悪魔の証明
「それは悪魔の証明だね、簡単にやらしてくれる、いい女なんていないよ」
俺は冷やかし半分にそう答え、アイスコーヒーをすすった。
2011年の早春の空は青々と晴れていた。
「そんなことはない、軽くなくって、それでいて情熱的な男には簡単にやらせてくれる綺麗な女はいるさ」
俊はそう捲し立てた。
俺は思わず笑ってしまった。
俊は不満そうに呟いた。
「もう3ヶ月だぜ、いい加減面倒くさくなってきたよ」
俊は今、かわいい女の子と付き合っていたのだ。
しかしながら、その娘が意外と堅くて、まだキスしかやらせてもらってないらしい。
「真剣に頼んでみたら?」
俺は真面目に答えてみた。
「それじゃ、逆に嫌われちゃうよ、彼女そんな女々しい男が一番嫌いなんだ」
俊が答える。
「だからさ、いい女はみんな簡単にはやらしてくれないものなの!」
俺は、駄々っ子に言い聞かせるように言い切った。
何度もループする会話に我ながら呆れていた。
「そんなこと言って、じゃあお前は世界中の女みんな知ってるのかよ」
俊がまた同じように突っ込んできた、まるで将棋の千日手だ。
「知るわけないだろ、俺まだ21だぜ」
「だったら、いないなんて何故言える」
「だからさ、それは悪魔の証明なの」
あぁあ、また完全に戻ってしまった。
「なんだよ、その悪魔の証明って」
「なんだ、知らなかったのか」
やっと話が先へ進んだ。
「いいか、世の中には、有ることを証明するより、無いことを証明する方が格段に難しいんだ、だからそれを、悪魔の証明って言うんだ」
俺は、さらに話を続け「例えば、カラスが全部黒いって俺が言ったとする、お前はなんで絶対黒いと言い切れると俺に反論する、そしてさっきみたいに、世界中のカラスを見たのかって言い出すわけだ、これに対して俺は、世界中のカラスを全部見たって言えるわけない、故に黒くないカラスはいないって証明する事はできないというわけだ」
俊は納得できないようだった。
「おい、白いカラスはいるぞ」
俊はポツリと俺に言った。
「勘弁してくれよ、突っ込むとこ、そこじゃねえだろ、だったら黒い白鳥でもいいよ」
「それもいる」
俊は笑いながら言った。
俺は手を外人のように広げ
「例題探すって難しいな」っと呟いた。
「たしかにそうだ」俊が続いた。
「最近はホモの女好きもいれば、レズの男好きも珍しくない」
俺はその辺りのことには詳しくないが、俊は詳しい。
俺は、喉かな3月の青い空を眺めながらポツリと言った。
「つまり、悪魔の証明のいい例がないないわけか」
そして話題を変えようと就職活動について訪ねることにした。
「もう就職先、あそこに決めたのか?」
「ああ、まあコネだけどいいかなって思ってさ、ところでさ、さっきの話だけど・・・」
なんだ、また戻るのか、私は辟易としていた。
「あったあった、《絶対ない》ものが、これだったら悪魔の証明の例題にぴったりだ」
俺は聞いた「何?」
「原発さ、日本の原発は絶対安全だよ、放射能漏れ事故は絶対に起きない、これ確実だよ」
今日は2011年3月9日
俊の内定先は東京電力だった。