6.謎のウインドウメッセージ
[あ、ちょっとまってね]
文字が出てきた数秒後、ウインドウが一瞬だけ光る。
「……対話?」
すぐにシステムメッセージが続く。
[スキル︰対話]
[SkillRank︰B]
[どんな状態でも影響されることはない、会話・対話の専用スキル。心理的、または物理的距離のどちらかが範囲内に入ったときに作動する。よほどの状況じゃない限り、話し合うことが可能だろう。]
[どんな状況でも――それは、この場合にも適合する。スキル使ってみて]
言われたとおり、ウインドウに手をかざす。
〈スキル︰対話〉
頭の中でそう唱えた瞬間、手元にキーボードが現れた。
白と灰色が入り混じる大理石のような質感。どこかで見たような既視感が胸をよぎる。
[何かしらの対話用機器が出てきたでしょ?]
[それに僕への返事を書いてね]
少し迷いながら、指を動かす。
〔あなたは、誰?なの?〕
[それは言えない。約束があるからね]
〔なんて呼べばいいか迷わない?〕
[何でもいいよ]
〔僕のこと知ってるの?〕
[もちろん全部……とまでは言えないけどね]
〔あそこの2人は?〕
[あの子達は、彼女なら何でも知ってるはず]
〔彼女って、誰だよ。君のこと?〕
[それはいえないとだけ。]
[矛盾だと思う?]
〔とりあえず信じておく〕
〔この職業、何?〕
[うーん、君専用のやつかな?]
少しの間。画面がゆらぎ、ノイズが混じる。
そこへ、声が飛んできた。
「光希? ウインドウがどうかした?」
瀬戸さんがこちらへ歩み寄ってくる。
慌ててウインドウを閉じ、いつものように笑顔を作った。
「なんでもないよ。」
そして、最後にもう一度だけ入力する。
〔とりあえず、ENAって呼んでいい?〕
少し間を置いて、メッセージが返ってくる。
[……うん、いいよ]
[話したいことがあったら、スキルの履歴から連絡して]
その言葉を残して、キーボードごとふっと消えた。
おそらく物理的距離ではなく、心理的距離が離れたことでスキルが途切れたのだろう。
また一人になったとき、対話を試してみよう。
「って、光希! 話聞いてるぅ?」
ミレイちゃんの声が現実に引き戻す。
さっきまでの電子の余韻が、少しだけ心の奥に残っていた。
誤字脱字があったら報告していただけると幸いです。




