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短編集  作者: やまのしか
3/12

武道の達人

40年ぶりに京都の町に帰っていた。

早朝の鴨川の名も知らない橋の袂にさしかかったとき、

先方から男がこちらに向かって歩いて来た。

霧雨で姿がよく見えない。

大きな帽子が霧雨の中、浮き上がって見えた。

その男はガッシリとした体格で、背は私と同じくらい、

肩幅は私より若干広く、体重差で私より10キロほど重いだろう。

殺し屋・・・私は直感的にそう思った。

私は長いこと中東でボディーガードをしていた。

私のクライアントはアラブ人。

依頼料はオイル相場と相関し、1クール百万ドルを越えていた(1クール3ヶ月が相場である)

家族のいない私はもう金は必要ない。

人生の終りに日本に戻ってきた。

橋の向こうの相手の動きが早くなった。

距離は50メートル。

私は立ち止まり、相手の観察した。

相手から血の匂いを感じた。

相手も私の匂いに気づいただろう。

「手強いな・・・」私は瞬時にそう思った。

歩道から車道に飛び出る。

私は道路の中央へと位置を移した。

それがいまの私にとって最良の防御手段である。

しかし、彼も同じことを考えたようだ。

私の甘い考えは木っ端微塵に吹っ飛んだ。

「逃げるのは無理か・・・」私は本能的にそう感じた。

私はこれまで多くの要人をガードしてきた。

ボディーガードとして名が売れるに従って、敵も増えた。

恨まれても仕方がない商売だった。

足を洗うことにし、日本へ帰って来た。

生まれ故郷の京都で余生を過ごしたかったのだ。

霧雨が霧に変わった。

男は、帽子のつば下から鋭い眼光を放っていた。

私は人の歩く姿で拳銃を持ってるかどうか、すぐわかる。

男は銃は携帯してないようだ。

私は裏社会に入ってなかったら、

恐らく柔道かレスリングでオリンピックに出場できたであろう。

ボクシングでもメダルを取れたかもしれない。

それほど私は武道に長けていた。

相手は私を知っているはずだ。

それなのに銃なしで勝負してくるということは、

相手も武道の達人だということだ。

私たちの間は徐々に詰まっていった。

服のシワまでわかる距離になった。

私は相手の服の上から筋肉を観察した。

恐らく柔術系・・・拳のタコから打撃もできる。

私はどんな格闘家でも数十秒で殺せる自信はあるが、

今、目の前にいる相手は、私がこれまで相手してきた格闘家の中で、殺気が群を抜いていた。

戦場の匂いが流れた。

そうか彼は軍人だろう。

かつて合気道の達人は、鉄砲の玉が闇に光って飛んでくるのが見え、それを避けて走ったという。

私にも経験あるが、武道の達人が戦場で経験を積めば、

史上最強になる。

ゆえに相手は銃を選ばなかったのだろう。

私達は刃物が届く距離に近づいた。

しかし彼は刃物も持っていないようだ。

かつて武道の達人は言った。

「剣が降り下ろされると、その閃光は、抜かれる前に見える」と。

つまり、殺気は閃光となって現れ、相手に先に悟られる。

ゆえに相手も刃物を選ばなかったのだ。

どうやら相手は、私と同類らしい。

お互い殺気を消しているため間合いがどんどん狭まる。

どうやらこの勝負、

先に動いた方が負けらしい。

武道の達人は、相手が動いたとき、勝負をかける。

な、なんと言うことだ、私は汗をかいてる。

このようなことは十数年ぶりだ。

「空気投げしかない」

とっさにそう思った。

常人には無理な技だが、

武道の達人は、相手に触れずに投げることができる。

もう、それしかなかった。

しかし、気づいてしまった。

相手も同じことを考えている。

名も知らない鴨川の橋の上、

二人の武人が早朝、並んで立っている。

動かなくなった二人の武人の間には、

6月の生暖かい風が流れ、霧の静けさだけが2人にだけ聞こえていた。

集中するのだ・・・

気が流れた。

『ーーーーーーーーーーー』

一台の電気自動車が、

橋の真ん中で立っている二人の男を跳ねた。

ガソリン車と違い電気自動車はエンジン音が全くしない。

実況見聞しながら京都府警の交通係が二人立ち話をしていた。

「最近電気自動車の事故が多いな、とくに老人の」

「老人は耳が遠いから気づかないんだな、電気自動車の気配に、困ったものだ」

最近のっEVは性能がよすぎる。



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