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短編集  作者: やまのしか
6/12

腕相撲

私は今猛烈に後悔している。

何を後悔しているのかというと、

まあこういうことだ、

子供の頃、ヤンチャだった私は、よく父に叱られた。

父は乱暴者で、よく私を殴った。

理由も聞かず、私を叱った。

私は理不尽な父に育てられ、

ほぼ毎日のように、殴られた。

学校は、虐待に気づかなかった。

両親の外面が良かったから、

周りの誰も気づかなかった。

父は小さな自動車整備工場の社長だった。

元暴走族で昔は悪だったらしい。

立派に更正したというわけだ。

腕っぷしは強く、

その二の腕は丸太のように太かった。。

父はよく晩酌しては、

機嫌が良くなると、

私を呼んで腕相撲の相手をさせた。

当然、私は勝てるわけもなく、必死になってあがいた。

両手を使っても、かなわなかった。

父はあがいている私を見ながら晩酌するのが好きだった。

中学の頃、私は両手で初めて父に勝った。

すると翌日から両手は禁止になった。

その頃から父の勝ち方には容赦がなくなった。

私の腕を力任せにテーブルに叩きつけ、

私は手が痛くてヒーヒー言った。

その私を見ながら、父は晩酌するのが好きだった。

そして、私は高校生になった。

学業の成績はそれほどではなかったが、

野球で有名校に推薦入学することができた。

その高校は甲子園の常連だった。

練習はきつく地獄のようなしごきもあった。

100人近くいた新入部員は、その年の夏には1/10になっていた。

しかし私はこの家庭環境で育ったせいか、まったく辛いとは感じなかった。

日増しに逞しくなっていった私は、

体格で父にひけをとらなくなった。

そして、高校1年夏、初めて父に腕相撲で勝った。

なんともいえない気持ちがした。

嬉しいくせに、泣きたくなるような感情が湧きあがった。

なぜか胸が締め付けられた。

勝負に破れた父は黙って酒を飲み続けた。

時折肘を揉む姿が痛々しかった。

私は無言で自分の部屋に戻った。

すると、徐々に喜びが込み上げてきた。

自然にほほが緩んだ。

そして、翌日、父は私に腕相撲の相手をしろと言わなかった。

そして、その翌日、つまり今日、

私が学校から帰ると、父は友人と酒を飲んでいた。

私たちは一緒に夕食をとった。

父の友人は純平さんといい、運送会社の社長さんだった。

運送業というものは力仕事で、

純平んさんは筋骨粒々の体をしていた。

父の2つ後輩だそうだ。

昔は鬼の純平と恐れられていたと自分で自慢していた。

やがて夕食も終わり、

父はテレビを見ていた私に「今から純平と腕相撲してみろ」と言った。

純平おじさんは、もうその気になってテーブルを片付けだしている。

断るわけにはいかなくて、

私は純平おじさんは腕を組んだ。

純平おじさんの腕は桁違いに太かった。

力を入れても全く動かなかった。

私は、しこたまテーブルに腕を叩きつけられた。

父はケタケタと笑い出した。

何がそんなに嬉しいのか、腹を抱えて笑い出した。

「わかったか、俺に勝ったからって、調子に乗るなよwww」

父は大笑いして酒を飲んでいた。

大人気ない… … …

最低の奴だ………

私は、昨日、父にほんのわずかでも同情したことを、しこたま後悔した。

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