幻想からの目覚め
堂宮累、32歳
自身の言動を恥じ、酒を飲んで
歩道橋から落ち
異世界に転生しました。
「って、なんだそりゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」
前世で堂宮は
「俺の封印されし悪魔の神眼が!!今この世に放たれようとしている!」
「俺は地獄の権化」
「余は混沌の迷宮の主戦死した勇者の魂の…おっとこれは前の世の話だったな」
という風にとても痛い男であった。
12歳で厨二病に罹ってしまいかれこれ20年
ずっとこのような言動をして
人から遠巻きにされ、親からも見放され
孤独に生きていて
会社で働く女性社員が
「堂宮さん?あーあの人って正直イタいよねwこの前とか自分の前世は創造神?だってwホント有り得な〜いw」
そんな言葉で
ようやく自身は何者ですらない
ただのイタい三十路のおっさんであると認識した。
自覚してからは猛烈に自分の言動がとても恥ずかしくなり、身につけている
髑髏のチョーカーや
十字架に目が着いているブレスレットや
龍のブレスレット
封印の呪印だと思っていた蚯蚓のような字が大量に書かれた眼帯
勾玉のネックレス
ジャラジャラと剣やら十字架やら骸骨やらのキーホルダーがついている
小学生男児が使うような鞄
その鞄に常に入っていた水晶玉
全て質屋に売り払った。
その金で居酒屋に行き、酒を飲んで飲みまくって
閉店で追い出されて
フラフラ歩いて歩道橋を渡っていた
そうしたら
偶然、とでも言うのだろうか
歩道橋を反対から歩いて来た人が居て
避けようと端に行ったら
足元から鉄の曲がる不快な音が聞こえた
そしてその後直ぐ、バキンッと
固いものが折れたような音がして1部の橋が崩れた
それは俺の足元も同じで
ガラガラ、と崩壊の音を立てて崩れる橋
酔いでぼんやりしていたんだろうか
死に直面したのに、あぁこの橋はそういえば老朽化で一人しか渡れなかったんだっけな、これで死んだら何死だろ……事故死か?
どうでもいい事を考えていた。
崩れた鉄の塊に埋められながら
走馬灯はやっぱりデマか何て思っていた
見える景色は段々ぼやけていき、意識が何処か遠い所に落ちて行くような感覚がした
そうして今に至る
鳥のさえずり、暖かな日差し
新鮮な空気、軽い体
「最初は極楽浄土とやらだと思ったんだけどな…」
違うと分かったのは
上空からのとてつもない咆哮や、羽の生えた兎
見るからに毒という見た目をした植物
それらに気づいてからだった。
「前の俺なら喜んでたな……」
だがしかし
「今の俺はこの状況で喜ぶどころか、生きれるとは思わんのだが……?」
見渡す限り、草木の覆い茂って自然豊かな森
少し遠くにはほぼ垂直のような山
街のような物は全く見当たらず
「そもそも何でこんな体軽いんだ……?」
自分の容姿を確認するすべもなく
目で確認できるのは明らかに縮んで健康そうな肌をした子供の手
「マジでどうする……?」
行動するにも今の俺がどの位の体力かも分からない
しかも地形も何も分からず持ち物は無し
「そもそも、なんで異世界転生……なんてしたんだ?」
漫画で見るような説明や補助も無く
死因は酔いが回って事故死
転生するような理由など無い筈だが
「そういや……」
前はよくやっていたステータス開くのとか…?
「いや、キツくね……?」
こちとら三十路のおっさんだぞ……
いくら前にやっていても、もう大ダメージ
黒歴史だ。
でもこれ以外に今、出来る行動がない
行動しなければ餓死する……
2度目の生、今度こそ真っ当に生きたい
「生きる為、これは生きる為、生きる為……」
そう何度も自己暗示するかのように唱えて
「……ステータスオープン」
その声に答えるようにゲームのウィンドウの様な物が空に出てきた
「……出てきたな」
だが堂宮には骨折したくらいのダメージ
とてもイタい
「とりあえず読むか……」
堂宮 累(7)
HP35 MP50
スキル 虚無の叛逆
スキル安楽死
スキル 叡智なる魔眼
「……嘘だろ」
見覚えがありすぎるスキル
「前世で俺が作ったやつ……!」
こうやって改めて字面を見ると
とてもイタい、アホじゃないのか
そう思うのだが……
「…HP35、水準はどれくらいなんだ……?」
「MPも水準が分からないし……」
スキルの内容は、俺が作った通りならば
虚無の叛逆は、そこに居ないものからの攻撃
見えない敵……とやらだな
安楽死は……言わずもがな、苦しみ与えず夢のような心地で死んだことも悟らせず……というものだ
叡智なる魔眼は相手の情報を全て見抜ける目だったか……
中学生が作るやつだろこれ……
しかもなんだよこの読み方、馬鹿か?
「……作ったの俺だったわ」
とても頭が痛い
「穴掘って埋まろうかな……」