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06 裏が表に


今日も書類が山積みの生徒会室。


夏休み前の学校図書館へ向かうレナートの足取りは重い。

最近忙しくて、あまり睡眠を取れてはいないのだ。

昼間は学業。夕方からは生徒会の仕事。学校から帰ると卒業後にはすぐに陛下の仕事の一部を引き継ぐために、その業務を一緒に手伝っている。


しかも、それだけではない。社交界に顔を出し、隣国の王族とにこやかに駆け引きが行われる商談。


まだ図書委員が来ていないので、レナートは、ゆったりしたソファーで待つことにした。

だが、いつの間にか眠っていたのだ。

慌てて起きると、隣には背筋を伸ばして読書をするルクレツィアがいた。


「ルクレツィア嬢・・そうだ、今日は学校図書に追加する書籍の選定方法がいつもと違うようになったと、報告するため、司書交えての話し合いをするはずだったんだが・・皆はまだ来ていないのか?」


「今日はレナート殿下の体調が優れないとの理由で延期させて頂きましたわ。だって、そちらで眠っていらした時、殿下の顔色があまりにも悪かったので、優先すべきは殿下の睡眠時間を妨げないことだと判断し、私が皆に申しました」


レナートは、不機嫌さを露に、勝手な真似をしたルクレツィアに、文句を言う。

「何故私に一言の相談もなかったのだ? 図書委員の者達も、今日の為に時間を空けてくれていたのに。これからは、勝手に物事を進めないで頂きたい!!」


強い口調ではっきりと言えたのは、眠ったお陰で、頭がスッキリしたからだ。


レナートはルクレツィアの心の声に備え、身構える。

が、何も聞こえない。


「少し、顔色が良くなりましたわ。これからは全ての事を抱え込まずに、出来る者に託し、振り分けませんか?」


じっと見詰め、レナートの返事を待つルクレツィア。

しかし、レナートの答えは変わらなかった。


「いや、これは私に与えられた仕事だ。それを他の者に任せるなど、自分が出来ないと周囲の人間に宣言しているも同然ではないか?」


(あー! 心配して損したー!! 頭のカッタイ王子なんてやっぱり知ったこっちゃないわ。てめえ一人で出来ないなら皆に助けてもらう。これが社会のルールだっての。もう、こいつなんて知ーらね!!)


「勝手をして申し訳ございませんでした。以後気をつけます」

ルクレツィアはスッと席を立つと、振り向きもせず、さっさと図書館を後にした。


残されたレナートは、項垂れ頭をかきむしる。

「違う、あんなことを言うつもりではなかったのだ。約束の時間に眠ったのは私だったのに・・八つ当たりをしてしまった」

しかも、上手くやれていると思っていたが、実際には疲れが溜まり、簡単なミスをおかしてばかりいたのだ。


反省したが、もうルクレツィアは既に帰ったのかいなかった。


王宮に戻ったレナートは、再び仕事に没頭し、朝方まで遅れを取り戻そうと頑張った。




次の日、生徒会室に向かい、ドアノブに手をかけようとしたところで、中からルクレツィアの心の声が駄々漏れに漏れている。


しかもかなりご立腹の様子じゃないか。当然扉の前で動けなくなるレナート。

(アイツがまた懲りもせず、青瓢箪みたいな顔で来やがったら、腹に一発入れて、気絶させんのが手っ取り早いな。まだジョルジュも来てないし。さあ、早く来い! うらなり王子!)


これは、今この部屋に入ったら、確実に仕留められる。

いつもはなんの気兼ねもなく入れる部屋が、地獄の入り口のようになっていては、ジョルジュを待つ方がいい。いや、待たなければ間違いなくやられてしまうだろう。


ルクレツィアの声が恐ろしいため、レナートは生徒会室から離れてジョルジュを待った。


その間、廊下に佇むレナートは女子生徒に囲まれてしまう。

「キャー殿下、私と一緒にお話ししましょう」

「何よ! 私が先に声をかけたのよ!」

「あなた達! この世は高位の貴族が全てを決めるのよ! 底辺貴族はそこを退きなさい!」

「んまぁ、貧乏でも高位貴族ぶるのね!」


キャーキャー喚く女達の声は、寝不足の頭に響いて、レナートは倒れそうになっている。


コォォォォーーー

そこに怒りの重低音を響かせながら、ルクレツィアがやってきた。

「皆様、そこを少し空けて下さらないかしら? わたくし、レナート殿下と重要な打ち合わせをしなくてはならないの。ごめんあそばせ」


いつもと同じ声。いつもと同じ美しい微笑みなのに、集まっていた女子生徒はピタリと争いを止める。

何故だかわからないが、ものスッゴク恐ろしいものに睨まれている気分なのだ。

きゅっと心臓を捕まれたような怖さが収まるまで、身動き一つ出来なかった。

だから、ルクレツィアがレナートの腕を掴んで皆の前を通りすぎても見送る他なかったのだった。


ルクレツィアに連れられてレナートが行った先は生徒会室ではなかった。


腕を引っ張られているレナートは、「どこに行くつもりだ?」と質問しても答えてくれず、心の声も重低音が響くばかりでわからない。

そして、ついた先は保健室。


丁寧な開け方ではなく、少々乱暴に開いた。


それから、ベッドに強制的に座らせると睨んでいる。

どんな時にも完璧令嬢の仮面をはずさなかった彼女がである。

額には青筋まで浮かんで、ピクピクしているではないか。


「真っ青な顔して、早よ寝ろや!!」

(お顔が真っ青ですわ殿下。少し横になった方がよろしくてよ)


「え? あの。ルクレツィア嬢・・」


「はあ? うっせんだよ!鳩尾(みぞおち)殴られて気絶かそれとも頸動脈を圧迫されて落とされたいか! それとも自分でベッドに寝るのか決めろ!」

(一刻も早く横になられた方が良いですわ)


絶えずゴゴゴゴと怒りの波動がずっと心に届くし、ルクレツィアは怒りで心の声が表に出て、建前の声が裏にいってるので、もうレナートはパニックでベッドに飛び込むしかなかった。


シーツを被って目を瞑ると、漸くルクレツィアの怒りの波動が収まった。


「お分かり頂いて良かったです。少し睡眠を取って、御気分が良くなられたら授業にお戻り下さい」


(寝ろ!! その間監視する!!)


「え? ルクレツィア嬢もここにいるの―」

『ですか?』と聞きたかっただけなのに、目を開けた途端に、ルクレツィアの額に青筋とゴゴゴゴ波動が始まる。

慌てて「ね、寝ます!!」と宣言して

目を瞑った。


レナートは余程疲れていたのだろう。すぐに眠りに落ちたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  ここまで読んで耐えきれず感想書きますね!  間とセンスが秀逸過ぎます。主たる人物は二人なのに周囲全てが重要人物になる話運びにあっという間に惹き込まれました。きっと飽きさせないだろう展開に…
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