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見習いの溜息

ブライアンの場合

「テレジアさま。聞いてください」

 どこぞの貴族令息がテレジアに相談を持ち掛ける。


「家族は私を蔑ろにして、あれをしろこれをしろと命令してばかりで、私の話を聞いてくれないのです」

「まあ、それは大変ですね」

 聖女の仕事の一つに相談に乗るのがあったが、この手の話をする輩はテレジアに話をして自分を意識してもらおうという下心満載なのを聖職の者たちはよく知っていた。


「――彼の素性は」

 元聖人の神官が問い掛けてくるので、見習神官であるブライアンはすぐに報告する。


「遊び惚けている道楽息子で、今は亡き祖母が溺愛しまくった結果あんな性格になったようです。弟が優秀なのでとっくの昔に弟を後継者として養育しています」

 それでも見捨てずに注意をしているのは親として立派だろう。祖母が健在だった時は何度も注意しても祖母が甘やかすので何も言えずに、祖母が亡くなってからは祖母は言うこと聞いてくれたのにと言うのがあのボンボン……貴族令息の言い分だ。


「すでにあのボンボンの家族から寄付金が……」

「またですか」

 迷惑料が、寄付金という名目で支払われている。


「テレジアさま。この迷える羊をお救いください」

「――ならば、少しの間。ここで神々の教えを学びましょう」

 こちらの声が聞こえていたのだろう。しかたないとばかりに提案しているテレジアに、口説くチャンスが来たと喜色満面――だが、すぐに追い詰められている人間ですと言う顔を装ってしおらしく、

「あ、ありがとうございます……」

 と、礼を述べる。


「今回はいつまでもちますかね」

「一か月持てばいい方でしょう」

 テレジアが面倒だなと思っているのを気付いていたが暇つぶしのおもちゃとして貴族のボンボンを楽しむことにした。


「こんな野蛮なことをっ!!」

 貴族のボンボンは聖女という言葉に騙されて、聖女の仕事だとテレジアが出ていくのを二人きりになれるチャンスとばかり共についてくるが、聖女の仕事はほとんど狩りだ。


 一番狩りが上手な者を聖女または聖人と崇めている様は幻想を打つ砕くには十分だろう。野蛮だ聖女のすることじゃないと文句ばかり言って狩りの邪魔をして、狩りの獲物がいなかったから肉にありつけないのにこんな草ばかり食べさせてと文句を言う。


 草ばかりになるのは邪魔をするからだろう。狩れる者は自分で捕らえた獲物は食べていいが他の者が狩った肉はもらえないので肉を食べたくて不満げだ。


「あのボンボン早く出て行かないかな」

「そう思うならここで教えを学べと言わない方がいいでしょう」

 テレジアの愚痴に神官が冷静に突っ込む。


「ここまでやっているのにどうしてあたしの行いが噂にならないんだろう」

 もう来る奴いなくなってもおかしくないだろうにと納得いかないとごねているので、

「ああ言う輩は自分の都合のいいことしか耳に入れないし、噂を知っている人は寄付金を渡している人らだ」

「………」

 こっちの正論にテレジアは黙る。


「狩りに行ってきます」

 黙っているテレジアを置いて一人で狩りに出る。


 弓矢を構えて、鳥など小動物を射止めるが、まだそれくらいしかできない自分に溜息しか出ない。


「イノシシとか鹿とか……理想はクマとか仕留められたら一気に聖人になれるのに」

 聖人になったら結婚してくださいと幼い時にプロポーズをした。


 聖女は結婚出来ない。聖人は可能だが、聖女の場合もし妊婦になっても狩りに出る必要があったら大変だからという理由で、聖女である間は結婚出来ないのだ。


「俺が聖人になって、テレジアを妻に出来たらテレジアは聖女を辞められるのに」

 まだそこまでの腕になっていない自分に溜息を吐きながら。今日も黙々と狩りを続けるのだった。

取り過ぎた肉は病気などで狩りの出来ない信者やその家族に配られます

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