1.彼はセカイ分岐の一つの要素である。
僕は、それなりに両親に愛されてきたのだと思う。
朝ご飯を済ませ、学校へ向かう。
自転車を使うには少し短く、寝坊したなら歩いていては間に合わない――そんな距離を、いつもの顔ぶれと並んで歩く。
少し飽き飽きする光景も、決められた道を辿れば、ほどなく学校が見えてくる。
この教室にも、もうすぐ別れの季節がやってくる。
来月、つまり十数日後には僕らは高校2年、すなわち「先輩」だ。
友人と他愛ない話をし、昼休みにはまた愛情のこもった弁当を食べる。
この世界で高校生になってまで学ぶことなんて、もう限られている。
先生という職業もAIに置き換わって、いったい何年が経っただろう。
そんなことを考えていたら、今日の授業もあっという間に終わっていた。
簡単すぎて、退屈だった。
基礎すら1年で終わらないこの高校が進学校だなんて、不思議な話だ。
「また“欠陥”が人を襲ったらしいよ」
帰り道、同じ方向の友人たちはそんな噂話で盛り上がっていた。
僕はいつも通り途中で別れ、家を通り過ぎ、そのまま――“あの場所”へ向かう。
両親には悪いけれど、僕には秘密がある。
年頃の高校生だ。一つや二つ、言えない秘密があってもおかしくはない。
もちろん、犯罪じゃない。だから、まぁ大目に見てほしい。
目的の“欠陥”がいると噂される寂れた神社の近くに着くと、僕はいつも通りの散策を始めた。
あの人が残した三角にも四角にも見える“目印”に、あの人からもらった指輪をかざす。
すると、そこに“道”が現れる。
その先で、あの人が僕を待っている――はずだった。
いや、待っていたのだ。確かに。
「師匠〜、あの目印、変えてくれません? 三角なのか四角なのか、はっきりさせましょうよ」
そう言い終わる頃には、師匠と呼ばれた“子供にも大人にも見える”女性の姿は、空間ごと掻き消えていた。
最後に、何かを呟いていた気がする。
けれど、それを聞き取ることはできなかった。
そして――この現実では存在しない“ナニカ”に意識を刈り取られながら、抗うこともできずに僕は目を閉じた。
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