5.負担が大きい気がする。
[やあやあ]
そう、ノイズの混じった文字がウインドウに現れる。
[2人には内緒ね]
改めて2人を見る。
このメッセージに、2人は気づいていない。
──遡ること×時間前。
瀬戸さんとミレイちゃんが僕のために作った〈測定所〉という場所に、自主的には初めて……あの高校を含めると2度目のメタバース世界へと潜った。
仮想の敵と戦うことで前提の『職業』を――つまり、“どう倒すか”“どんな戦い方が得意か”を測定する。
いわば職業決めのようなものらしい。
(本来は自分で決められるそうだが、僕はまだ慣れていないので、今回は決めてもらうことにした。)
今稼働している情報管理システムは、一定の行動を分析して心理的傾向を再現し、集約AIがそれに合った職業を選んでくれるという。
決まったあとは、この場所でレベル上げなどができるよう、瀬戸さんが調整してくれるらしい。
……ほかにもできることはあるらしいが、瀬戸さん曰く、
「このくらいしか出来ないんだよなぁ、あのクソ野郎が!仕事増やしやがって、もっとパスコード簡単にしろっての!解析進まねぇんだよ、専門外やぞ!」
と、嘆いていた。
つまり“ミレイちゃんの管理権限の成長待ち”というやつらしい。
どこか、中学生同士の無茶ぶりに応えるようなノリだ。
準備が整ったのか、彼女がこちらに声をかけてくる。
「何か質問はある?」
考え事をしている最中、視界にベビーピンクの髪がふわりと入って驚く。
淡い茶色の瞳に薄いピンクの髪。大人っぽいというより、フェミニンな印象だ。
……まぁ、それはさておき、一番重要なこと――ではないが、気になることがひとつ。
「……武器って、何使うの?」
「全部!」
底抜けに明るい返事。元気なのはいいことだ、うん。
ただ、少しは遠慮してほしいという言葉は飲み込む。
回帰してまだ数時間、全部使うのは体に負担がかかりそうだったからだ。
事前情報によると、武器の種類が多すぎて選ぶのが大変だと聞いていた。
……いや、別に気が進まないとかではない。絶対に。
最初は武器の使い方から、セーブやログインなどゲームの基本仕様まで、二人がかりで教えてもらった。
だが少しできるようになった時点で、二人からの連絡が途絶えた。
どうやら『配信』の準備をしているらしい。どこかから僕を見ているのだろう。
けれど、ゲーム初心者で、右も左もわからない僕が今ここで何をすればいいのか――正直、全く見当がつかない。
だからただ心を無にして、片手剣から始め、いくつもの武器を試した。
最後の方はもうヤケになりながらも、なんとか測定を終える。
最後に手に取ったのは、仕込み傘――傘系武器だった。
使い終えると、純白のウインドウが表示される。
青色と聞いていたが、人によって違うのだろうか。そんなことを考えていると――
「早く『職業』教えてよぉ!」
と、ミレイちゃんがぴょんぴょん跳ねる。
「えっと……
[職業︰瑕疵の回帰者
選ばれし運命の回帰者。MCO唯一の一人限定クリエイト。
本来ならば“回帰者”とは最強格のクリエイトだが、“瑕疵”状態ではほとんどの恩恵を受けることがない。
本来、このクリエイトが選ばれるはずがない。何故なら、“回帰”は禁忌で、“瑕疵”は欠陥なのだから。]
……っとぉ。どゆこと?『選ばれるはずがない』って書いてあるけど。」
読み終わるころには、2人が騒ぎ始めていた。
「嘘だろ! あいつマジで勝手に増やすなって言ってたのに! 他にもある可能性出てきたじゃねぇか、クソがよぉ!」
と瀬戸さんが叫び、
「嘘です!! 私が知らないクリエイトがあったなんてぇぇ!!」
とミレイちゃんが崩れ落ちる。
いや、一体どういうことなんだ、…??
そんな中――
[やあやあ]
ノイズ混じりの文字がウインドウに浮かぶ。
[2人には内緒ね]
改めて2人を見るが、このメッセージに気づいた様子はない。
[君はやっぱり回帰したんだね]
……このメッセージを送ってきた人物もまた、僕のことを知っているようだった。




