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08 居たたまれない


コーンココココーンココココーン

校長室にノック音が響く。

ルクレツィアが軽快にノックを連打しているのだ。


「ルクレツィアです。校長せんせ! 入室許可下さいませ」

(早よ、返事しろよ!! ごらぁ!!)


廊下の死角からその様子を見守るレナート。

いつもはもっと完璧に猫を被っているが、目の前のルクレツィアは半分以上皮を脱ぎ捨てている状態だ。

しかも、何度目を擦っても、しっかりルクレツィアの頭部に魔王のような立派な角まで生えている。

怒りが幻影となってここまで見えるのは初めてで、レナート自身も驚いた。


校長の身の安全が保証されて確認できたなら、すぐに生徒会室に戻るつもりだった。

だが、ルクレツィアから聞こえる心の声は、非常に危険な言葉が並んでいて、聞くもおぞましい言葉もあったのだ。


人として心配になるのは当然である。

しかも、校長に対する態度は、いつものルクレツィアではないときたら、怖いもの見たさもあいまって、ここに隠れている。


さらに校長室の中から校長の心の悲鳴が聞こえっぱなしで、レナートが安心して帰れる状態ではない。


(きき来たぁぁぁぁ!! だから、ルクレツィア嬢が生徒会に関わっている時に、殿下に無理をさせるのは、危険だって言ったんだよ!! 殺されるぅぅ。今は留守です、帰ってください!!)


「あらら? お返事ないですけど、入室許可のお返事頂いた気がするので入りますねぇ!」


ルクレツィアが返事もないのに、無許可で入ろうとする。

が、鍵がかかっていた。


レナートは驚く。なぜなら今までどんな時も学校長は「私の部屋は、全ての生徒を受け入れる用意があるために、絶対に鍵などかけない」と豪語していたからだ。


「こんな鍵をかけて・・小賢しい」

そう言うと、ルクレツィアは美しい足で後ろ回し蹴り。

バーン!!ドアは鍵だけが壊れて普通に開いた。


(ぎゃー!!)

――学校長の声にならない声。


パタン。扉がしまるとレナートはその扉に近寄り、耳を当てて中の様子を探る。

ルクレツィアが暴れたなら、すぐに入って止めなければ!と、それだけを考えていた。


「おじ様、こんにちは。少々お時間よろしくて?」


「なななんだ? その気色悪いもの言いは?」


「あら? ご存じなくて? 学校にいる時はこれがわたくしの話し方ですのよ?」

ふふふふと忍び笑いがレナートにも聞こえるが、いつもの声ではない。

低ーい地を這うような声である。


「よよ用件はなんだ?」


「ご存じの癖に白々しいですこと。毎年学校に追加する図書は学校長と教師と司書が選ぶことになっているのに、なぜレナート殿下一人に押し付けちゃったのかしら? 理由によっちゃ・・斬る!!」


「ひえーーー!」


ルクレツィアの本音が表に出始めている。


「言います! 言います!!」

ガタン! ガシャガシャ、バタン!!


レナートには中の様子は見えないが、追い詰めるルクレツィアから逃げ惑う学校長が、コケたもよう。


「陛下だ!! 国王陛下に言われたんだ!!」


「・・・どういう事?」

ルクレツィアも思ってもみない返答に、戸惑いを隠せないようだ。

それは、扉の前で聞き耳を立てていたレナートも同じである。


――父上がなぜ私に、そんなことを?


覚悟を決めた学校長が、話し出す。


「レレ、レナート殿下は優秀だ。優秀すぎて誰も頼らないことが心配だと言っていたのだ。そして、陛下も仕事を沢山任せるから、学校の生徒会の仕事として、今回の学校の図書選定を押し付けるように陛下に、陛下に言われたんだよ。だから、私の一存でこんなことをしたんじゃないよー!! 聞いて? 聞いてる? ルクレツィア・・」


そう、レナートは非常に優秀で、陛下に頼まれた事をどんどんとこなしてしまった。

いずれ国王になれば、人に任せなければならない。それをせずに全て自分の手で行えば、すぐにレナートは潰れてしまう。

今は学生だ。だから、学校で多すぎる業務を課して、出来なければどうすれば良いかを、レナート自身に考えさせる機会にしようということだった。


レナートは力が抜けてしまった。

――そうだったんだ・・。 では、陛下の思いを勘違いして、張り切っていた私はたわけ者だな・・。

自嘲ぎみに笑いが出る。


情けないと落ち込むレナートを吹き飛ばす叫びが響く。

「はあ? そんなややこしいことをする前にてめえが息子に諭してやれよ!! そんなこと知らない王子は、体を壊すとこだったんだぞ!!」


怒鳴るルクレツィア。


「だだだだから、私は陛下に言われただけなんだってば!!」


「おじさんも同罪だよ。だからね、とってもいいお仕事をあげるね。50冊学校の図書を選定して頂戴」


「え? え? 50冊? 一人で?」


「だって、王子に200冊押し付けようとしたんでしょ? 50冊くらい簡単簡単。で、学校長が選んだ図書って大々的に告知してあ・げ・る! 適当に選んだら学校の生徒に知られちゃうからね。がんば!!」


「ルクレツィアちゃん!! 許してよーーー!!」


「ざっけんな!! 許せるわけねーだろ!!」


言い捨てるとさっさとドアに向かい、扉を力任せに開けた。


そこでレナートはルクレツィアと鉢合わせに・・。


居たたまれないレナートは狼狽えるが、ルクレツィアはいつもの女神の笑みを浮かべ「いつここへ?」と5月のそよ風のような声で聞く。


冷や汗を滴しながら「今! ・・たった今来たところだ」と嘘をつくレナート。

これはさすがに無理があるだろうと、もっと良い台詞が思い浮かばなかったのか?と自分に腹が立った。

だが、なんとルクレツィアにこの嘘が通ったのだ。


彼女は「そうですか」(セーフだな)と何事もなかったように去っていった。


――いやいや、しっかりアウトなんだけど・・。


その優雅な後ろ姿を見送り、校長室の中を見ると床に正座している学校長と目があった。


――こんな時、どうすれば正解か、誰か教えてくれないか?と嘆く王子。


仕方なく、笑顔で会釈して、足早にその場を離れたのだった。


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