽が体を起こそうとすると右手に柔らかい感触が。


「あ、ごめん」

「どどどど、どこ触ってるんですか!?」

「わざとじゃないんだ!」


 胸を触られたことに気づいた少女は赤面しながら激しく動揺し出した。

 太陽は慌てて彼女の胸から手を離し体を起こした。いつまでも馬乗りになっているわけにもいかず、すぐにその場から飛び退る。


「いったあ……」


 顔が赤い少女は思い出したように餅をついたお尻を押さえ、ゆっくりと上体を起こす。


「大丈夫?」

「す、すみません」


 太陽は手を差し伸べ彼女を立たせた。せっかくの新しい制服が汚れてしまい、二人揃って土を払う。


「…………今、瞬間移動してきた?」

(み、見られてたぁ!?)


 太陽からの問いに、少女は白目を剥くかの勢いで目を見開き心の中で絶叫した。


(ていうかなんでこんなところに人が!? ちゃんと確認したのに!)


 あわあわと口を震わせ屈みながら頭を抱える少女に、太陽はもう一度同じことを問う。


「今瞬間移動してきたよね!?」

(ちゃんと見られてるぅぅぅぅぅぅううう!)


 涙目でかがみ込み小さくなる少女は、自分の世界に入って「なんとかしなければ」とぶつぶつ呟く。


「もしかして本物の超能力者?」

「……い、いやぁ。そんなわけ、ないですよほぅ」


 太陽の問いに対し、少女は明らかに動揺し声が裏返る。そんな様子のため、太陽は確信を抱いて彼女に詰め寄り、興奮気味に瞳を輝かせた。


「本物の超能力者初めて見た! すげえな! 子供の頃から使えるの? ていうか何組? 俺三組なんだけど! あ、俺は晴山太陽。君は?」

「わたわたわた私も、三組、です。伊能希、です」

「伊能希ね! よろしく!」

「あ、どうも」


 爆撃のような質問攻めを喰らわせた太陽は、うずくまっている希に手を差し伸べた。再び希を立ち上がらせると、その手を掴んだまま目線を合わせて話を続ける。


「超能力についてもっと教えてくれよ! 空飛んだりもできるのか?」

「い、いやぁ、それはちょっと、どうですかね……」


 太陽の勢いに押される希はタジタジで視線を泳がせる。


(超能力のこと、なんとかして秘密にさせないと……)

「瞬間移動以外に何かできることある? 物浮かせたりとかもできんの?」

「いやぁ……はっ! 私、超能力者じゃないです! 何言ってるんですかいきなり。超能力なんて、あるわけ、ないじゃ、ない、ですかぁ……」


 名案を思いついた! と言わんばかりの表情を浮かべた希はいきなり無理線な言い訳を早口で捲し立て始めた。だが、太陽の変人を見るよう目線に耐えられなくなり尻すぼみになっていく。


「それは無理があるだろ……」


 言葉に出して指摘までされた希は悔しげに唇を噛む。


(そうですよね。無理ですよねぇぇ……)


 心の中で涙を流す希は別の方法を思いつかなければ、と頭を捻る。


(言い訳は無理。記憶を消す? でも失敗したら大変だし、時間遡行は下手したら帰ってこれないし。でも……)


 手段を選んでいられる場合じゃない。超能力の存在を秘密にしたい希は、意を決して太陽と向き合う。


「お、お願いします! ここ、このことは、誰にも言わないでくだしゃい!」


 人と喋ることが苦手な希はどもりまくりながらも精一杯声を出し、地面につきそうなほど頭を下げた。超能力で解決する方法が思いつかず、シンプルに頼み込むことにした。

 長くて綺麗な髪が地面に付いてしまうのも気にせず、なんなら納得してもらえなければ土下座も辞さない覚悟の礼だ。


「えぇ……そ、そこまでしなくても大丈夫だよ」

「本当ですか!? 秘密にしてくれますか!?」


 希はガバリと顔を上げて太陽に詰め寄る。本当に秘密にしてくれるのか、と問いかけるように目を見つめる。希よりいくらか高い位置にある、キリッとした二重の童顔は嘘を言っている顔ではない。若干、挙動が激しい希に引いている。


「するする! 秘密にはするよ!」

「ありがとうございます! ……秘密には?」


 太陽の言い方が引っかかった希は眉間に皺を寄せてその意味を問う。太陽は人の良い笑顔を浮かべながら渋い表情の希を見つめ返した。


「秘密にする代わりに俺と友達になってよ!」

「友達……」


 友達ができたことのない希は太陽の言葉に戸惑う。嬉しい気持ちと、警戒しなければいけないことに複雑な気分になった。なぜならば、


『超能力かぁ。何ができるんだろうなぁ。やっぱ空飛んだり瞬間移動も憧れるし、念力とかも使えるのかな。そんな力があったらめっちゃ楽しいだろうなぁ。絶対毎日空飛んで遊ぶし、旅行とかもいっぱい行きてえなあ。てか、もしかして心が読めたり──今も筒抜けの状態か!? だとしたらちょっと恥ずかしいな』


 と、太陽がこのように考えているからである。太陽は喋る時と同じように、マシンガンの如く心の中で独り言を喋り続けている。


(超能力を使って遊びたいなんて碌なことがない気がする。けど……)


 背に腹は変えられない。超能力を使って遊ぶことなど断じて容認できないが、お願いをする側として、希は自分の方が立場が弱いことは理解している。


「友達は大丈夫です。むしろありがたいというか。でもでも、超能力は人前で使いたくないんです。普通の学校生活を送りたいので、太陽君の超能力で遊びたいという要望には答えられないです! すみません! でもこのことは秘密にしてほしいです!」


 希は意を決して太陽との交渉に出る。友達になるのは構わないが、太陽が考えるような便利な友達にはなれないことを率直に伝えた。裏表がなさそうな好青年みのある太陽であれば必死に頼めば分かってくれるだろう。と希は彼の良心に訴えかける。しかし、


「……俺超能力で遊びたいなんて言った? もしかして、やっぱり心も読めるのかぁ! すごいな!」

「あっ……」


 お願いを通したいあまり、希はうっかり口を滑らせ直接聞かれていないことへも答えてしまった。超能力に関する考察が当たった太陽は嬉しそうに口角を上げながら希を褒め立てた。


「しかぁし! 勝手に人の心を読むなんてプライバシーの侵害だよなぁ。不法侵入じゃないかねぇ?」

「ヒィぃいっう、すみませんすみません! でも、お願いします! これだけは勘弁してください!」


 またもや土下座しそうな勢いで謝り倒す希に、太陽は「冗談だよ」と笑いかける。


「じゃあ今日から俺たちは友達ってことで!」

「へ……? はい」


 太陽から差し出された手を希は恐る恐る握り返す。

 ぶんぶんと握手を交わし、太陽は何かに気づいたように表情を変え希の手を引いて走り出した。


「遅刻しそうなの忘れてた!」

「そうでした!」


 腕を引かれる希も続いて駆け出す。しかし、下駄箱で靴を履き替えているところでチャイムが鳴ってしまい、登校初日は二人揃って遅刻となってしまった。

 裏門で起こった運命的な出会いに、初対面の男子に手を引かれ走る状況。まるで少女漫画のような展開に、希は胸を躍らせ──


(るわけがない! 初日からバレるなんて、今後の生活が心配だよぉ……)


 超能力を隠し普通の学校生活を送りたい希は、自分の先を走る太陽を少しだけ恨めしそうに見つめた。

 そして、二人は教室へと飛び込んだ。

読んでいただきありがとうございます。

こちら必ず完結させますのでこれからもよろしくお願いいたします。

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