07 気になる毒舌令嬢
6話目を朝早く投稿しています。
そちらを読んでから、7話目をお読み下さい。
その夜、レナートは王宮の自室で、溜まっている父から頼まれた書類の束を、捲ったり戻したりと心ここにあらずだった。
集中しようとしても、今日の保健室で目が覚めたときの事を思い出すと、意識が何度もそこへとんでしまう。
目を開けると白すぎる天井が・・。
あまりにもぐっすり寝ていたので、起きた時にどこにいるのか分からなかったのだ。
視線だけを横にすると、パイプ椅子に腰掛け、本を読むルクレツィアがいた。
静寂にページをめくる微かな音。
黄金の髪の毛は、1本1本金で出来ているのかと見間違うほどに輝いている。
俯き加減の顎のラインは神様が、端正に造ったのだろうなと見惚れた。
このままずっと眺めていたい。その欲望にゴクンと喉を鳴らしてしまう。
その音で、こちらに視線を向けて微笑むルクレツィア。
――ああ、私に優しい言葉をかけてくれ!!
そう願うレナートに、ルクレツィアの表の声はもちろん優しかった。
「レナート殿下、お目覚めになったのですか? 御気分はどうですか?」
(チッ もう起きやがったのかよ! もう1時間は寝かせようか? 勿論、物理的攻撃で!!)
「すすす、すっかり元気になったよ!! ルクレツィア嬢のお陰だ!!」
元気をアピールするために、ベッドから飛び起き、何故か屈伸までしてしまった。
その様子が面白かったのか、ルクレツィアがくすっと笑う。
その飾らない笑顔に気絶しそうになるレナート。
だが、倒れては二度と起きれないことになってしまうと耐えたのだった。
思い出しただけでも、なぜあの時屈伸したのかと、顔から火が出る。
しかし、あれ程沢山の女子生徒に囲まれていたのに、レナートの体調が優れない事に気がついたのは、ルクレツィア一人だった。
しかも、本当に心配してくれていた。
――恐ろしかったけど・・・。
表面上は完璧なルクレツィア。
容姿は勿論のこと、立ち居振舞い、学業、生徒会の仕事も全て完璧だ。
心の中の毒づく言葉と口の悪さが難点だけれど、それは自分が黙っていれば誰も知らないことだ。
(次期王妃にルクレツィアを考えても、誰も反対しないだろう・・・って何を考えているんだ! 私は?!)
いつの間に、ルクレツィアが自分の妃になればどんなに楽しいだろうかと考えていた。
(いやいや、レナート! 何を血迷っているのだ? あの毒舌と永遠に一緒だぞ? 安らかな生活が出来るのか?)
この危険な考えを、気の迷いと片付けて、さらに書類が山と置いてある棚に向かう・・。
が、その瞬間、『寝なさい!』と怒鳴る声が聞こえた。もちろん空耳だったのだが、額に青筋が浮かんだルクレツィアを思い出し、レナートは素直に寝ることにした。
放課後レナートが生徒会にいると、ルクレツィアとジョルジュと図書委員の委員長と学校図書館の司書が入ってきた。
図書委員長は真っ赤な髪の毛を三つ編みにした女子生徒で、入ってくるなり、頭を下げる。
「レナート殿下、今回は校長先生が図書館に追加する書籍を殿下一人に任せていたなんて知らず、ご負担をお掛けしていました。ですが、今年度の追加すべき書籍200冊を一人で考えて選ぶなんて無茶です! 皆で手分けして考えましょう!!」
力説する委員長の後ろで、皆がうんうんと頷く。
「しかし、これは学校長から任された仕事で・・」
レナートの反論を遮ったのは長年司書を務めている男性だった。
「いくらなんでも、沢山有る図書から一人で決めるなんて無理です。こんな無茶をさせるなんて学校長は何を考えているのか・・」
明らかに怒っている司書さん。
選定図書があっても大変なのに、選定図書もないこの国で学校図書を選ぶのは困難である。
普段は各学年の教師と学校司書さんで毎年選ぶ。それを生徒一人に任せるなんて考えられないのだ。
「学校長は今までと違う視点で図書を選定したかったのではないかと思い、引き受けたのだが・・」
レナートは図書を選び始めてから、とんでもなく大変な作業だと、引き受けたことを後悔していたところだった。
だからこそ、何か意味があるのではないかと、学校長があえて自分一人に任せた意味を考察し、出た答えが上で語ったものなのだ。
話し合いの結果。
「では、200冊のうち、100冊を生徒が選ぶことにして、後の50冊は先生が授業で必要だと判断した図書を選んで頂き、購入しましょう」
ルクレツィアがにこやかに提案。
だが、この時点であと50冊足りない。
「では、後の50冊はどうするつもりですか?」
当然の質問だ。
ルクレツィアがいつもながら、つらつらと心にもない事を言ってのける。
「この学校の事を一番に考えて下さる学校長がきっと、生徒にあった最適な本を選んで下さいますわ」
(膨大な中から一人の生徒に200冊も選ばせるなんて鬼畜な真似をしくさった校長。50冊でも大変な事を思い知るがいい!! だが、適当にうっかり稚拙な図書を選んだならば、赤っ恥をかくまで酷評してやろう!!)
目が据わっているルクレツィアを横目で見ながら、少しドン引きする。
しかし、ルクレツィアによってどんどん決まるので、肩の荷が降りて楽になっていった。
レナートが学校長から無理難題を押し付けられたことを知って、ルクレツィアが素早く対応し、考えてくれていたのだろう。
レナートはそのことに感謝していた。
「では、ルクレツィア嬢から提案がありましたように、掲示板に追加してほしい書籍と名前を書き込み、多い順に選んで、そこで学校にふさわしい図書ならば購入ということになりました」
赤毛の図書委員長は、それでいいですか?と皆を見る。
異議なしで、早速、学校の掲示板にその事が表記された用紙が貼り出された。
するとすぐに大勢の生徒が掲示板に群がって、自分の読みたい本や皆に読んでもらいたい本を書いている。
これで、一応の解決は見込めるようだ。
だが、これで満足するルクレツィアではない。
次のターゲットはもう決まっている。
学校長に結果と報告と後50冊を選んで欲しい旨を言いに、ルクレツィアが代表して行く事になった。
彼女が率先して手を挙げて、その役目を買って出たのだ。
いつもなら、面倒臭がって絶対にやらないのに・・。